番犬、笑って欲しい!
パトの街の神殿の神官であるディオ様。
確か階級があって、神官長、大神官、小神官、神官の順だったけど、ディオ様ってあの若さで小神官だったよね‥。うん、だからなかなか偉い人だったのはわかる。けど、その偉い人がわざわざ小さな村の祭りの為に騎士を手配って‥。
「それだけ、今は危ないんですか?」
私がポツリと呟いた言葉は思いのほか部屋の中に響いた。
皆が一斉に私を見るので、慌ててしまう。
「あ、いや、さっきマキアさんから話を聞いたんですけど、かなり街から離れているこの村に?って思っちゃって‥」
あわあわと焦ってディオ様にそう話すと、ディオ様は静かに頷いて微笑む。
「そうですよね‥そう思いますよね。ただ、ベタルの街の付近では頻繁に魔物の出現の話を聞いておりまして、自衛は十分過ぎるくらいしておいた方がいいと思うのです」
「そ、そうですか‥」
「それにこの村は10年ぶりに乙女が歌うんですよね?それなら安心して歌える環境は必要ですよ」
「ディオ様‥」
その配慮、めちゃくちゃありがたいんですけど、私ポンコツでして!!!!奇跡どころか歌も音程を外す事に定評のある乙女なんです〜〜〜!!
思わず遠い目になると、村長さんの隣に座っていたルノさんがぶっと吹き出した。あ、ちょっと、絶対あとで奥さんに言いつけてやるんだからね!!ジロッとそちらを睨むと、マキアさんがディオ様を見て、
「それならばうちの騎士団の団長にも相談して、応援させて下さい」
「失礼、貴方は‥」
「申し遅れました。ベタル第2騎士団、1番小隊長のマキア・トラートと申します」
「第2‥、神殿直属の‥」
「はい、守護騎士と共に神殿を守らせて頂いてます」
え、そうだったの?
初めて階級を知って私がぽかんとした。
‥ラトさんを犬として迎える事になって、本来聞かなければいけないことすっぽ抜けてたわ。
ああ、そうか、だからすぐにパトの神殿って馬車を見ただけでわかったのか。納得していると、村長さんがマキアさんとディオ様を交互に見て、
「一緒にこの村の祭りを守って頂けるなら、これほど心強いことはありません。あの、どうかご協力のほどよろしくお願いいたします!」
そうお願いすると、マキアさんとディオ様は同時に頷くけれど‥。
ちょ、ちょっと待ってくれ〜〜〜〜!!!
って、ことはいつもの村の住人プラス神殿の騎士さんと、マキアさんのところの騎士さんも聞くってこと?!!し、失敗できない!やばい!今から緊張する!!
もはや魔物が出るかもとか、そんな事は頭から吹っ飛び、今や私は「音程外したらどうしよう」が最重要課題である。やばい、今すぐ私が逃げたい‥。魔物より怖い‥。
意識が遠のきそうな私に、ディオ様が柔らかく笑って、
「そんな訳で、スズさんは安心して歌って下さいね。本番、楽しみにしています」
「え、っと‥」
「スズさん!うちの騎士達も全力で警護しますから、ガンガン歌って下さいね!」
「う、あ、は、はい‥」
う、うう!!一切逃げ場なし!!
泣きそうな私はつい、ラトさんの手を探してしまう。
うう、今思い切り心細いので手を繋ぎたいとか‥。ごめんねラトさん‥。
そうして村長さん、ディオ様、マキアさんの三者であっという間に話はつき、詳しい事は後日‥となった。ええと、本番まであと1週間なんだけど‥、歌は大丈夫かな‥。
ディオ様とマキアさんをそれぞれ村の入り口で見送って、私は倒れそうな気分だ。どこからかサッと現れたラトさんと家に帰るけれど、色々ラトさんに聞きたいこともあるのに全く頭が回らない‥。
「ワウ?」
「うう、ラトさん‥どうしよう。歌をうまく歌える自信がない‥」
思わず呟いてしまうと、ラトさんが急いで板切れに文字を書く。
『一緒に練習するか?』
「一緒に?」
不意に私と一緒にワオワオ言いながら歌うラトさんを想像したら、ぶっと吹き出してしまった。そ、それはちょっと面白過ぎるかも?
「あはは!!それはそれでいいかもだけど、ちょっと面白過ぎて歌えなくなっちゃうかも!」
ワオワオ歌うラトさんを想像したら笑いが止まらなくて、思い切り笑ってしまった私。いかん、提案してくれたのに思い切り笑ってしまった。なんとか笑いを止めようとするけど、止まらない〜〜。クスクス笑ってしまう私をラトさんはまじまじと見ると、
「ワオ〜〜」
って、歌うように鳴くから、また吹き出してしまった!
「もう、ラトさんそれやめて〜〜!」
「ワオ〜」
「ダメだってば〜!」
お腹を抱えて笑ってしまった私をラトさんはちょっと顔を赤くしつつ、嬉しそうに見ていて‥、なんだかそれだけで、なんとかなるかな?って思ったのだから、私も大概単純なのかもしれない。
わんこは最高に可愛い。
(でも猫も最高に可愛い)




