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番犬、過去に触れる。


一人だけ渦巻きの中へ落ちていった私。

今度はどこか立派なお屋敷の目の前にいる‥。



「どこだろ、ここ‥」



お屋敷の中の庭を覗いてみると、こげ茶の髪をした少年が金色の髪のおじさんに頬を何度も叩かれている。え、ちょっとなんで、そんなに叩いているの??驚いてその少年の元へ駆け寄ると、どこかで見た顔だ‥。



「もしかして‥、ラトさん!?」



だけど私の声はおじさんの耳にも、ラトさんの耳にも入らない。

金色の髪をしたおじさんは、ラトさんの腕を強く叩くと、


「貴族として生きていくのに、そんな甘えた考えではダメだ!もっとしっかりしろ!!その為にお前を譲り受けたんだ!!わかったら返事だ!」

「‥はい、おじ様」


腕を抑えつつ、高い声がわずかに震えながら返事をした。

その返事を聞いて、おじさんはさっさと大きなお屋敷の中へ戻っていったけれど、ラトさんはそこから一歩も動かず、ただジッと痛みを堪えていて‥、そんなラトさんにギュッと胸が切なくなる。



そういえば、家族と折り合いが悪いって言ってたけど‥。

確かにこれはすぐに家を離れたっておかしくないな。いつもは堂々とした様子のラトさんなのに‥。小さなラトさんの横に立って、触れない背中をそっと撫でてみた。



ラトさん、辛かったんだね。

そんなの感じさせないフニャッとした微笑みが懐かしくて、会いたくなって‥、



「ラトさん‥」



小さく呟くと、地面がグニャッと揺れて、今度は地面の中に落ちていく。



「え?!」



グニャッとした地面から一転、今度は夜のベタルの神殿の中庭に私は座っている。

つ、次から次へと‥。これ、ディオ様達の所へ戻れるのかな?

夜露が降りた芝生の上をサクサクと歩いて、ラトさんを探していると、不意に歌声が聞こえた。



神殿の中庭で隠れるように歌っている私がそこにいて、ああ、そういえばよくあそこでコッソリ練習してたなぁって思い出す。満月の光で周囲は薄っすら明るくて、影ができるくらいだ。


綺麗な満月だなぁって思っていると、神殿の廊下から



「上手ですね」



ラトさんの声が聞こえて、慌てて逃げようとする私にラトさんが廊下から手に持っていた飴を一つ差し出すのが見えた。



あれ、ラトさんだったの?!!

警戒するような昔の私に、雲が満月を隠してしまって‥、廊下の方に立っているラトさんが見たいのに見えないって顔をしてる。すると、どこからか足音が聞こえて神官の爺ちゃんにでも見つかったらまずいと思った私は、お礼を言うと足早に去った。


あーあ、もう少し話せばいいのに‥。

なんて思っていると、雲が風に流されて、また満月がゆっくりと顔を出すと、廊下に嬉しそうに微笑むラトさんがいて‥、



私は思わず触れないのに、ラトさんの腕を掴もうとする。



‥ああ、こんな顔をしてたんだ。

こんな時から、こんな風に私を見つめてたんだ。

時々、どこから視線を感じていたけれど‥それがラトさんだったんだと、今初めて気付いて、胸が苦しい。すごく抱きつきたい気分なのに、それもできなくて‥。



「ラトさん、探さないと‥」



神殿の廊下に立っているラトさんじゃない。

呪われて、私の家の畑の裏まで来てくれた‥、犬語しか話せないラトさんに会いたい。好きって言ったら犬になっちゃうし、キスしたがるし、手を離したがらない、甘えたな番犬に会いたい。



でも、どうすればいい?

どうやればラトさんに会える?

っていうか、この記憶の中の私に何ができる?



「‥歌うこと、かな?」



そうだ。

私にできる事なんて歌うくらいだ。

神殿の中だと歌うのも、祈るのもダメって言ってたけど‥、記憶の中なら別に大丈夫でしょ。なんて‥、きっとラトさんなら反対するんだろう。



でも、ラトさんは私が犬になったら飼ってくれるって言ってたし。



ハラハラするラトさんの顔を思い出して、ちょっとふっと笑う。

犬になったら一生犬か。いいじゃないか、犬。私とラトさんでワオワオ歌うの楽しいかもしれない。



そう思って、両手をギュッと握って私は大きく息を吸った。




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