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番犬、極悪人になる?


さて、あっという間に朝である。

つまり今日の夕方には私の神殿の乙女達がやって来る。

っていうか何の為に!??私は今更ながらそれに気付いた。‥まさか私とラトさんの話がこの小さな村を飛び越えて、ベタルの神殿まで届いたのだろうか?


神官の爺ちゃん達の「乙女は清く正しく美しく!!」のどっかの美少女戦士の口上みたいなスローガンを思い出しては、私は重い溜息を吐いてしまう。怖い、爺ちゃん達に叱られるかもしれないなんて‥いい大人なんだけど怖い。



祠の掃除をして、私はピカピカに磨き上げた歌の神様を見上げる。

どーーぞ歌の神様、乙女仲間にはラトさんのことがバレませんように!!あと怒られませんように!!いい大人が何を願っているんだと思いますが、ここは一つどうぞよろしくお願いします!!!



真剣に祈っていると、後ろからザクザクと誰かの足音が聞こえて振り返ると、ラトさんがそわそわした顔で私のお祈りが終わるのを木の後ろでちょっと顔を出して待っている姿が見えた。うん、神様この人のことをぜひとも内密にお願いします。



決して良い祈りとはいえない祈りを終えて、ラトさんの方へ振り向くと嬉しそうにこちらへやってくるのは、本日うちの村にくる守護騎士さん達や乙女達にバレてはいけない番犬、ならぬ守護騎士でもあるラトさんだ。


「ワン!」

「あ、はい、おはようございます。今日も周囲を見回りしてたんですか?」


そう言いつつ手を差し出すと、さっと私の手を繋いで微笑むラトさん。



「ああ、一応。歌を歌うのに魔物が出ては危険だから」

「それは有難いです。乙女仲間も魔物には出会ったことはないので助かります」

「そうか。それなら良かった」



誰に頼まれた訳でもないのに、自主的に調べてくれるなんて本当に偉いなぁ。私なんて神様にどうしようもない祈りしかしてないというのに‥。そう思って、ちょっと手を伸ばしてラトさんの髪を撫でてみた。


「‥ス、スズ?」

「あ、成人男性にすみません。つい、偉いなぁとかすごいなって思って‥。失礼でしたね、もうしないように

「大丈夫だ。構わない。いつでもしてくれ」

「圧がすごい」


真剣におねだりするラトさんに思わず吹き出してしまうと、ラトさんはちょっと照れ臭そうに目を逸らす。あ、ごめん、つい可愛いなぁって思っちゃったんだよ。朝食を用意しようとして、一旦ラトさんと手を離して私は野菜を洗いつつ、



「そういえば噂はどうなってますかねぇ」



と、呟いた瞬間、ラトさんがピクッと顔を動かして窓の外を見たかと思うと、寝室へ駆けていった。


「え、ら、ラトさん?!」


名前を呼んだ瞬間、ドンドンと玄関のドアが叩かれてびっくりする。

ちょ、ちょっと優しく叩いてくれ!!せっかく直したばかりなのに!!そう思って、ドアの向こうに返事をすると、ルノさんが血相を変えて家に飛び込んできた!


あ、そっか。

ラトさんは手を離している時は、犬の特性が強いって言ってたから、ルノさんが飛んでやってきたのをいち早く察知したんだなって思った。



「えっと、ルノさん朝早くどうしたんですか?」

「おい!!あの番犬どっか行ったんだって!??」

「噂がえぐいほどに早い!」

「おいおいおいおい、大丈夫か?今日ショックで歌えるのか??!」

「そんなヤワな性格じゃないですけど‥」

「だってお前、持っていたお金を丸っと持っていかれた上に、散々な捨て台詞を吐かれて、ボロ雑巾のように捨てられたって俺は聞いたぞ?」



おいおいおいおい、どんだけ尾ひれがついたんだ!??

ニーナさん、一体どんな噂を広めたんだ‥。絶対面白おかしく話したに違いない‥そう思って、ラトさんが戻ってきたらどう収拾をつけようかと思ったけど、前世でも言ってたな。人の噂も‥えーと何日だったけか‥。なんて思っていると、ルノさんが私の両肩に手をガシッと置いた。



「まぁ、男は世界にまだまだ沢山いるから落ち込むな」

「慰めにしては大雑把な気がする‥」

「そうかぁ?あ、そうそう忘れてたんだけど、今日お前のとこの神殿から乙女と守護騎士も来る!ワンチャンあるぞ!!」

「大雑把な事後報告ありがとうございます。なんのワンチャンですか、なんの」

「え、だって守護騎士と乙女ってよく恋仲になってないか?」

「ルノさんそれ知ってたの???!」

「‥‥お前、本当大丈夫か?これからも大丈夫なのか?」



心底心配そうに見つめられて、朝からちょっと色々削がれた気がする。

いいんだ、うちには番犬がいるし‥。そう思いつつ、心の中がとても寂しいのは何故でしょうか?歌の神様‥。




田舎の噂は音速を超える。

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