番犬、一安心。
朝である。
昨日はなんていうか色んな感情が渦巻くような一日だったけど、今日はすべてのプレッシャーから解放されて、私の目覚めは大変爽やかである。
「って、あれ、ラトさん?」
ラトさんのベッドはもうすでに空っぽだ。
もしかして今日も見回りに行ってくれたのかな?
起き上げると、肩から毛布がずれ落ちたけどラトさんの毛布だ。‥寒いと思って掛けてくれたのかな?
そう思いつつも、なんだかその静かな優しさが嬉しくて、そっと毛布を畳んでラトさんのベッドに置いてから着替えて身支度する。
ダイニングへ行ったけれどラトさんの姿はない。
やっぱり外かな?
祠の掃除でもしてから、様子を見に行こうかなっとバケツと雑巾を持って外へ出ると、本日も快晴!だけど、ひんやりと空気が冷たい。ゴシゴシと祠の中を掃除して綺麗にしたけれど、雑巾を絞る手が冷たい。
「もう冬だもんなぁ‥」
しかもあと1週間とちょっとしたらパトの神殿へ歌いに行く。
どうしよう、鳥がまた膝の上に飛び込んできたら‥。
思わず昨日の夜、私の膝の上に飛び込んできた鳥を思い出したけれど、歌の神様‥あれ完全にコントでしたよ?
思わず恨みがましい目で祠に立っている歌の女神様を見上げるけれど、まぁ、奇跡云々よりもしっかりまずは歌えたことを感謝しよう。手をパンパンと叩いて、
「昨日はお世話様でした!音程を外さずに歌えて感謝します!次回はパトの神殿で歌うので、そこもどうかひとつよろしくお願いいたします!!」
感謝したかと思えば、すぐにお願いをする私。
うん、信仰心は低いだろうなぁと思いつつも、お願いはただ!感謝もただ!私は今世も俗世にまみれているな‥。と、後ろからクスクスと笑う声が聞こえて、振り返ると木の後ろからひょっこりラトさんが出てきた。
「ラトさん、人のお願いを聞いて笑わないで下さいよ‥」
「ワウ‥」
「今日も見回りですか?」
そう聞くと、ラトさんは小さく頷く。
朝早くから偉いなぁ。
ラトさんは嬉しそうに私の側へ来て、手を差し出すので手を握ると嬉しそうに微笑む。
「安心するな‥」
「っへ?」
「昨日は離れていたので‥」
「ああ、そっか。大丈夫!今日は一緒ですよ」
私の言葉にラトさんはパッと顔を輝かせる。
「あ、でも乙女達を見送りに行く時は一人で‥」
「いや、村の入り口までは一緒に行こう」
「え、でも‥」
「散歩は大事だ」
それは犬として?人間として?
しかしラトさんの意思は固いらしい。私の手をギュッと握ったまま、いつもよりずっとニコニコしている。うん、今日もラトさんは嬉しそうだなぁ。毎回思うけど、こんな仕事もできるし優しい美形が私のようなポンコツ乙女の側にいていいのだろうか‥。
乙女達の昨夜の会話を思い出して、やっぱりラトさんはあの神殿でも相当な美形と評されていたんだなって思ったけれど、絶賛今は犬になりかけ‥?だしなぁ。
というか、神官長様は何をラトさんに掛けたんだろう。
呪いが強力になったって‥、何が原因なんだろう。それでもってそれをラトさんもわかってないのかなぁ‥。昨日はなんだか色々なことがあり過ぎて、頭がいっぱいいっぱいだったけど、ようやく色々考えられる。
「スズ?」
「あ、ああ、ラトさんの呪いってどうすればいいのかなって‥ちょっと」
そう話すと、ラトさんの目が丸くなる。
「なぜ?」
「え、だって、ラトさん元に戻れなかったら困るでしょうし‥」
「‥元に、か」
「え、ダメなんですか?」
「以前も言ったが、もう番犬だしな」
「ラトさん、そこはもう少し思い留まった方がいいと思いますが‥」
しかし、ラトさんは首を横に振り「冷えるだろう。中へ」と問答無用で私を家に連れていったけど、えーと、そこは私の家‥。まぁ、いいか。
家に入ってお湯を沸かしていると、ラトさんがさっと窓の外を見る。
「ラトさん?」
「‥乙女達が来たようだ」
「えっ!!ら、ラトさん!!大変!!裏の畑!裏の畑にひとまず!!」
そう言い終える前にラトさんは、ニーナさんから借りたメガネを掛けてから素早い動きで裏のドアを開けて外へ向かった。瞬間、我が家の玄関がドンドンと勢いよくノックされ、
「ヤッホーー!!!スズ、遊びに来たよ!!」
「本当に小さい家だね!!」「祠、超可愛い!!」
「「「「「あ、今更だけどお邪魔しまーーす!!」」」」」
「一気に騒がしい上に、もう家に突っ込んできたね君達‥」
ラトさん大丈夫かな?
そんなことを思いつつ、問答無用で家の中へ押し入るようにやって来た乙女達と世話役のおばちゃんで小さな家はあっという間にいっぱいになってしまったのだった‥。
若手の乙女達、一応名前を。
ララ、ミリィ、ファナ、ティナ、フルラとおります。
甘い物は正義!の年若い乙女達です。




