番犬、内緒話。
ラトさんが話をできた!!
大変嬉しい!めでたい!!
「ただ手を繋がないと話ができないって‥」
「だが話はできる」
「いやぁ、そうですけど‥、常時手を繋いでられないですし‥」
「リードだと思えば変わらない」
「ラトさん、人間。人間だから」
この人、板切れで会話してても思ってたけれど本当にマイペースだ‥。
でも、手を離しても、繋ぎさえすれば話をできるのがわかったのは大きい!っていうか、まさに奇跡だよね?これって呪いを解いた事に‥‥は、ならないか。
「マキアさんと手を繋げばラトさん話せるのかな‥」
「それは遠慮したい」
「いやいや遠慮しないで下さい。仕事に復帰できるかもしれないんですよ?」
そう話すとラトさんは複雑な顔をするけれど‥、マキアさんもラトさんの呪いから解放をしようと頑張ってくれてるんだし、ちょっとは労ってあげてくれ。
「うん、とにかく話ができるのは大きい!ひとまずお昼を食べましょう」
「そうだな」
「うん、だからラトさん手を‥」
「ワウ‥」
「流石に手を繋いで料理はできませんからね‥」
私と手を離して、寂しそうな顔をするけれど‥。よく考えてくれ、番犬とはいえ常にご主人はリードを持っていないし、割と犬だって家の中ではのびのびしている生き物だ。しかも貴方は人間だ。
ラトさんはお昼を作る私をそわそわした様子で見るので、ジャガイモの皮を剥いてもらった。そこに立っているなら働いてもらおうじゃないか。
ジャガイモを始めとした野菜とお肉たっぷりのスープとパンを用意すると、ラトさんは嬉しそうに目を輝かせて、棚からお皿を持ってきてくれた。うん、ある意味番犬よりもそういう所は助かる。
「ワン!」
「お皿ありがとうございます。じゃあ、これテーブルに持っていってもらえますか?」
「ワン!」
うん‥。
この流れるような会話。
違和感を持たなくなってる私も相当順応性があるよね。
美味しそうにラトさんがスープを食べると、さっと私の空いた手に手を重ねる。
「美味しい。いつも美味しいのを作ってくれて、ありがとう」
「どっ、どうしたしまして!?」
「スズはいつも料理が上手だが神殿で作ってたのか?」
「ま、まぁ、料理は練習しますから」
「そうか。とても上手だ。神殿では知る事ができなかったな」
「そう、ですね」
ラトさんは嬉しそうに目を細めて私を見つめるけど‥、そうか、会話ができるってこんな感じなのか!!今更ながらに私はラトさんってそういえば人間だったんだって思った‥。どんだけポンコツなんだ私の思考。
「とりあえず、冷めちゃうから食べたらまた話を‥」
「そうだな」
ラトさんはニコッと微笑んで私の手を離してくれたけど、
こ、これはもう番犬とはいえないのでは!??
なんとなくワンワンと鳴いていたから、犬の括りでラトさんを見ていたけれど、話が出来るとなったら完全に男性だよね。いや、もう来た当初から普通に男性だったけど!!そりゃルノさんに「彼氏?」なんて言われるはずだよね‥。なんて今更気付いてももう遅い。
「今後、どうしたらいいんだろう‥」
私の呟きに不思議な顔をしてスープを食べるラトさん。
主に貴方のことですね‥。
「とりあえず、魔石でマキアさんに連絡しておきましょう」
「ワウ!?」
「いや、だって話はできたし‥」
そう言うと、ラトさんがすかさず私の手を繋ぐ。
「それは待って欲しい」
「なんでですか?話せた事実は知っておいてもらった方が‥」
「どこに密偵がいるか分からない」
ん?
密偵??
なんかものすっごい不穏な言葉が聞こえて、私は目を丸くしてラトさんを見つめると、
「‥密偵がいるかもしれないんだ」
「あ、もう一回ありがとうございます。っていうか、密偵って‥」
私がラトさんをまじまじと見つめると、少し目を伏せ、やがて私を見上げて手をギュッと握った。
「反王族派が神殿か、騎士団のどこかに紛れ込んでいる可能性がある」
「っへ?」
前世では漫画しか見たことのない展開に間抜けな声しか出ない。
反王族派が紛れ込んでいる??
ラトさんを見つめると静かに頷いた。‥えーと、どうやら今とても重要なことを教えて貰ったのは理解しました。とりあえず。
ようやく話せたね!!
‥早く話せるようにしたかったのに‥、長くなってしまった。




