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番犬、人語を発する。


さて、歌である。

目の前でとてもキラキラした瞳で私を見つめるラトさん。

せめて横に座るとかしない?そうお願いしたけれど、完全拒否されて椅子に座ってお互い向き合っている‥。



「で、では、僭越ながら歌をば‥。あ、でも何を歌えばいいかな。狼の時の歌がいいかな‥、でもそれ一回だけだったしなぁ‥」

「ワウ」



一回だけしか話せないのは困るよね‥。

うーん‥、ここは別の歌にするか?何がいいかな‥と思っていると、ラトさんが板切れを取り出して『好きな歌を』と、書いてくれた。


「好きな歌‥」


それはこっちの世界の歌の事‥かな。

でもどうせなら前世の慣れ親しんだ歌にしようかな。

なにせ狼の魔物の時は前世の歌だったし。


そう思って、目を瞑って歌詞を思い出す。

学校の帰り、よく友達とカラオケに行っては歌い、一人でも聴いていた歌。確か、あれは恋愛の歌だったな‥。こんな恋をするんだろうか、どんな人に出会うんだろうか‥なんて思って聞いていたのを思い出して、メロディーを口ずさむ。



今はラトさんが犬の呪いから解放される為に。

安心して過ごせる為に。



そう願いながら歌いつつそっと目を開けると、ちょっと顔を赤くしたラトさんが私をじっと見つめて聞いている。う、な、なんか照れるぞ、これ。そう思いつつも歌を止められず‥。照れ臭い気持ちを必死で抑えながら歌を歌い終える。


さあさあ、結果はどうだ!??

今度は私がラトさんの顔を見上げると、ラトさんはちょっと目をウロウロさせつつ私を見上げる。



「ど、どうですかね?」

「‥っ、」

「ん?」

「ワウ」

「え」

「ワウ」

「だ、ダメかぁあああああ!!!!!」



やっぱりダメだったか!!

そうだよなぁ‥なにせ私はポンコツの乙女。

さっきの魔物の時は、きっとたまたま‥うん、文字通り奇跡だったんだろう。


「ごめんなさい、ラトさん‥。もしかしたらと思ったんだけど‥」

「ワウ‥」

「うん、でもまぁ、まだまだ歌のレパートリーはあるし、頑張って歌います!!もしかしたら呪いが解呪できるかもしれないですしね!!」


ラトさんに申し訳ないけれど、とにかく歌って歌って歌いまくるしかない!数うちゃ当たるって言うし!!ラトさんはそんな私の言葉に眉を下げて小さく笑って頷いてくれた。


「よし!まずはお茶を飲んで、お昼でも食べましょう。それから色々歌ってみますか」


椅子から立ち上がって、台所へ向かおうとするとラトさんが嬉しそうに微笑んで、私の手を握った。そうして、



「ありがとう、スズ!」


「ん?」



今、ラトさん話さなかった??


「え、今、ラトさん言葉を‥!!」

「え?」

「ほ、ほら!!もう一回!もう一回話してみて下さい!!」

「‥す、スズ」

「ほらーーーーー!!!ええ、すごい!!話せたぁああ!!!」


ラトさんの手を離し、万歳した途端、



「ワン!」



ん?ワン??


「ラトさん、ふざけるのやめて下さいよ〜〜」

「ワンワン!」

「え、あれ‥?もしかして、また一瞬だけってやつ??」


そうだよな‥私の奇跡なんて一瞬か‥。

ガックリしてしまうと、ラトさんが慌てて私の手を握る。



「いや、歌ってくれただけで十分だ」

「え」



ラトさんも自分の言葉にびっくりして、口元に手を当てる。


「‥もしかして‥」


そう言って私の手を離して、


「ワン」


と鳴いたと思ったら、今度は私の手を繋いで、


「スズ」


と、名前を呼んだ‥。

も、もしかして‥、私と手を繋ぐと話せる‥とか?

一瞬、まさかね?なんて思ったけれど、ラトさんとお互い顔を見合わせると、ラトさんが静かに頷く。



「手を繋ぐと話せるらしい」

「まさかのまさかだった〜〜〜〜〜!!!えええ、話せて嬉しいけど、それじゃあ仕事復帰出来ない事には変わりない!!」

「大丈夫だ。スズと会話が出来る」

「違う、違う、そうじゃない!!」



どっかの歌のタイトルみたいに叫んだけど、本当にそうじゃない!!!

それなのにラトさんはそれはそれは嬉しそうに私を見つめて微笑むので、胸がぎゅうっと痛くなるほどドキドキしてしまった‥。いや、でもさ、歌の神様、そんな場合じゃない、よね?





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