番犬、色々あるよね。
見事に神官さん達をはじめ、ディオ様まで犬になってしまったようだ。
なんでも朝、神殿でお祈りをしたところ、一斉に犬になってしまったようで‥、警護していた騎士さん達はそれは仰天したそうだ。そりゃそうだ、私だってラトさんが犬になったら驚いて倒れそうになるもん。
ディオ様は犬になっても落ち着いていて騎士さん達の報告を聞いて、静かに頷いている‥。私はこそっとラトさんの方へ近寄り、小声で話す。
「言葉は通じるようで、良かったです」
「‥ああ」
「ラトさん、何か気になる事でも?」
「‥なんですぐにディオ殿はわかったんだ‥?」
「勘‥ですかね。犬になっても、品がありそうだなって」
「品‥」
「あ、ラトさんはすぐにわかりますよ。可愛いし!」
「可愛い‥」
どこか複雑そうな顔をしたラトさん。
え、ダメ?自分のワンコって皆可愛いものだけど‥。
そんな会話をしている側で、ニーナさんが犬になってしまった神官さん達を一匹ずつ触ったり、言葉をかけている。
「うーん‥、呪い自体はそこまで複雑ではないみたいだけど、解き方を間違えると更に呪いが掛かるか、解除できないようになってるねぇ」
「えっ!??」
私が思わず大きな声を出すと、騎士さん達が一斉に私を見る。
も、もしかして、歌った方がいいって展開、ですかね?ブワッと汗が吹き出して、ラトさんの手をギュッと握ると、部屋をノックする音が聞こえ、マキアさんが慌ただしく部屋へ入ってくる。
「あの!王都の神殿の歌の乙女が、小神官様と一緒にいらっしゃいました」
その言葉にシルクルさんが目を見開く。
「戻ったのではないのか?」
「それが‥、パトの神殿の話を聞いて、小神官様が今こそ歌う時だろうと判断されたようです」
「あのお方は‥」
眉間にしわを寄せている所をみると、どうやらシルクルさんはこのままでは危険と判断して戻るように言ったのか‥。それでも来ちゃったと。ううむ、ラトさんに大しての物言いはどうかと思ったけど、仕事はしっかりする人みたいだな。
ちょっと感心していると、ぞろぞろと外から足音が聞こえて‥、
外で騎士さん達の制止する声が聞こえたけれど、ガチャッと扉を誰かが開けた。
「失礼。このような非常事態で返されると思っていませんでしたよ、シルクル殿?」
「カレンズ様‥」
カレンズ‥。
あ!うちに釣り書きを山ほど送ってきた小神官様か!
その人をまじまじと見つめると、40代後半くらいの灰色の短い髪にちょっと神経質そうな顔をしていて、眼鏡をかけている。おお、なんか怖いぞ。
そう思った瞬間には、ラトさんが私を隠すように前に立った。
流石番犬、判断が早い。
「‥まったく、王都の神殿の乙女達の力を信じていらっしゃらないのですか?」
「とんでもありません。しかし今回は先日の魔物騒ぎもあって、警戒するに越した事はないと判断したまでです」
うわぁ〜〜〜、守ってくれている守護騎士さん達になんて言い草だ。
連絡は十分でないし、祭りの流れの相談よりも先にお見合いの釣り書きを送ってくるだけの事はあるな‥なんて思っていると、カレンズさんがラトさんの後ろに立っている私を目ざとく見つけた。
「‥これはこれは、歌の乙女のスズさんではありませんか?」
「は、はじめまして‥」
「貴方がここにいらっしゃるのに、王都の乙女達が歌わない‥というのはあり得ませんよね?」
はい???
えーと、もしかして私だけ歌うのか?って言いたいのか?言いたいんだろうな。
シルクルさんはキッとカレンズさんを睨んで、
「スズさんは、今回春の祭りの為に色々準備をして下さっていたんですよ?その言い方は誤解を招きます」
「‥守護騎士風情が知った口を」
吐き捨てるように言ったカレンズさんとシルクルさんの間に、バチバチと火花が散り、私は驚きのあまり目を見開く。
えええ?!!神官さんと守護騎士さんが仲が悪いってあり得るの?!
だってお互いに協力しあって、歌の神様に仕えるお仕事だよ??私はポカーンと口を開けると、マキアさんがそそっと近くにきて‥、
「王都の神殿の神官って、貴族なんですよ。だから同じ貴族出身の守護騎士をバカにしたりするんです」
って、こっそり教えてくれたけど‥。
えええ、逆に同じ貴族同士なんだし仲良くすればいいじゃん。
あ、ちなみに一部始終を見ていたニーナさんの瞳はこれ以上ないくらい輝いていた。うん、楽しいんだな。すごく楽しいんだな。まぁ、声に出して「楽しい」って言ってくれなくて良かった。良かったけど、私は複雑です。




