番犬、新事実。
なんと私のいる場所は「呪いの世界」らしい。
しかもあと15分でここを出ないとこの世界ごと私達は消えてしまう‥。
私はポンコツオブポンコツの歌の乙女、大ピンチも大ピンチではないか。
「ど、ど、どうしよう〜〜〜〜〜!!!!」
「わ、ワンワン」
「ラトさん〜〜〜、私どうすればいい??!あ、その前にディオ様やシルクルさんも探さないとだ‥。わーーー!!15分以内に私ごときかそんな事できるかわからない!!どうしよう〜〜〜!!!」
泣きそうになって、しゃがんで頭を抱えていると、ラトさんが私の頬をペロペロと舐める。
「ら、ラトさん‥」
「ワン!」
愛くるしい瞳が私を見て、笑うように口を上げている。
‥こんな時でもラトさんは可愛いな。あとホッとする。
そっと手を伸ばして、ラトさんの頭を撫でると気持ち良さそうに目を細めるラトさんにグッと苦しくなる。可愛い。
「‥ラトさん、今犬だし、匂いでディオ様とかシルクルさんを探せますか?」
「ワン!!」
ラトさんが大きく頷いてくれて、私は光を見た。
なんとかなるかもしれない‥って思えて、私はグッと足に力を入れて、立ち上がる。
「ラトさん、まずは二人を探して、それからここを脱出しましょう」
「ワン!!」
ラトさんが尻尾をふりふりと揺らすと、早速草原の向こうへと走り出した。
お、もうわかったの??
私はラトさんの後を追って、必死に走っていくと草原から一転、景色が急に変わって神殿に変わった。
あ、ここって‥、
「ベタルの神殿の中だ」
私は驚きつつも、見慣れた風景の中を駆け抜けていく。
緑の芝生の中庭、ラトさんが飴をくれた長い神殿の渡り廊下、歌を歌ってはよく注意された練習室。ああ、私も色々あったけど、こんなにも優しい思い出が一杯あったんだなって、今更ながらに有り難くなる。
バタバタと走っていくと、奥の神殿の中にトーレンさんが立っていて、その奥にディオ様とシルクルさんがぐったりと横たわっている。
「トーレンさん!」
「ああ、やはりここまで辿り着いてしまった‥」
「呪いを解いて下さい!!トーレンさんがやりたくてやった訳じゃないんでしょう?」
私がそう叫ぶようにトーレンさんに言うと、苦しそうな顔をする。
「もう無理なんだよ!!どれだけのことをしたと思ってるんだ!!」
慟哭のように叫んだトーレンさんに私は一瞬言葉が詰まる。
そうかもだけど‥、そうかもだけど‥。
「でも、私は嫌です!!!誤解されたままトーレンさんが消えちゃうの嫌です!」
トーレンさんが私の言葉に目を見開く。
だって、仲良くして欲しいってお母さんに言われて、頷いていたじゃないか。その後の経緯はわからないけど、利用されたのを知らないまま消えちゃうって‥、私はただただ納得できない。そんなの自分勝手な意見だってわかっている。でも、それって‥、
「‥私は、」
言葉が出てこない。
‥トーレンさんの人となりをちゃんと知らないけれど、神殿のおばちゃんが「すごくいい人よ」って私に勧めてくるくらいだ。きっと根っこはいい人なんだと思ってる。
私はいつの間にか俯いていた顔を上げて、トーレンさんを見ると、ラトさんが私を守るように一歩前に出て、しっかりと立ってくれた。
ああ、良い守護騎士、そして番犬、でもって恋人だ。
すっと息を吸って、「春の歌」を歌う。
トーレンさんはそんな様子を目を丸くして見るけれど、私は構わずに歌い続ける。
するとトーレンさんは顔を一瞬歪めると、次の瞬間、手をちょっと上げる。
瞬間、私とラトさんの周りに黒い手が一斉に出てきた。
わわ!!まずい!!
歌を中断される訳には‥。
するとラトさんがその黒い手を追い払うように噛み付く。
ラトさん‥!
視線をそちらに向けると、まるで「そのまま歌え」とばかりにチラッと視線を寄越すので私は頷きつつ、歌を歌い続ける。
どうか歌の神様!!
今こそ私にちょっとの奇跡を与えて下さい!!
ポンコツの私にできる事は、せいぜい歌う事だけなんです!ニーナさんに言われていた時間は大丈夫だろうかと、焦燥感に駆られながら歌っていると、小さく春の歌を歌う声がどこからか聞こえてくる。
どこ?
どこから??
トーレンさんも気が付いたのか、神殿の中を見回すと、白い鳥が一羽飛んできて私の肩に止まる。
神様の、使い??
驚いて目を丸くしつつも歌っていると、春の歌がどんどん大きく聞こえてきて‥、その声がベタルの神殿の同期の乙女達の声だと気付いた。
ええ、どういう事??!!




