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ポンコツ乙女は今日も歌う。  作者: のん


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番犬、こっそりと呟く。

ラトさんの視点です〜。


神殿へ祈りに来た姫を庇って、呪いを受けた。


急激に体の四肢が引きちぎれるような痛みが走り、

膝から崩れ落ち、なんとか神殿の床に両手をつくと、自分の手が犬のような手足に変化していくのを見て、痛みよりも驚きに目を見張った。その瞬間、白い長いヒゲを蓄えた神官長が俺の前にしゃがみこみ、そっと肩に手を置いた。



「お主は動物にはならん」

「‥え」

「しかし、この呪いはかなり強力だ。‥一時的に更なる呪いを掛ける」



更なる呪い?

考えようとしても、強烈な頭痛と、四肢の痛みでなんとか頷くだけだ。

神官長は、俺の肩に手を置いたまま何かを呟いた。



『動物にはならない。一時的に呪いを止める代わりに対価として、好意を持つ相手に自分の想いを伝えると呪いが襲いかかる』



好意を持つ相手?

瞬間、先日異動してしまった歌の乙女の一人を思い浮かべた。



ずっと話したいと思っていた。

珍しく騎士へ近づきもしない乙女‥。

月明かりの下で歌を歌っていた横顔に、思わず足を止めて魅入ってしまったスズ‥。こちらへ来てくれなければ、守護騎士は話もできないのに、あの子はいつだって神官達の言いつけを守っていた。



体が痛くて仕方なかったのに、今度は胸が痛くなる。

今どこにいるのだろう。

会いたいと思っているのに、想いを伝えたら呪いが襲いかかる?



なんでそんな呪いを俺に掛けるんだと‥、そう思った時には医療室のベッドの上。俺は犬の言葉しか話せなくなっていた。団長も同僚のマキアも事態の深刻さに焦っていた。それはそうだ。一時的に呪いを止めたとはいえ、いつ犬になるか分からない。加えて庇った姫から「自分が世話をする」と申し入れられ、騎士団は軽くパニックだった。



そんな状況を見て、神官長に「守護騎士は休め」と言われる始末。

まさに青天の霹靂。

どうにもできない現実にしばし驚いて、動けなくなってしまった。



それでも団長やマキアが呪いを解呪できないかと手を尽くしてくれたが、どうにもできず‥。ふと、医務室のベッドから見える神殿に目を向けた。



スズは、どうしているだろう。

好意を寄せている相手として、はっきりと意識してしまった今、思い浮かぶのはいつも遠くからこちらをチラリと見ては、すぐに神殿の奥へ引っ込んでしまう姿だ。


元気だろうか。

今なら会えるだろうか。

話を、できるだろうか‥。


「ワン」


と、名前を呼んでみても犬の吠える声しか出ない自分の喉をそっと摩る。


‥話はできなくてもいいじゃないか。

ただ、あの瞳に映った自分を見たい。そう思ったら、すぐに医務室を抜け出して、スズの異動先について調べると、止めるマキアの言葉も聞かずに遠く離れている村へと馬に乗って一直線に駆け出した。



そうして、あの小さな村の入り口に「番犬募集」の張り紙を見て、まさにこれだ!と思って紙を引き剥がし、小さな家の横の畑に立っているスズを見て、胸が一層強く鳴った。



あんなに側にいきたいと思っていた相手が近くにいる。

話‥はできないけれど、今なら側にいる事ができる‥?



マキアに「犬になる」と板切れに書いて見せると、慌てて止められ、事情を話すから!!相手の了承を得ないで出来る訳ないだろ!と必死に止められた。‥確かにかなり無茶だったと、今は少しだけ反省している。



そんな無茶振りに関わらず、スズは自分を受け止めてくれた。

「奇跡」で話せるようになった時は驚きよりも喜びしかなかった。それなのに自分の奇跡が微妙‥とでも言いたげなスズの顔に、ものすごい奇跡だと伝えたかったけれど、話せる喜びで大分疎かになっていたと思う‥。そこはちゃんと反省してる。



そんな素晴らしい力を持っているのに自分の歌を下手だと思っているスズ。

緊張すると、知らず俺の手をぎゅっと握っているスズ。

俺をまっすぐ見上げてくるスズ。



嗚呼、神殿にいたら知ることの出来なかったスズに毎日心が揺さぶられ、心が踊り、どんどん好きになっていくのに、想いを伝えた時には犬になってしまうなんて‥。



それが寂しい、切ない、苦しい。

そう思うのに、お酒を飲んで酔って寝てしまったスズを抱きしめる今‥、幸せしかない。



目を覚まして、歌が上手だったと‥、

あの月夜の晩を思い出して欲しくて同じ言葉を言ってみたけれど、スズには伝わらず。じっと見上げてくるスズの瞳に映る自分を見て、ギュッと胸が締め付けられる。



そっとスズの手を離して、「ワン」と鳴く。

その言葉にこっそり「好き」を隠して。




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