番犬、対応は柔軟に。
ラトさんにちょっと‥とはいえ、手の甲にキスをされて、男性への耐性ゼロ!の私はもう真っ赤になって、お昼休憩の為に馬車が止まるまで私はもう無言で固まるほかなかった。
っていうか、なんでキス!??
どーいうこと??
あ、もしかしてワンコが甘える延長的な?!
いや、そもそもラトさんは犬の特性はあるけど、人間だっての!!!
私は茹だりそうな顔と頭で、ラトさんが繋いだ手を完全にパニックになった頭で見つめるけれど、横に座っているラトさんは終始ご機嫌である。ダメだ!!守護騎士の考えがわからない!!大型犬の考えもわからない!!歌の神様、こういう時どんな顔をすればいいかわからないの!!!教えてプリーズ!!
と、馬車が徐々にスピードを落としていくのに気付いて、顔をあげる。
「そろそろ休憩にしよう」
「ぜひ!!!!!!!!!」
私の言葉にラトさんはちょっと目を丸くしてから、優しく微笑む。
うう〜〜〜〜、だからその微笑みちょっと今は心臓に大変悪い〜〜〜!!慌ててラトさんからサッと目を逸らすと馬車が止まって、マキアさんが扉を開けてくれた。
「お疲れ様〜!スズさん、ヴェラートお昼にしようぜ!」
「は、はい!!」
ラトさんと一緒に馬車を降りると、そこはちょっと開けた小高い丘で‥、下の方を見ると白い神殿の周りに家々が並んでいて、港が見える。そこからいくつも大小様々な船が動いているのが見えた。
「わぁ‥、綺麗!こんな街だったんですね!」
「そっか、スズさん街をこんな風に見たことなかったんだ」
「あ、はい。馬車で移動して、すぐに神殿に入っていたんで‥」
「歌の乙女達は本当守られてるからなぁ〜」
マキアさんがしみじみそう言いつつ、馬達を木の幹に繋いで餌をあげている。
そうなんだよなぁ〜。歌の乙女は奇跡を起こせる歌の神様の使いとか言われているから‥。とはいえ、私の知らぬところで皆はちゃっかり遊んでいたり、守護騎士さんと恋人になっていたらしいけど‥。
「あ、そうだマキアさん。私、お弁当を頂いたので良かったら作っておいたお弁当食べませんか?」
「え、いいの!?やったぁ〜〜!ぜひ頂きます!!」
バッグから私とラトさんの分のお弁当を渡そうとすると、ラトさんは私の手からお弁当を取ると、ミラさんの作ったお弁当をマキアさんに渡す。
「えーと、ラトさん??」
「スズの作ったのは俺が食べる」
「え、ま、まぁ、いいですけど‥」
そう言って3人で芝生に座ろうとして、マキアさんが顔が固まる。
「待って!??今、ヴェラート喋った!???」
「あれ??!もしかして今知ったんですか?さっき話してましたよね!??」
「いや、なんかいつも通りだったから気付かなかったけど、ちょ、ヴェラート!!!お前、治ったのか!??」
マキアさんに話してなかったんかーい!!
ラトさんの両肩を掴んでガクガクと揺らすマキアさんを見て「不憫‥」と思ってしまうのはあれだろうか。ラトさんは面倒臭そうな顔をして、私の手を離す。
「ワン」
「はぁ?!何ふざけて‥」
「あ、違うんです。私と手を繋いでいると話せるんですけど、手を離すといつもの犬語に戻ってしまいまして‥」
「なっ!!そ、それって歌の奇跡で‥ですか?!!」
「わ、わからないんですけど‥多分?」
ラトさんを見上げると、小さく頷いてまた私の手を握る。
「と、言う事で俺はまだ守護騎士には戻れない」
「いや!!!戻れ!!!っていうか、報告しろ!!」
「すみません、やっぱり私から何か報告しておけば良かったですね‥」
「いや、スズさん気にしないで。悪いのは全部ヴェラートだから」
「は、はあ??」
「全く‥、この間の小石だって驚いたのに‥」
「小石?」
小石って何かあったのかな?
首を傾げた瞬間、ラトさんがマキアさんの口元を手で抑えた。
「‥とりあえず昼にしよう」
「ふぁ〜い」
「ちょっと!??ラトさん、今明らかに誤魔化しましたよね?何??何かあったんですか?」
私がラトさんに詰め寄ると、サッと手を離し「ワン」と鳴いた。
くっ!!ず、ずるい〜〜〜〜!!!
マキアさん、結構な天然です。
でもこれでも仕事はできる男なんです。




