番犬、見守る。
あっという間に夕方になって、私の緊張は色々とピークだ。
なにせまずベタルの神殿の乙女仲間が来る。あと冬の祭りの歌をそのメンバーの前で歌う!更にはラトさんの存在をバレないようにする。ってなんか普通に歌を歌うだけがものすごいプレッシャーの数が増えているような気がするんだけども!!??
「う、うう、お腹が痛い‥」
衣装を着終えて、あとはルノさんの迎えを待つだけなのに私はあまりの緊張にお腹が痛い。歌の神様、私の胃腸もついでに守って下さい‥。テーブルに顔を突っぷすと、ラトさんが私の言葉に驚いて駆け寄って来る。
「ワウ!??」
「あ、大丈夫です。ちょっと緊張がピークなだけで‥」
そういうとすかさずラトさんは私の手を握る。
「薬を持っているが‥」
「ありがとうございます。薬は自分で作ったのをさっき飲んだので大丈夫です。あとはもう精神的なものなんで‥」
ラトさんが心配そうに私を見つめるけれど、今回はなんだか色々重なっているだけだから‥。なんとか拳を握り、私は気合いを入れる。頑張れ私!!立ち上がれ!!乙女仲間がなんだ!!別に怖くはない‥と思う。
お腹をさすりつつ、椅子から立ち上がって、衣装の最終チェックをする。
ラトさんに頂いた髪飾りを鏡の前でもズレてないかチェックしたら、準備オッケーだ。ラトさんを見上げると、ちょっと心配そうに私を見つめる。
「スズ」
「はい?」
「‥一緒に歌っておくか?」
「っへ?」
大真面目な顔をしてラトさんが私を見つめている‥。
あの「ワオ〜」とかいうやつをするの?それとも普通に歌うの??思わず首を傾げると、ラトさんは私の手をそっと離す。あ、これ犬バージョンで歌うつもりか!?真剣な顔で音程を探りつつ、「わ、ワオ〜‥?」と歌おうとするラトさんにぶっと吹き出してしまった。
「ら、ラトさん大丈夫!ふふっ、なんであえて犬になるの?」
クスクスと笑うとラトさんは嬉しそうに微笑んで私の手を握る。
「番犬だからな」
「それ関係あります?」
「ある。笑顔でいて貰いたい」
「えがお‥」
至極真剣な顔をして、ラトさんがそう言って私にふにゃっと笑いかけると、胸がまたもギュッと苦しくなる。あの、その笑顔に私はかなり弱いんで控えて欲しいなぁ。慌てて俯いて、ラトさんの繋いだ大きな手を見つめる。
うん、緊張したらラトさんの姿を思い出そう。
犬の言葉で歌うラトさん、いいかもしれない。
静かに深呼吸して気持ちを切り替え、顔を上げるとラトさんが小さく頷く。
「‥いってらっしゃい」
「はい。では先に行ってきます!」
赤い夕焼けに染まった小さな部屋でお互い微笑んで、そっと手を離す。
すると遠くから馬の蹄の音が聞こえた。
もうルノさん来たんだな‥。ラトさんはちょっと寂しげに微笑むと、私の髪飾りにそっと触れて優しく頬を撫でると、手を離した。
そうして、自分の胸ポケットに入れておいたニーナさんから借りたメガネを掛けると、灰色の髪に灰色の瞳の青年に姿を変えて私を玄関へと連れて行くと、寝室の方へ移動したけれど‥、あんまりにも寂しそうな微笑みになんだか追いかけて頭を撫でてしまいたくなってしまった‥。わんこってしおらしいと逆に構いたくなっちゃうな。
そんなことを思っていると、玄関をノックするルノさんにハッとする。
「スズ、大丈夫か?泣いて目が腫れてたり‥してねぇなぁ」
「‥あの、なんでそんな残念そうなんですか」
「いや、うちの嫁に顔を冷やす薬草預かってきてさぁ」
「本当にルノさんは奥さんに感謝して毎日を過ごして下さい」
「あ、なんだ!?俺は毎日感謝してるぞ??」
「ほうほう、左様でございますか」
ギャアギャアと話しつつ馬車へ向かい、チラッと家の方を見ると夕日に染まった小さな家が目に入る。
これからラトさんは私を追って一人で村へ移動する。
どこか寂しそうな顔をしていたラトさんを思い出すと、ギュウッと胸の奥が切なくなって、馬車から今すぐに降りて走って帰りたい気分になる。
うん、歌をサクッと歌ったらすぐ帰ろう。それでもってラトさんの頭を撫でておこう。そう決心して私はルノさんの乗ってきた馬車に揺られながらチクチクと痛む胸を抑えて村へと向かっていった。




