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番犬、犬語で語る。


乙女達は、それからはもう何度も屋台へ一緒に行っては「あれ食べたい」「これ食べたい」と言うし、楽器を演奏する人達に合わせて歌ったり踊ったりと、それはもう弾けていた‥。



っていうか、そもそも考えてみれば私はあまり村に出かける事はなかったけど、他の子達はこうして田舎に行った時はこんな感じで楽しんでいたらしい。



「‥ずるい」

「なによスズ、今更いじけないでよ。いいじゃない今は自由の身なんだし」

「違うよー。10代の内にああやって楽しみたかったの!」



このグループの中では最年長のフルラに思わず零す。

ふわふわの長い茶色の髪を揺らして、クスクス笑うフルラは夜でも可愛くて、きっとこの子もあっという間にお嫁にいっちゃうんだろうなぁと思ったら、完全に母目線で切なくなってしまう。


「でも本当スズが元気で良かった。こっちの村でも魔物が出たって聞いたけど、それをスズをこっぴどく捨てた男が倒してくれたんでしょ?そこだけは評価しておくわ」

「‥‥うん、そうだね」


真実が言えないだけに私はもう遠くを見つめるしかない。

フルラは私を心配そうに見つめて、


「あーあ、ここにヴェラート様がいればなぁ」

「へっっ!??」


ラトさんの名前にギクッとして、私は目を丸くするとフルラが私を見てニンマリ笑う。



「今は静養してるらしくてうちの神殿にいないから寂しくてさ。今回の守護騎士も真面目なのだけだし。スズ、ヴェラート様格好いい〜とか思わなかった?守護騎士の中ではダントツに格好良かったじゃない?」

「‥‥神官の爺ちゃん達の話をちゃんと守ってたからわかりません」



まぁ、今はその美形が間近にいるから、毎回心臓が大変なことになってるけどね。美形って近くで見るより遠くで見てた方が心臓には優しくていいかもしれない。



「ねぇ本当に好きな人とかいなかったの?」

「え〜、だってそもそも話してな‥。あぁ、でも一人‥」

「えっ!!誰!??」

「あ、いや、夜にね。一回だけ神殿の中庭で一人で歌ってた時、「上手ですね」って言ってくれた人がいて、飴をくれたんだよね」

「で、誰!!??」

「見えなかった。なにせ建物の中から手を伸ばして飴をくれたんだけど、ちょうど月が陰っちゃって‥」

「なんだ〜!つまんない!!でも、その人が好きってこと?!」

「好きかはわかんない。でも、何となく印象に残ってる」



フルラはウンウンと頷いて、


「わかった!神殿に戻ったら守護騎士に聞きまくっておく!!」

「ねぇ、ちょっと待って!??一応神官の爺ちゃん達に見つからないようにね!」

「大丈夫、そこんとこ上手いから!!」

「ううう、年配の乙女としてここは看過すべきか嗜めるべきか‥」

「まぁまぁ、乙女の楽しみなんてこれくらいしかないし。大目に見てよ」


そんな30代のOLのようなことを言うでない。

とは思ったけど、まぁ帰ってからの楽しみがあった方がいいのか‥?そんなことを思いつつ、夜空を見上げると、丸い白い月がポッカリと浮かんでいる。



そうだったなぁ、あの日も綺麗な満月の日だった。

歌が上手く歌えなくて、皆寝静まっている夜にこっそり中庭に出て、一人で歌ってたんだ。その時に声を掛けられて、まずい!と思った時に、飴を渡されて‥。



なんとかお礼は言えたけど、誰だったんだろうな。

あの人は元気かな。

そんなことを思いつつ、フルラから「これも美味しいって」と渡されたお茶を飲んだら、なんだか体がポカポカと暖かくなるし、ふわふわする。



「んん?」



目をゴシゴシと擦って、目を瞑った記憶まではある。

そこからの記憶がない。



ぱちっと目が覚めて、ガラガラという音と共に体がほかほかと暖かい事に気付いた。けど、動けない。



「ん?」

「スズ‥、目が覚めたか?」

「え、あれ??ラトさん??」



驚いて目を開けると、座っているラトさんに私は横抱きにされているけど、ここはどこ!??乙女の皆は??私はラトさんを見上げると、


「スズは間違えて飲酒して、酔っ払って寝てしまった」

「え」

「酔いつぶれているのをニーナさんが見つけて、家まで送り届けると話し、馬車で送ってくれている」

「ええ!!そ、そんな‥」

「歌の乙女達は明日の午前中にここを旅立つそうなので、その時にまた会おうと話していたそうだ」

「至れり尽くせりな回答、ありがとうございます‥」


思わずそう呟くと、ラトさんが嬉しそうに微笑む。

う、うう、美形のめちゃくちゃドアップ‥心臓に悪い。

心臓がドコドコと鳴る音、聞こえてないだろうか‥。そんな心配な私をよそにラトさんは握っている私の手を優しく撫でる。


「歌、とても上手だった」

「う‥、あ、ありがとうございます」

「スズ‥」

「?はい、なんでしょう?」


何かあったのかな?

ラトさんの言葉の続きを待っていると、ラトさんはちょっと視線を彷徨わせると、そっと手を離し、



「ワン」

「いや、なんでそこで手を離すんですか」



思わずそう突っ込むと、ラトさんは眉を下げて微笑んだ。




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