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番犬、待ては大事。


ラトさんとの1日はあっという間に終わって、夜である。

つまり同じ部屋に寝るのである。こんなの緊張するなってのが無理である。いくら守護騎士とはいえ、男性と一緒の部屋で寝るなんて前世ではなかったし、今世なんてもってのほかである。



お風呂から上がって、ほかほかした顔のラトさん。

部屋に入ってくると、嬉しそうにふにゃっと笑うけど、その顔に今は誤魔化されてはダメだ!私は読んでいた本を静かに閉じ、ベッドの上で正座になると、ラトさんに向かい合う。



「ラトさん、私は嫁入り前の乙女なんです」

「ワウ」

「なので、昨日のようにベッドに入ってきたら絶対ダメです」

「ワウ‥」

「今日は絶対こっちのベッドで寝て下さいね」

「クゥ‥」



そんな寂しそうに鳴いてもダメなものはダメである。

私にだって貞操観念ってものがあるのだ。

神殿に出れば、確かに恋愛もオッケーだし、結婚もオッケーではあるが、まだ神殿に出て1ヶ月!そんな新米も新米、ピッカピカの精米も十分でない乙女風情が恋愛にうつつを抜かす暇などないのだ。なにせ奇跡さえもろくに起こせないポンコツ‥。あ、ダメだ自分で言っておいて落ち込みそう。


と、俯いた私の目の前がふと暗くなって、ベッドがギシっと揺れる。



「へ?」



顔を上げると、ラトさんが私の肩口に頭をすり寄せた。

だ、だ、だ、だから!!!!!!



「ま、待て!!!!」



思わず叫んで、ラトさんの頭をわしっ掴んで止めた。

ラトさんはそんな私の様子に驚いて目を丸くしたけど、知ったものか!!言った側から近づくでない!!


「ラトさん!番犬はちゃんと言うことを聞くものですよ?!」

「‥‥ワウ」

「そんな不服そうに見てもダメです!!」

「‥ワウ」


全く納得した様子でないラトさん。

抑えている私の手の下からじっと私を見つめている。ど、どうすれば言うことを聞いてくれるんだ‥この番犬。



「‥と、トントンしてあげますから、寝て下さい」



思わず出た言葉にラトさんが目をまん丸にする。あ、ちょっと可愛い。

そうして、ちょっと考えると小さく頷いて、自分のベッドに横になった。どうやら交渉成立らしい。私はホッと息を吐いて、明かりを落とすと、自分も横になってワクワクした顔でこちらを見ているラトさんに苦笑する。



守護騎士なんて神殿の乙女だけでなく、お参りに来た貴族のお嬢様達にも大人気なのに、こんなポンコツ乙女のトントンのどこにそんな魅力があるのだろうか‥。



そっと手を伸ばして、ラトさんの筋肉のついた背中を優しくトントンと叩く。

ああ、背中を優しく叩くなんていつぶりだろう。

小さい子が神殿に連れて来られて、「お母さんと一緒にいたい」と泣いていた子がいて‥、その子をあやしてた時以来だな。そんなことを思い出す。


魔獣を倒して、ベッドを手に入れて、知りもしない場所で一緒に仕事を手伝ってくれたんだし、まぁ、これくらいならいいか。そう思って優しく背中を叩いていると、目が慣れてきて、



ふとラトさんを見ると、それはそれは嬉しそうに私を見つめているラトさんと目が合った。



思わず胸がぎゅっと潰れそうになったけど、私はすかさず深呼吸した。

なんて目でこっちを見るんだ。

本当に大型犬そのものだ。ご主人の一挙一動が嬉しそうなその目にドキドキしたけれど、負けじとその目が瞑るまでトントンと叩いた。


けどさ、一定のリズムを刻んでいると、やっている人のが眠くなるんだね。



気がつくと私の方が先に寝ていたらしく、ふわっとラトさんの香りがしたような気がしたけれど、私は目を開けて確認することなく、先に眠りについてしまった。



そうして翌朝、目を覚ますと隣のベッドで



『ちゃんとこっちで寝た』



と、板切れに書いて「だから褒めろ」とばかりに見つめるラトさんがいて‥。

私は朝から意識が遠のきそうになりつつも、ラトさんの頭を撫でて褒めたのだが、そんな私を歌の神様、褒めては頂けませんかね?




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