番犬、歌を所望。
そうして、魔獣退治をして2週間。
あっという間に小さな村でラトさんの噂が広まった。
「なんでもえらい強い騎士が魔獣を一発で倒したそうだ」
「しかもえらい美形らしいぞ」
「それだけでなくえらい優しくて格好いいらしい」
ウンウン、そうだね。どれも正解‥。
「でも、そんな騎士がスズと恋人らしいぞ」
「最後のは違います!!」
思わず買い物中だというのに村の住人さんの会話にツッコミを入れてしまった。一体誰だそんな話をしているのは?!と、思ったら、先日会った子供のお父さんだった‥。この親子は〜〜!!
「もう!ルノさん?!憶測で噂を広げないで下さい!」
「え、でも二人で住んでいるんだろ?」
「訳あって暮らしてますが、そういった事実はございません!」
「でも、じゃあ、なんでその噂の騎士と手を繋いでいるんだ?」
「うっ‥!これも一身上の都合です!!」
そう、横を見れば私と手を繋いでいるラトさん。
リード代わりと言われたけれど、確かに言い訳が難しい。
しかし当の本人は全く意に介さない。っていうか、動じない。なにせ同じ部屋で寝ても平気な顔してるしね‥。しかも毎朝「撫でろ」って言ってくるようになったしね。守護騎士ってちょっと図々しくないかい?
「ほらほら、どんな理由で手を繋いでるか言ってみろよ〜〜」
「‥ルノさん、奥さんに言いつけますよ?」
「やめて下さい」
まったく、親子してノリが完全に同じなんだから!
と、ラトさんが私の手を離して、板切れに何やら書き込む。
『急に体調を崩して倒れてしまうので、手を繋いでもらっている』
と、ルノさんに見せるとルノさんは私と板切れを交互に見て、
「そうかぁ‥。スズ、元気出せよ」
「一回ぶん殴ってもいいですか?」
いちいち煽ってくるなぁ、この人は!
むすっとした顔をしている私の手をすかさず理由をちゃんと述べたとばかりにラトさんが繋いでくる。‥この人も大概マイペースだわ。
「あ、そうだ。スズ、冬の祭の歌を歌うんだろ?楽器、うちの親父が用意してたから、あとで衣装と一緒に持っていくな」
「わかりました。よろしくお願いします」
「あと歌、歌えるか?」
「ルノさん、ダッシュで奥さんに言いつけに行ってきますけど」
「ごめんなさい」
歌の乙女をいちいちおちょくるでない!!
村長の息子だからって私は容赦しないからな。
じとっと睨んでから、買い物を終えた私はラトさんの手を引っ張って、家に向かう。
と、ラトさんがそわそわした顔で私を見る。
「ワウ」
「いや、歌の練習はしてますよ。でもまだ聞かせません」
「ワウ‥」
「本番に聞けるからいいじゃないですか‥。練習聞かれるの恥ずかしいんですって」
そう、ベッドを運び込んで以来、私は歌の練習をしている。
だけど聞かれるのが恥ずかしいので、ラトさんが絶対入って来られないお風呂場で一人練習しているのだ。一応、あそこだけ音がそんなに漏れないから便利なんだけど、ラトさんは私の歌を聞きたがってお風呂場に行こうとすると、じとっと見つめてくるのだ。
「衣装合わせもして、楽器も調弦はしておかないとだな」
「ワウ?」
「楽器は神殿だと楽器隊が用意してくれてましたけど、こっちでは全部自分でやるんです。私は竪琴が得意なんで、そっちを頼んでおいたんです。村長さんも用意はできても調弦まではできないから‥」
そう話すとラトさんは驚いた顔をして私を見つめる。
あ、何?楽器なんて出来たの?って思ってる?歌はからっきしだけど、竪琴はそれなりにできるんだぞ。‥だから余計に歌の練習が疎かになってんだと思うけど。
「楽器なら、聞かせますけど?」
ラトさんに笑ってそう話すと、一瞬考え込んだけれど、
小さく首を横に振る。
「ワウ」
「‥歌がいい‥ですか?」
そう話すと、ラトさんは静かに首を縦に振った。
うーん、でも本当に下手くそなんだけど‥。なんでそんなに私の歌を聞きたがるのだ。奇特な守護騎士‥いや、大型犬だな。
 




