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番犬、ちょっとからかう。


あれから訪ねてきてくれたルノさんに王都の神殿からの手紙を見せてもらった。


まぁ、色々書いてあったけど、要するに春の祭りに合わせてパトの神殿に行くので、その前に一緒にまずはポワノの村で王都の神殿の歌の乙女と私で歌いましょうってことだったんだけど‥、



「不安しかない」



リビングのテーブルに顔を突っ伏す私を宥めるラトさんと、それを面白そうに笑って見ているルノさん。‥歌の神様、完全に人選ミスだと思うんで、今からでもやっぱりチェンジしません?



ルノさんは遠い目をする私を気にすることなく、私の持っていた手紙を見つめつつ、


「王都の神殿の歌の乙女ってどんな子達なんだ?」

「エリート中のエリートです。歌はもちろん、奇跡はバッチリ。貴族出身の方も多いから‥、つまり選ばれし乙女です」

「‥‥うちの村で打ち合わせとか、大丈夫なのか?」

「多分‥???」


ポワノ村ののんびりした空気をなかなかいいものだと思ってもらえば、多分大丈夫‥か?



「スズ、ひとまず春の祭の準備を一緒にしよう。俺にできることは何かあるか?」

「うう、ラトさんありがとうございます。花の香‥は、ルノさんのおじさんが作ってくれるので、私はひとまず歌の練習と、リース作りですかね」

「リース?」

「ああ、神殿の門の前にものすごく大きな花の輪が飾ってあったの覚えてます?」

「そういえば‥。あれは歌の乙女で作ってたのか」

「はい。ここには神殿はないから、祠の前とお祭りの会場に飾る予定です」



ルノさんがすかさず「今作ったら、萎れるだろ」って言うので、私はニンマリ笑う。


「歌いながら編み込んでいくと、不思議な事に枯れないんですよ。これだけは私だって奇跡はしょぼくても出来ますから、ご安心を〜〜」

「へー、奇跡がしょぼくてもできる事あったんだな」

「‥ルノさん、本当に奥さんに言いつけてやる!!」


ベー!と舌を出してやるけど、ルノさんは面白そうに笑うだけである。

まったく!なんて人だ。

ブスッとすると、ラトさんが私の手をそっと握る。



「リースを作るなら花を集めに行く必要があるな」

「そうですね。ただ今回は意味のある花を摘んでおかないとなんで‥」

「意味のある花?」

「ああ、リースに編み込む花には、それぞれ意味が込められているんです」



神様に無事春を迎えられて感謝しますってお祭りだからね。

私の言葉にラトさんは感心したように見つめると、私の手をぎゅっと握って、


「じゃあ、教えてくれ!俺も手伝う」

「はい。お願いします」

「んじゃ、俺は村の奴らに事情を説明しておくわ。スズ、リース頼むな〜」

「あ、はい」

「歌もちゃんと練習しておけよ〜〜」

「‥はーい‥」


歌と聞いてうんざりした顔をしてしまう私は、歌の乙女失格であろうか。

いや、でも王都の神殿の歌の乙女達を歌うとか‥、私の胃がキリキリと痛む。うう、どんな人達なんだろう。



ルノさんを見送って、私とラトさんは家事をしてからお弁当と籠を持ってまた根っこの魔物が出た花畑に向かった。



花畑は、まさか魔物が出たとは思えないほど静かで、そよそよとそよぐ風に白や黄色、薄いピンクや紫、鮮やかな赤と色とりどりの花達が揺れている。



「そういえば土が結構めくれてた記憶があるのに、いつの間にか地面も綺麗になってますね」

「恐らく、神の使いによるものだろう。白い鳥が飛んでいった時に地面や周囲が綺麗になっていた」

「え?いつの間にラトさん確認してたんですか!?」



そうだったっけ???

私はもう自分のことでまったく気付いてなかった‥。

ラトさんはちゃんと周囲を確認してたのか。流石騎士さんだなぁ。感心したようにラトさんを見上げると、ちょっと照れ臭そうに微笑む。


「ラトさん、やっぱり守護騎士さんですね」

「‥‥そうか?」

「そうですよ!ラトさん、やっぱり守護騎士になりたくてこの仕事を?」

「‥いや、実はそこまで」

「え?!そうだったんですか?」


仕事できるから、てっきりそうだと思っていた私は意外な答えに目を丸くする。

ラトさんはちょっと遠くを見つめて、



「‥家族とあまり折り合いが良くなくて、とにかく家を出られれば良かったんだ。早く独り立ちできる職種がたまたま騎士だった。守護騎士は、団長の勧めがあって‥。気が進まなかったけれど、今にして思えばスズに出会えたから団長の采配に感謝だな」



ラトさん自身の話をあまり聞いたことがなかった私は、家族と折り合いが悪かったなんて意外も意外だし、守護騎士も気が進まなかったという話も意外過ぎて驚きだ。だって仕事をいつもきちんとこなしていたし、そんな大変そうな姿を見たことが一度もなかったから。


「‥ラトさんって、本当にすごいですね」

「いや、すごくは‥」

「大変さを見せないって、それだけですごいですよ。私なんていつも「もうだめ〜!」とか「嫌だ〜〜!やりたくない!」って見せてるじゃないですか」


そう話すと、ラトさんが小さく吹き出して私の頭を撫でた。



「‥自分の気持ちを素直に表現できるのもスズの良い所だ」

「ラトさん、甘やかし過ぎです」

「それは仕方ない。そんなスズが好‥」

「だあぁああああ!!!!」



慌ててラトさんの口を手で塞ぐと、ラトさんが可笑しそうに目を細める。

ちょ、ちょっと笑ってる場合じゃないからね!??

私はポンコツ乙女で奇跡は起こせないんだってば!




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