番犬、報告ミス。
狼の魔物の手足を縛り、動けないようにしてからマキアさんは私とラトさんを交互に見て、
「ひとまずこの狼達はギルドに連絡して引き取ってもらいましょう」
「あ、そうだ!村の池で現れた魔物はどうなったんですか?」
「そっちはディオ様の寄越してくれた騎士もいたお陰で倒せたんです」
そっか、こっちに寄越すって言ってな。
今回は冬祭りは中止になって残念だったけど、念を入れての警備のお陰で村は助かったのか。その事実にホッとしていると、ラトさんが私の手を握ってキラキラした瞳で私を見つめる。
「ワン!」
「うん、歌ってくれって言ってるのは最早板切れがなくてもわかるけれど、その前にですね、なんで私の歌で草花が突然伸びて狼達をやっつけてくれたとか、そもそもなんで魔物が出たとか、そっちの原因を解明した方がいいと思うんですよ」
私がビシッと指差してそう話すと、マキアさんとラトさんが確かに‥といった感じで頷くけれど、あの、騎士様達よ大丈夫?しっかりしてくれ?
マキアさんが顎に指を当てて狼達を見つめる。
「そうなんですよね。魔物って大概魔石を餌にしてて、こいつらも本来なら魔石が多く出る場所に出現する魔物なんですけど、この村はそもそも魔石も餌になるほどの量がない。今までの魔物達は魔石のある場所で出現してたんで、数が多いな‥とは思ってたんですけど、今回はちょっと異質なんです」
「え‥つまり、原因はわかってないけど、まずい状況って事ですかね」
「そうですね。こればっかりは俺だけでは判断がつかないので、村に戻って神殿の騎士と、うちの隊の騎士と話をしないとですね」
ちょっと不安な気持ちがジワリと胸に広がると、ラトさんが私の手をぎゅっと握って私を見つめる。
「ラトさん?」
「ワン!」
「‥もしかして、励ましてます?」
「ワン!」
「‥ヴェラート、それは結構だがまずは呪いをなんとかして貰おう!さあさあ、スズさん!いっちょ歌って下さい!」
うっ!やっぱり忘れてなかったか。
マキアさんの期待に満ちた目に思わず私は後ずさるけれど、ズイズイとマキアさんが前にやってくる。
「え、ええっと、そ、そんな急に言われても‥」
「むしろ今ならいけると思うんです!!そうすればヴェラートは守護騎士としてまた働けます!」
マキアさんの言葉にハッとした。
そうだよね、犬の呪いが解ければラトさんは元の守護騎士に戻るんだ。
奇跡がまた起こせるかわからなくて不安になっている場合じゃない‥。守護騎士になるのだって大変だし、きっと本人だって仕事に戻りたいだろう。
そんな当たり前のことをなんで忘れてたんだ私‥。
今更ながらにいつか神殿に戻るラトさんの事を考えて、胸がちくりと痛くなってしまう。って、いやいや!!ラトさんはそれどころじゃないのに、私ときたら‥。
私はラトさんを見上げると、私の手をラトさんがギュッと握る。
「ラトさん?あの、今、歌を‥」
「クゥ‥」
私の言葉にラトさんが首を横に振る。
え、歌って欲しくないってこと?目を丸くすると、マキアさんがラトさんの肩に手を置いて、
「何言ってるんだ!ヴェラート!!犬になったらもう戻れないんだぞ!?」
「えっ!!?」
衝撃の事実に私は目を見開く。
犬になったら戻れない?!!
それってものすごく大変じゃないか!!
ラトさんを見上げると、ラトさんはジロッとマキアさんを睨むけれど‥。もしかして知ってたの?知ってて、黙ってたの??
「ま、マキアさん、そんな大事な事初めて聞いたんですけど!??ラトさん!!歌わなくていいなんて言ってる場合じゃないですか!犬になったら大変です!!今すぐ歌うから‥」
「ワウ!!」
「いや、耳に手を当てない!!聞いてラトさん〜〜!!」
「ワウワウ!!!」
「あ、こら、ヴェラート、逃げるな!!待て!!コラ!!」
私はラトさんを追いかけて歌を歌ったけど、走り回るラトさんを追いかけつつ歌って、ヘロヘロに‥。一方のマキアさんも、必死に両耳に手を当てて逃げるラトさんを追いかけたけれど、流石守護騎士、伊達じゃない。逃げ足も早かった。
わぁわぁと言いながらの追いかけっこは、心配して駆けつけてくれたルノさんに止められるまで続いた‥。本当、守護騎士の体力すごい。いや、その前にその重要な事項!!先にちゃんと報告してくれ〜〜!!!




