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番犬、喜ぶ。


朝、目を覚ますといつもよりポカポカする。

あれ〜〜‥もう春?いや、これから来るのは冬だろ。

自分で自分に突っ込んで、目を開けると、青灰色の瞳が私を嬉しそうに見つめている。至近距離で。



至近距離で。



「わぁああああああああ!!!!!」



ガバッと起き上がり、自分のベッドへ飛び込み、毛布を頭から被った。

すみません!!こっち来るなよ!!ってあれだけ散々言っておいて、ラトさんのベッドで寝落ちしたのはこのアホな私です!!


「ご、ごめんなさい!!ラトさん!!昨日、苦しそうだったから‥子守唄を歌ってたら寝ちゃったみたいで‥」


土下座スタイルで謝ると、シンと静まり返る寝室。

まずい!!!もしかして大変怒らせた?

そろっと顔を上げると、ラトさんが目を見開いて私をじっと見ている。ヒィ!!やっぱり怒ってるかも!!


「あ、あの、もうそちらでは寝ないようにしますので‥」

「ワウ‥」

「え、なんて?」


ラトさんの鳴く声が聞こえるけど、頭を再び下げてしまったので、どんな表情をしているのかわからない‥。うう、何か言いたいことがあるのかもしれない。観念して体を起こすと、ラトさんが板切れにものすごい速さで書きなぐって、私に見せた。



『もう一回歌って欲しい』

「いや無理です」

『なぜ?』

「神殿に私の世界の歌は歌っちゃいけないって言われてて‥」

『でも聞きたい』

「‥ラトさんが寝てる時なら」

『今』



ね、粘るな〜〜。

ラトさんはじっと私を懇願するように見つめる。

そ、そんなにか?そんなに聞きたいのか?‥でも、まぁ、人様のベッドで爆睡かましちゃったしなぁ。


「‥じゃあ、少しだけ‥」


そう言うと、ラトさんの目がパッと輝く。

そんな期待に満ちた目で見られると大変歌いずらいけど‥、子守唄‥でいいかな?



すっと息を吸って、歌おうとしたその瞬間、玄関のドアがドンドンと勢いよく叩かれて、私とラトさんはビクッと体を跳ねさせた。


「え、な、何??」

「グルル‥」

「ラトさん、すんごい怖い顔になってる。とりあえずすぐに行きましょう」


ブスッとわかりやすく不満そうな顔になったラトさん。

大型犬がヘソを曲げたぞ‥これ。



どうしたものかと思って、そっと頭に手をやって、優しく撫でてみた。



「あ、あとで歌いますから‥」



そう言うとラトさんはパッと顔を輝かせ、嬉しそうに私をギュウッと抱きしめた。



「へっ?!」

「ワン!」



ラトさんは私の頬に顔をすり寄せてから微笑むと、そっと腕を離して、上機嫌で玄関に向かった。



えっと‥

私は突然のハグに頭が真っ白なんだわ。



しばらくぽかんとして、ハッと正気戻った。



えーと、今はちょっとこの問題は横に置いておこうかな?

でないとこの部屋を出てからどんな顔をすればいいかわからないし‥。そうして急いで服に着替えて、髪を結いながら部屋を出ると、目の前には焦った顔のマキアさんが立っている。



「ま、マキアさん?」

「すみません、こんな朝早く。その、色々あったのを村長さんに聞いて大急ぎで駆けつけて‥」



ゼエハアと息をしているマキアさん。

ラトさんが水が入ったコップを渡すとマキアさんは奪うかのようにコップを取って、一気に水を飲み干した。そんなマキアさん、なんだかあちこちボロボロである。


「マキアさん、何かあったんですか?」


私が聞くと、マキアさんは眉を下げて私とラトさんを交互に見つめる。



「実はヴェラートをここへ送った直後に魔物が増え始めて‥」

「増え始めた‥?」

「‥原因を探ってる所なんですけどね。それであちこち討伐してまして」



魔物‥。

私とラトさんが顔を見合わせる。

もしかして、あの魔物も魔獣も増え始めたせいでこの村に来たって事?

だって、村長さんが本来こんな村にそんな魔物出たことがないって言ってたもんね。


「とにかく魔物退治に追われて‥、昨日ようやく村長さんにヴェラートについて聞こうとしたら、魔獣が出たって聞いたもんで大慌てでこっちへ駆けつけたんです」


えーと、それはもうやっつけたけど‥。

もしかしてそこは聞いてなかったのかな?

ラトさんが板切れに『もう倒した』と書いて見せると、マキアさんは椅子から崩れ落ちるように倒れた。



「あ、やっぱり?魔獣が出たってだけ聞いて、もう俺頭が一杯になっちゃって‥」

「そ、そうだったんですね。心配して駆けつけて下さってありがとうございます。あの、とりあえず疲れたでしょうし、朝食でも食べて行って下さい」

「あ、ありがとうございます!!」



マキアさんは目を潤ませて、私の手を握ろうとした途端、

ラトさんが私の体をヒョイッと持ち上げて椅子に座らせ『水で十分だ』と書いてある板切れを私に見せた。



「‥ラトさん、それは流石に可哀想です」



私の言葉にラトさんはがっかりしたような顔をしてジトッと見つめるけど、そんな顔をしてもダメなものはダメである。ううむ、大型犬の躾って難しいな‥。




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