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番犬(現在居留守中)


歌の乙女達と世話役のおばちゃんがやって来て、ぎゅうぎゅうの我が家。

ラトさんがいるだけでも結構な圧迫感と思っていたけど、そんな非じゃなかったわ。乙女達は、それはもう興味津々で家の中をぐるっと見回す。



「っていうか、こっちが会いに行こうと思ってたのに‥」

「えへへ〜!スズの家も見たかったんだもん!」

「それにさ、守護騎士さん達も早めにベタルに戻ろうって言うしさ」

「ほら、魔物も最近出てるから‥、明るい内に帰った方がいいでしょ?」



そりゃそうだ。

こんな村にまで魔物は出るし、全く最近はどうなっているんだ。

乙女達は顔を見合わせると、一斉に私を見つめる。


「え、何?」

「これ、スズに渡しておくね」

「ん?何これ??」


一枚の白い封筒を手渡されると、フルラがニンマリ笑う。



「世話役のおばちゃんお墨付きの守護騎士さんの住所」

「は、はぁあああ!??」

「だって、つい先日酷くこき下ろされて捨てられたんでしょう?そんな時にはサクッと新しい恋を始めるのがいいって世話役のおばちゃんも言ってた!!」

「おばちゃぁああん!!??」



思わず封筒を握りつぶしそうになりつつ、ちゃっかりロッキングチェアに座ってお茶を優雅に飲んでいる世話役のおばちゃんに叫ぶと、ニンマリ笑って「おすすめだよ〜」って言うけど‥、若い子達にそういう教育はどうかと!??


「‥私相手じゃあ守護騎士さんは迷惑でしょうに‥」

「そんなことないよ!奇跡はあれだけど、スズの歌は上手くなってきたし!」

「ううう、確実に傷を抉ってくる!!」

「捕まえられる内に捕まえておいた方がいいよ!!」

「そんな簡単に言われても‥」


第一、いきなり相手に手紙を送るとか‥。

そもそもハードルが高いではないか。



「あ、そういえばその守護騎士さん今度パトの神殿に行くって言ってたなぁ」

「え?」

「冬祭りがあるでしょ?そこの警備に行くんだって!」

「えええ!?」

「え、なんでそんな顔をするの?何かあるの?」



あ、まずい!

パトの神殿に歌いに行くなんて言ったら、また今度はそっちにも突入しかねない‥かもしれない。慌ててなんでもないって話たけれど、お願いだから追及しないでくれ‥。


「なんでもそこのお祭りで歌う乙女を、ディオ様っていう若くて格好良い神官さんが是非にってお願いしたみたい!」


乙女達はその話をして、うっとりした顔をして「いいよね〜!」「夢あるよね!」「どこの乙女かなぁ〜」なんて言ってたけれど、私の顔は真っ青である。



なにせそれは私だし、なんで噂流れてるの?!!

奇跡もろくに起こせないポンコツの私が歌いに行くなど聞いたら‥、

‥‥うん、絶対黙っておこう。



「そ、そっかぁ。すごいねぇ‥」

「大丈夫だよ。スズは奇跡はあれだけど歌は上手になったし!」

「それさっきも言ったよね!??」



私が叫んだ瞬間、トントンと玄関の扉が控えめにノックされて、世話役のおばちゃんがドアを開けると、昨日笑いかけてくれた守護騎士さんが小さくお辞儀して、「そろそろお時間です」と話すと乙女達はちょっと不満げな顔をする。


「もう行かないといけないの?」

「もうちょっと話したかったのに‥」

「スズ、今度はベタルの神殿に来てね」

「今度は一緒に泊まろうね」

「手紙書くね!」


そう言って、一人一人私とハグをすると名残惜しそうに表にある馬車に乗って行く。最後におばちゃんが私の手をぎゅっと握って、



「男は五万といるからね!しっかり捕まえなさいね!」



‥とてもうら若い乙女に言う言葉ではないような気がするセリフを吐いてから、馬車に乗り込む。ちょっと遠い目になっていると、先ほどの若い守護騎士さんがやってきた。



前世ではよく見慣れた短い黒髪と茶色の瞳の人の良さそうな顔で、こんなに間近に見たの初めてだなぁと思いつつ、私は小さく会釈すると、その人は私に微笑みかけ、


「あの、手紙を受け取って頂けましたか?」

「へ?あ、はい‥」

「‥その、いつでもいいのでお手紙を頂けたら嬉しいです‥」

「え、あ、はい?」


ぽかんとしつつも、お手紙交換したいの?

と、思って頷くとその騎士さんは嬉しそうにはにかんだかと思うと、ペコッとお辞儀をして馬車の先頭に乗り込んだ。



え、えーと?つまりお返事を書けばいいのかな?

そう思っていると、馬車の中から乙女達が興味津々でこっちを見ていた‥。


「ちょっと!!ジロジロ見ない!!」

「だって〜〜、なんだかもう可愛らしくて!」

「スズ、お手紙を出すってことは「お付き合いしてもいいです」ってことだからね!」

「出すも出さないも自由だからね!」

「でもあの騎士さんはおすすめよ!」


乙女達とおばちゃんまで色々言ってはニコニコ笑って、ゆっくり走り出した馬車から手を振ってくれて、私もその馬車が小さくなって見えなくなるまで手を振った。



‥騒がしいことこの上ないけれど、なんだか久しぶりに神殿に帰った気分になったけど、さて、この封筒どうすればいいの??ちらりと白い封筒を見て、重い溜息を吐いた。




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