番犬も慣れない。
ラトさんの意外な過去を聞いて、こんなに綺麗で格好良くて仕事も出来るのにスムーズじゃない人生もあるんだ‥と、世の中を不思議に思った。
まぁ、でも誰でも人生イージーモードな訳ないか。
リアナ姫だって、輿入れが決まってもまだ問題は綺麗に解決した訳じゃないし、人それぞれ色々あるよね。
お弁当のサンドイッチをラトさんと木の下で食べつつ、そんな事を考えていると、ラトさんがちょっと面白そうに私を見つめる。
「ラトさん?」
「スズ、難しそうな顔をしてる」
「いやぁ、人生って不思議だなって思って。私も親に売られた身ですけど、今はこうして幸せですし」
「‥幸せ」
「はい。だってご飯もあって、家もあって、ら、ラトさんもいますし‥」
う、最後のはちょっと照れ臭い。
照れ臭いけど、好きな人と一緒にいられるって嬉しい‥よね?
視線だけラトさんに送ると、ラトさんはそれはもう嬉しそうに微笑んで私を見つめている。ひゃああああ、視線がものっすごく甘い!!激甘茶よりも甘い!!!
慌てて視線をさっと逸らすと、私の手をぎゅっと握るラトさん。
「‥俺も、幸せだ。ずっと神殿の中ではスズは騎士の側へ来なかったし」
「そ、それはだって、神官の爺ちゃん達に「ダメだ」って言われてて‥」
「ああ。スズだけそれをしっかり守っていたな。あの時は、それを破ってでも自分の所へ来て欲しいと思っていたけれど、今は守ってくれていて良かったと思う。誰かのところへ行っても、俺は止める資格すらなかったし‥」
え、なんで?
私がラトさんをぽかんとした顔で見上げると、ラトさんは小さく笑う。
「歌の乙女は神に選ばれた乙女だ。乙女が騎士や誰かを選ぶ事があっても、騎士や周囲の人間が、ましてや王族でも乙女を選ぶ資格はない」
「え!?そうだったんですか?」
「‥神官に説明されるはずだが」
聞いてなーーーい!!!!
っていうか、爺ちゃん達もしかしてそれさえも私に説明してなかったんじゃないか?!他の乙女達に聞いたら、絶対「知ってるけど」って言いそうだぞ??私は神殿を出てから知る新事実にびっくりだよ!!
ポカーンと口を開けて、ラトさんを見上げると、ラトさんはクスクスと笑って、
「スズの「番犬」として選んでもらって嬉しい」
「いや、そこは恋人って言っておくべきでは?」
「‥恋人、と言ってもいいのか?」
「そ、それは、まぁ‥」
そりゃ番犬って言っちゃってるけど、ちゃんと恋人って思ってるよ。
‥たまに犬っぽいな〜〜って思ってるけど。いや、しょっちゅうだな?
赤い顔でラトさんを見つめると、ラトさんはそれはそれは嬉しそうにふにゃっと笑った。うう〜〜!!その顔にめちゃくちゃ弱いんですけどぉおおお??!
ラトさんは私の頬を空いた手でそっと撫でると、
「俺のスズ」
「わ、わ、あ、あの‥?」
「ずっと俺だけのスズでいてくれ」
ジッと熱のこもった瞳が私を射抜くように見つめるので、私の顔どころか身体中が真っ赤になったのでは?と思ってしまう。
「ぜ、善処します?」
「ふふ、お願いします」
ラトさんがちょっと可笑しそうに笑って、握っている私の手の甲にチュッとキスをすると、カチッと私の体が固まってしまう。ちょ、ちょーーい!!甘い!空気が全部甘いよ!!対処できないよ!?
「は、花!!花、摘みましょっか!!」
「キスしたら」
「きっ?!!」
驚いて目を丸くすると、ラトさんにすかさずキスされて、ビクッと体が跳ねた。
ひゃあああああ!!!ぎゅっと瞑った目をそっと開けると、目の前でラトさんが嬉しそうに目尻を下げて私を見つめるので、私のキャパシティは暴発寸前である。
お願い、自分の顔の良さ自覚して。
あと好きな人の甘い顔の威力が凄すぎる。
「‥もう無理ぃいいい‥」
「大丈夫だ、スズ。少しずつ慣れよう」
「慣れるんですか?!慣れるものなんですか?好きな人の威力ってすごいんですけど‥、ええ、これ本当に慣れるの?」
「‥‥‥スズも、少し手加減をしてくれ」
「っへ?」
手加減?なんで??
それはラトさんじゃないの?
私がラトさんの顔をまじまじと見つめると、顔を同じように赤くしているラトさんが私を見て、
「俺も慣れない‥‥」
と、呟いたけど、ラトさんのが余裕じゃないの?
私は本当に人生とか人って不思議だ‥、そうしみじみ思いつつ、ラトさんの手を引っ張って花を摘み始めた。
ラブラブっていいよね♪(´ε` )




