番犬、内緒話の続き。
ラトさんに衝撃の事実を教えて貰ったけれど、話の内容が大きすぎて私の頭にはしっかり入り込まない‥。
ひとまずお皿を片付けて、ラトさんとまたテーブルにつくと、すかさず手を繋がれる。こうしないと話ができないとはいえ、かなり恥ずかしいな、これ‥。そんな私の思考をよそにラトさんは少し声を潜めて話をしてくれた。
「スズが神殿を離れた直後、姫君が獣人の国へ輿入れが決まってべダルの神殿に祈りに来た話を以前したな」
「あ、はい。その時に呪いを受けちゃったんですよね?」
「ああ。だが以前言ったように神殿は呪いを弾く。呪いが掛かった魔物も本来は神殿に入る事はできない」
「え」
じゃあ、反王族派の誰かが意図的に入れたって事?
もしかして、それがうちの神殿の人間か、騎士団の人間ってこと?
私がラトさんをまじまじと見つめると、ゆっくり頷いたけれど、その顔はどこか辛そうだった。
「‥そんなことはないと思いたかった。あれからすぐに全ての人間のアリバイを調べたが、その時は何も証拠が出てこなかった‥。ただ、それがなかった事にはできない」
「ですよね‥」
そう言いつつも、ドクドクと胸が鳴る。
神殿の乙女仲間や、神官のお爺ちゃん達、おばちゃん、皆の顔が次から次へと浮かんで、皆は大丈夫なんだろうか、あの人達の誰かがそんな事をするのか?そう思うと、胸の中が不安や本当に?という疑問の気持ちで一杯になってしまう。
と、ラトさんが手を繋いでいるその上に、包み込むように手を置く。
「不安な気持ちにさせてすまない。ただ、今はどこにその密偵がいるか分からないのは確かだ。俺がここにいる事は本当に少数だ。だから呪いが一時的とはいえ解けたとなれば敵も焦って何をしてくるかわからない」
「え、なんで‥」
「この呪いは強力だ。‥解いた人物を狙いかねない」
な、なんてこった!
そんな事ってあるの?!
一気に不安感が押し寄せるけど、そうか‥。ラトさんの事をマキアさんが秘密にしたがったのって、ラトさんのこともあるけど、もしかしたら私の心配もあったのかも。‥うん、でもそこは怖いけど言って欲しいかな?
ラトさんは少し考えてから私を見つめる。
「ただ、限定的な呪いの解呪なので相手も察知してない可能性の方が大きい」
「あ、だから皆には黙っておこうと?」
「今の所は‥。危険な状態だと思えばすぐに話す」
そうか‥。
それならいいの、かな?
私は頷くと、ラトさんはホッとした顔をして私の手をギュッと両手で握る。
「‥色々、すまない」
「あ、いえ、それは大丈夫ですよ!だって一時的かもしれないけど、こうしてちゃんと色々教えて貰ったし、逆にいえば守護騎士のラトさんが我が家にいるってものすごく心強いですもん!」
なにせラトさんが来なければ、今でも私は隙間風の空いた家に住んでいた訳だし?そっちのが防犯的には危険だよね。ラトさんに笑いかけると、ふっと目を細める。
「‥スズは、いつでも前向きだな」
「そうですよ。後ろを向いてては、前が見えないし。そのまま進んだらどこかにぶつかるじゃないですか。まぁ、前を向いててもよくあちこちぶつかってますけど‥」
そう話すと、ラトさんはふにゃっと笑って「そうだな」って言うけれど‥。
頼む、その顔すんごく弱いからやめてくれ。
思わず目を逸らすけれど、ラトさんは私の手をギュッと握って離さないので大変照れ臭い。
「あの、ラトさん手を‥」
「ああ、すまない」
「報告はじゃあ今の所止めておいて、マキアさんが来た際にでもこっそり伝えますか?」
「そうだな。そうしよう」
って事は、パトの神殿に行くって言ってたし2週間後か。
そこまで思い出して、ハタっとする。
「まずい!!!冬の歌!!2週間後!大舞台!!!!」
「楽しみだな」
「た、楽しみどころかものすごい緊張します〜〜〜!!!」
「大丈夫だ。さっきの歌も上手だった」
「あ、あれは私の‥、いや、そうじゃなくて、あああ今からまた猛練習しないと」
「きっとうまくいく」
「そ、そうですかね‥」
「だから、今度はいつでも家の中で練習してくれ」
「いえ、それは照れ臭いのでやっぱりお風呂場でします」
「なぜ」
ラトさんがショック!といった顔で私を見つめるけれど、それはいつも通りのラトさんで‥。なんだかそれだけで、まぁ、この先もなんとかなるんじゃないかな?って思えて、ラトさんのようにふにゃっと笑うと、ラトさんが目を丸くして私をジッと見つめるけれど、何か顔についていた?




