番犬、当然守ります。
村長の息子さんのルノさんはほどなくして、衣装やら楽器を持ってきてくれた。
「一応サイズが合うか確認しておいてくれ。特に幅とか」
「よし、あとで絶対奥さんに言いつける!!」
本当になんでそういうかな?
ジロッと睨みつつ衣装の入った箱を奪い取って、部屋で衣装の入った箱を開けてみる。と、中には真っ白なワンピースが綺麗に折り畳まれていた。
「うわぁ、綺麗‥!」
衣装は村や街によってデザインは違うけど、冬は真っ白と決まっている。
春は淡いグリーン。
夏は淡いピンク。
秋は少し落ち着いた赤か黄色。
そして冬は白。
季節のイメージカラーなんだろう。
鏡の前でクルッと回ってみると、贅沢に使われたフレアスカートがふんわり広がり、雪の結晶が刺繍してあるのが光に当たってキラキラと光る。
「お、乙女心が刺激される〜〜!」
うっとりとスカートの刺繍を見ていると、ドアの向こうから「おーい、入らなかったのか〜」なんて失礼極まり無い言葉を掛けられて、私の気分は一気に下降する。口に野菜でも突っ込んでやろうか。
むすっとしつつ、部屋から出てくると、そわそわした顔のラトさんとぱちっと目が合うと、ラトさんは衣装と私を交互に見つめると、ふにゃっと笑ってじっと見つめてくるので、一気に私の心臓がドキドキした。
そ、そうだった。
無礼なルノさんの隣にはラトさんがいたんだ。
ちょって照れくさくなって俯くと、ルノさんは私をジロジロ見て、「サイズ大丈夫で良かったな!」っていうものだから、すぐに顔を上げられた。ありがとう、今だけはその減らず口に感謝しておこう。
「前任の乙女と身長もそんなに変わらないようで良かったです」
「そうだなぁ〜。あれから10年経ったんだなぁ」
「え、そんなに乙女がいなかったんですか?」
「そりゃそーだ。ここはど田舎だぜ?大概の乙女は嫌がるよ」
「住んでみればいい所なんですけどねぇ」
「お、わかる?」
「ルノさんの減らず口がなければなおさらいいんですけど」
ちくりと言うと、ルノさんはカラカラと笑って「言うね〜」なんて言うけど、絶対響いてないな、これ。
「あとは髪飾りかなんかを作っておけばいいかな」
「え、スズ作れるのか?」
「早速失礼〜〜」
ジロッと睨むけれど、ルノさんは気にした様子も見せず出したお茶をすする。
「あ、そういえば、親父が冬祭りの日にベタルの隣にあるパトって街にもある神殿から神官が来るって言ってたぞ」
「えっ!??」
パトの街は確か乙女のいない神殿だ。
若い神官さんがいて、なかなか優秀だ〜なんて神官長様が言ってた記憶がある。何度かその神殿に歌を歌いに行ったけど、そこの神官さんがなんでうちの村に来るんだろう。
「なかなか大きな街の神官なんて来ないから、親父張り切っててさ。スズはそこの神官知ってるか?」
「あそこは男性の神官しかいないから、話をしないように言われてて‥。あんまり顔も名前も覚えてないんですよね」
なにせ神官の爺ちゃん達に「あっちを見るな!」「こっちに寄ってきたら撃退しろ」って言われてたし‥。まぁ、乙女仲間は何人かこっそり会いに行って話してましたけど。あのアグレッシブさ本当にすごいって思ったなぁ。
ラトさんはそんな話を聞いて、じっと私を見上げる。
ん?どうしたのかな?
声をかけようとした時、ルノさんがニヤニヤしながら
「で、歌は大丈夫なのか?神官様にちゃんと聴かせられるのか?」
「っかーーーーーーー!!!!ルノさん、本当にその口どうにかして下さい!!ラトさん!そこの剣で錆にしてやりましょう!」
「あ、こら、本物の騎士になんてお願いをするんだ!」
「ええい!!そんな事を言うくらいなら言うんじゃありません!」
「わ、騎士様?そんな目で俺を見ないで?」
「いけ、ラトさん!やっておしまい!!」
そう言った私の後ろに慌てて隠れるルノさん。
あ、ちょっと何で人を盾にする?!
と、ラトさんが私の両脇に手を差し込むと、ヒョイッと持ち上げて自分の後ろに隠すと、満足したように微笑んだ。‥えーと、もしかして助けてくれた感じ?
「あ、ありがとうございます?」
お礼を言うと、ラトさんは嬉しそうにふにゃっと笑い、私の心臓が潰れかけたのは言うまでもない。
イケメンの笑顔はいい!!
ちなみにルノさん、減らず口でいつも奥さんに叱られる。