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番犬、歌の乙女は誰のもの?


結局、あれから半日かけてなんとか三分の一のリースを編んだ頃には夕方である。


「つ、疲れた!!」

「お疲れ様。スズ、お茶を」

「あ、ありがとうございます」


ラトさんが淹れてくれたお茶を受け取って、キッチンの椅子に座って一口飲むと、ニーナさんから頂いた薬草と蜂蜜がこれでもかと入った激甘茶。ラトさん、私の「呪い」はもうないはずですが?



「‥呪いはもう大丈夫だろうとニーナさんは言っていたが、万が一を考えて」

「なるほど‥。念には念を入れてですね‥」



流石ラトさん。

すぐに油断しないのは偉いなぁ〜と思いつつお茶を飲む私を見て、パッと顔を明るくしたラトさんが「まだお代わりもあるぞ」と、ウキウキである。


番犬の愛、極まれり。

大丈夫。十分喉は潤ったから。



「だけど、なんで「呪い」の残りが急に出たんでしょうかね‥」

「そうだな‥。スズはペペルの乙女と一緒に歌っていたし‥、その後も声がちゃんと出ていたのに‥」



ラトさんとちょっと考え込んで、

ペペルから帰ってなにしたっけ‥と、振り返ってみる。



「もしかして、キス?」



私がポツリと呟くと、ラトさんがピタッと体が固まる。


「キス‥」

「いつもと違った事って思い出すと、キスくらいかなぁって‥」


ペペルでもキスしたけどさ。

帰ってからいつもと違う行動っていえば、キスしかない。

と、ラトさんが静かになって‥。どうしたのかと思ってラトさんを見ると、口元に手を当てて難しい顔をしている。



「ラトさん?」

「‥もしかしたら、そうかもしれない」

「え、じゃあ、キスはもうしない方がいいって事ですか?」

「!!い、いや!それは、耐えられない!!」

「耐え‥」

「でも、可能性はないとは言い切れないし‥」

「ただ「呪い」の残りはもうないから大丈夫なんでは?」

「そ、そうだな!きっと大丈夫だ。あれからスズは何か異変はないか?」



ええ、絶賛元気です。

コクコクと頷くとラトさんは、心底ホッとした顔をすると、私の座っている前に跪いてジッと下から私を見上げると、手をぎゅっと握る。



「‥スズ、キスが出来なくなったら辛いけれど、もし、何かあればすぐに伝えてくれ。我慢する」

「我慢」

「‥ものすごく辛いけれど我慢する」



至極真面目な顔をして、そう宣言するラトさんに思わず吹き出してしまう。

なんだかんだ言って、いつも私を心配してくれるラトさん。

そういうところ好きだなぁと思って心がホカホカするし、嬉しい。



思わず私を見上げるラトさんの額にキスをすると、ラトさんが驚いた顔をして私をジッと見つめたかと思うと、顔を赤くして、


「‥反則だ」

「え?反則??」

「‥絶対、誰にも渡さない‥」


あの小声で呟いた言葉がちょっと不穏過ぎない?

そもそも私は物ではないからね?



と、玄関の扉がノックされた。

こんな夕方に誰だろ?

ドアをラトさんが開けると、その目の前には以前私にお手紙を送って欲しいと話した騎士さんが申し訳なさそうな顔で立っている。



「あ、あれ、貴方は‥」

「お久しぶりです。ベタルの騎士団より派遣されました、トーレンです。今回、王都の神殿の歌の乙女がこちらへ来る事になって、その警備の一旦を担うことになりまして‥一足先にこちらに来る事になりました」

「そうなんですか!どうぞよろしくお願い致します」



突然の挨拶に驚いていると、トーレンさんは目をウロウロさせる。


「それで‥、実は王都の神殿からお手紙も預かって参りまして‥」

「手紙?」


人の良さそうな顔がちょっと躊躇いがちに、懐から金色に縁取られた封筒を一枚取り出すと、ラトさんがその封筒を睨みつける。



「‥なんだそれは」

「ラトさん?」

「‥わ、私も無理だとお伝えしたんですが‥」

「スズ、それは開けなくていい」

「え、で、でも‥流石に確認しないと」

「そうですよ、ヴェラートさん。それは開封しないと王都の神殿が読んでないとわかってしまう代物ですし」

「えっ!??そんな手紙なんですか??」



ラトさんはトーレンさんをジロッと睨むけれど、それを聞いたら開けない訳にはいかないでしょ。トーレンさんから封筒を受け取って、そっと開けて中の手紙を読む。



『歌の乙女、スズ様。

貴殿の奇跡は、遠い王都からもよく聞き及んでおり、神殿の人間としては誇らしく、また嬉しく思っております。その奇跡を聞いて、ぜひ自分の妻にと貴族から求められております。急ではありますが近く釣り書きを送りますので、次の週には歌の乙女が参りますので、その際に良い返事が聞ければと思っております。 小神官 カレンズ』



「なんじゃこりゃ」



思わずそんな言葉が出てきてしまった‥。

しかもカレンズさん?私、貴方とまるで面識ないのにいきなり釣り書きってなに??



その手紙を私の横から見ていたラトさんが分かりやすいくらいに怒りの形相になっている。確か、昼間ラトさんが言ってたけど、歌の乙女は相手を選べるけど、相手は私を選ぶ資格がそもそもないって言ってたよね。あれれ〜〜おっかしいぞ〜??




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