番犬、リード。
今日は早く起きて祠の掃除をしようと思ったら、ラトさんが横のベッドにいない。あれ?もう起きたのかな‥。ここの所いつも一緒のタイミングで起きていたのに、珍しい。
身支度をして、バケツと雑巾を持って祠の掃除をすべく外へ出ると、ラトさんが家の周りを剣を携えて歩いていた。
「ラトさん、おはようございます」
「ワン!」
そうだった手を繋いでないから犬語(?)だった。
ラトさんは私の方へ嬉しそうな顔をしてやってくると、すかさず手を握る。
「おはよう。今朝は早いな」
「それはラトさんでは?何か気になる事があったんですか?」
「一応、昨日魔物が出たので調べていた」
「ああ、なるほど‥。お仕事お疲れ様です」
私がそういうと、ラトさんはちょっと目を丸くしたかと思うと、可笑しそうに小さく笑う。
「まぁ、これが仕事だからな」
「そうでしたね。守護騎士って見回りもするんですね‥」
「そうだな。周囲に気を配るのも仕事の一つだ」
「はー!!騎士さんってすごいですね!」
しみじみと感心すると、ラトさんはまた笑って私の手をぎゅっと握ると、嬉しそうに私をじっと見つめる。
「‥こうして話せるのは、本当にいいな」
「そ、そうですね‥」
まぁ、あの、話せるのはいいんですけどね?
その視線になんていうかそわそわしちゃうんですよね‥。
「え、ええと、あの祠を掃除してくるので、そうしたら朝ご飯を食べて村へ行きましょうか」
「ああ、わかった。俺はもう少し周囲を見てくる」
「はい、気をつけて」
そういって、ラトさんが私の手を離す。
それにちょっとホッとしてしまうのを許して欲しい。
枯れた10代を過ごした女子にはその美しい顔はちょっと心臓に悪い。あと性格も優しいとくれば、心臓への負担は半端ないんだ。そんなことを思いつつ、井戸から水を汲んで祠の掃除を念入りにする。
ここに来た当初は寂しいなぁって思ってた。
誰かと話したいなぁとか、楽しいことも寂しいこともちょっと共有できたらいいなぁなんて思ってたから、そう考えればラトさんが来てくれて、まさに私の願いは叶った‥のかな?
まぁ、まさか番犬として人がやってくるとは思ってなかったけど、そういうのも人生ってことで?歌の神様を綺麗に拭きあげて、私はバケツと雑巾を片付けるとラトさんもちょうど家の方へ戻ってきた。
「ラトさん、大丈夫でした?」
「ワン」
「あ、そうだ。手、手を‥」
私が手を差し出すと、ラトさんはそれはもう嬉しそうにふにゃっと笑った。
う、うおおおおおおお、美形の過剰摂取は心臓に悪すぎる!!!
赤くなっていく顔をなんとか宥めて、ラトさんをちらりと見上げると、尻尾を全開で振っているような笑みで私を見つめる。
「初めて手を差し出してくれた」
「あ、そこ?!!」
「いつも俺からで‥、その、嫌ではないかと」
「あれだけ手を握ってて、実はそう思ってたとか‥」
「すまない‥」
「いえ、最初はびっくりしましたけど、リードと思えば心臓にも負担がないし」
「‥‥‥リード」
「今は違いますよ!!今は!!」
しょんぼりした顔をするので慌てて訂正したけど、翻訳アプリ的な立ち位置になったと思えばいいのか?けれどラトさんは私の「今は違う」の発言に持ち直したのか、顔を上げてニコニコと微笑む。うん、今後は翻訳アプリとして生きよう。
そんなことを思いつつ朝食を作って一緒に食べたら、いざ村へ!
ラトさんはそれはもう嬉しそうに私を見つめてニコニコである。
手だってバッチリ繋いでいる‥。
「ラトさん、うっかり話をしないように手を繋がない方がいいかもしれ‥」
「そんな‥」
「村、村に入るまでは手を繋いでおきましょう」
「大丈夫だ。話さない」
「ええ〜〜〜、でも大丈夫かなぁ‥」
そう言うとギュウッと私の手を握るラトさん。
握力!!握力いくつ!!?痛いんだけどおおお!!!
村の中へ入っていってもラトさんは私の手を決して離さず、そのままギルドの玄関まで行く。
「あら〜〜、朝から仲良しねぇ」
「あ、ニーナさん!おはようございます。って、何か大荷物ですね」
「そうなのよ〜。預かってくれって頼まれてねぇ」
「預かる?」
ニーナさんは木箱を抱えていて、なんだかずっしりと重そうだ。
すぐにラトさんが私から手を離すとすかさず持ってくれた。うむ、流石守護騎士!皆の頼れるヒーローである。ギルドの中へどさっと木箱を置いてくれたけど、木箱のマークに何かものすごく見覚えがある。鳥が二羽飛んでいる絵なんだけど‥間違いでなければこれ、ベタルの神殿のシンボルマークだ‥。
「これって‥」
「ああ、スズの神殿の荷物よ!乙女達が明日こっちに来るって」
「っへ!!!??」
ここに来る!??
私は目を丸くして、ラトさんを見上げるとラトさんも同じ顔をしてた‥。うん、びっくりだね。
今考えたら、美青年にリード‥。
字面がやばい‥(今気づいた)




