番犬、待ては難しい。
パトの神殿まで馬車で半日掛かるので、豪華な馬車での移動は助かる。
なにせ道がガタガタだし、良い馬車じゃなければ私は酔ってたろう。
ベタルの神殿から、ポワノの村まで乗り合い馬車で行った時はそれはもう死にそうだったもんなぁ‥。神殿からの馬車の乗り心地が良かったのをあの時ほど痛感したことなかったっけ。
道はのんびりとした牧歌的な風景から、段々とレンガで出来た建物の数が多く見られるようになってきた。
「家が増えてきましたね」
「ああ、もう少し行けば海も見えてくる」
「あ、そっか。海の街でしたもんね。神殿からしか見えなかったから‥」
「そうか。ああ、ほら見えてきた」
ラトさんが小さな小窓から外を指差すと、少し高い木々の間から海がちらりと見えた。
「海!!懐かしい!」
「懐かしい?」
あ、これは前世の記憶からのセリフでした。
実家の近くに海があったから、何となく懐かしい気持ちになるんだよね。
「えーと、なんとなく懐かしい気分になる‥?って感じですかね」
「そうなのか。海が、好きなのか?」
「そうですね。なんだか見ているとホッとします。あ、今の村ものんびりしてて好きですけどね」
私の言葉にラトさんは小さく頷き、
「では、海の近くと山の近く‥どちらに住みたい?」
「え?住みたい場所??それなら海かなぁ」
「‥‥そうか」
「ラトさんはどっちですか?」
「‥俺はスズの側ならどこでも」
「番犬の鑑のようなセリフですけど、職場の近くが適切では?」
ラトさんは眉を下げて笑うと、私の手を軽く握る。
「‥番犬だからな。それは難しい」
「ラトさん、時々人間だって忘れてません?」
そういうとラトさんは、私の手を離して、自分の頭を私の肩に乗せる。
ちょ、ちょ、ちょーーーーい!!!!何をする!?
驚いて、体が固まってしまう私にラトさんが小さく笑う気配がする。
「‥ワン」
「ラトさん、何か言いたいなら手を‥」
「ワウ」
「うう〜〜、ず、ずるい!!なんかずるい!」
私は美形に自分の肩に頭を乗せられて、照れ臭くて緊張しっぱなしだというのに、ラトさんときたらクスクスと笑って余裕そうだし‥。ちょっとだけでもやり返したくて、手を伸ばしてラトさんの柔らかい髪をわしゃわしゃと撫でてやった。
すると、今度はラトさんがカチッと体が固まった。
「ラトさん?」
何かあったのかな?
ラトさんの顔を覗き込もうとすると、ラトさんがパッと体を起こして、
「ワウ‥」
「え?なんて?」
「‥ワウ」
「あの、手を繋いで貰えませんかね?」
ラトさんはちょっと照れ臭そうに私の手を握ると、ちらりと視線だけ私を見つめ、
「‥‥ワン」
「手を繋いでいるのに、犬の言葉で話さない」
「‥バレたか」
「バレバレですよ」
ラトさんは小さく笑って、窓の外の景色を見つめる。
私もつられて窓の外を見ると、綺麗な真っ青な海の風景が目に入って、その奥に白い神殿がちらりと見えた。
「‥神殿に入る前にお弁当を食べよう」
「え?」
「緊張して、食べられないかもしれないだろう?」
「流石ラトさんわかってる。大賛成です」
「では、マキアに伝えておこう」
そう言ってラトさんは馬車の運転をしているマキアさんに伝えようと、椅子から立ち上がるけれど、手は依然として繋いだままである。あの‥、こんな時くらい離してもいいのでは?
片時も離したくないとばかりに、馬車に乗ってからずっと私の手を繋いでいるラトさんにじわっと照れ臭くなってしまって、私はラトさんから手を離そうとすると、マキアさんにお昼休憩しようと話をしながらもラトさんの手がそれを拒む。指を絡めて、手を握るラトさんに私は顔が赤くなった。
気が付いてくれ!美形よ!!その行為、確実に心臓に悪いって!!
「ら、ラトさん、手を‥」
一旦翻訳アプリを休憩させてくれ!!
そう思ったら、私の手をラトさんが握りつつふにゃっと笑った。
う、うう!!その笑顔に弱いからやめて欲しい!
「ワン」
「ラトさん、手を繋いでる。喋れる、喋れるからね!??」
そう話すと、ラトさんは可笑しそうに笑って、自分の口元に私の手を引っ張ると手の甲に掠めるようにキスをするから、一気に顔が赤くなった。ちょ、ちょ、ちょっとストップ〜〜〜〜〜!!!!!!!!




