番犬、警戒する。
朝食を食べ終えて、ささっと片付けをしてからマキアさん、ラトさんと一緒に村長さんのいる村へ歩いていく。と、村長さんの家の前に見たことのない立派な馬車が止まってる。
「え、どこの馬車だろ‥」
「あれ、神殿の馬車じゃないか?なんでこんな所に‥」
「え、神殿?」
「ああ、あれは確かパトの街のシンボルマークで‥。まずい、ヴェラート隠れろ!」
ラトさんはマキアさんがそう言い終える前にサッと何処かへ隠れてしまって私は目を丸くする。
「え、どうして‥」
「ちょっと事情が‥」
まだ何かあるの!?
ちゃんと説明して欲しいんだけどとばかりに私がマキアさんをじとっと見上げると、マキアさんは焦った顔で、
「な、なんでここにパトの神殿の馬車があるのかな〜〜?」
「‥もしかして、冬祭りにくる予定の神官さんが断りに来た、とかじゃないですか?」
そう言った瞬間、馬車の扉が開かれて、真っ青なローブを着て男性が降りてくる。薄茶の髪に青い瞳、目元は柔らかい甘めな顔立ちのなかなかの美形だ。ひゃあ〜〜、ラトさんとはまた違った美形だなぁ。目を丸くしていると、その男性は私を見るなりにっこり微笑む。
「お久しぶりです。スズさん」
「え?」
「パトの神殿のディオです。覚えてはおりませんか?」
「あ!ディオ様?!し、失礼しました!」
慌てて頭を下げると、ディオ様は小さく笑う。
「そうでした。貴方の神殿の神官達に私はとにかく遠くに遠ざけられてましたね。顔を覚えるどころじゃありませんでしたね」
「‥ええと、はい。その節はうちの神官達が申し訳ありません」
うう、神官の爺ちゃん達〜〜。
やっぱりやり過ぎなくらいだったんじゃない?笑われてるよ〜〜。
思わず顔が赤くなる私の前にサッとマキアさんが出てきて、敬礼をしてからディオ様を見つめる。
「ディオ様は、本日はどのような用件でこちらに?恐れながら、今はあまり良くない状態だとご存知では?」
マキアさんの言葉に私はドキッとする。
そ、そうだった。こんな危ない時にいかにも神殿の馬車をここへ走らせてくるって危険行為では?
と、ドタドタと村長さんの家から足音が聞こえて、勢いよく玄関の扉が開かれる。
「あ、神官様に、あれ‥スズ??何かあったのか?」
「えーと、お祭りについて話しがあったんですけど‥」
「祭り?あ、ええと、ここではなんなので、皆さんどうぞ中へ!」
「は、はい‥」
チラッとディオ様を見ると、にっこりと笑って私を先に室内に入るように促してくれたけど‥、そんなえらい神官さんが自ら何をしに来たんだろう。
あとラトさんは大丈夫だろうか‥。
後ろをチラチラと見ると、マキアさんがこそっと「ちゃんと側にいるから大丈夫です」って言うけど、側??どこにいるんだ?
それも考えてみるとちょっと怖いんだけど‥。
ちょっと意識が遠のきそうになりつつ、大きな部屋へ通されると、村長さんが既に待っていて、私達やディオ様を見て慌ててお辞儀をすると、大きなソファに座るよう促されて、私とマキアさんとで座った。
村長さんはちょっと緊張した顔でディオ様を見上げる。
「ディオ様、わざわざこちらへ訪問ありがとうございます。本日はどのような用件で?」
「この度、魔物が活発化していると連絡を受けまして、村のお祭りで万が一の事があっては危険だと思いまして‥。もしよろしければこちらへ神殿の騎士達を派遣したいと申し入れをしに参りました」
え、わざわざこんな小さな村に?!
私とマキアさんは顔を見合わせる。
村長さんはその話は初耳だったらしく、驚いた顔をして持っていたお茶をこぼし、ルノさんが慌てて拭いたけど、うん、そうだよね。びっくりするよね。なにせこの間の魔物も30年ぶりかもって言ってたし‥。




