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番犬、なだめる。


リアナ姫の輿入れが正式に決まった。

それは大変めでたい。とてもおめでたい。

例え歌の乙女として「祝福の歌」を歌う事になっても‥だ。

いや、実をいうと、心の何処かでそうは言ってもきっとまだ誰か歌って欲しいな〜‥なんて思っちゃってるけど。



それはとりあえず横に置いておいて。

今回、慌てて駆けつけてくれたマキアさんが言うには、同じようにベタルの街に根っこの魔物が出たそうだ。しかもそれが各地でも現れたそうであちこちパニックになったそうだ。確かにあんなの出てきたら、大騒ぎだよね。まぁ、枯れたらゴボウみたいになっちゃった上にニーナさんが持っていっちゃったけど。



マキアさんにお茶を差し出すと、カップを受け取ってしみじみと飲んだ。

よく見ると、あちこち引っかき傷があるではないか‥。

こんな状態で心配して駆けつけてくれたのか。



「いやぁ〜〜‥それで、あちこちの歌の乙女と騎士達でなんとか騒動は収まったんですけど、それはもう大変でして‥。魔石での連絡も途絶えたから気になってて‥」

「なるほど。それでこちらに」

「ええ。ポワノでも地鳴りがあったって報告を受けたんで‥、慌てて転移の魔石を使っちゃいました」

「マキアさん‥、本当にありがとうございます」



そんな優しいマキアさんの心配をよそにラトさんは、ようやく私の体から「呪い」の残りがなくなってキスをできるようになったことが嬉しくて、私を離さず‥。



ただいま絶賛私はラトさんの膝の上でその話を聞いてます。



「ラトさん、一旦。一旦お互い椅子にそれぞれ座りましょう」

「‥だが、ようやくキスでき‥」

「だあああああ!!!!ラトさん!お口チャック!!」



番犬よ、私の話を聞いておくれ。

ちょっと不満そうな顔をするラトさんを、どこか虚無の顔をしているマキアさん。慌てて駆けつけてくれたのにすみません‥。


「ラトさん、大丈夫です。ずっと一緒です」

「‥一緒」

「ね、だから一旦膝から下ろしてください」

「‥うう」


番犬って話をちゃんと聞き入れるものじゃないの?

‥いや、そもそも恋人だったな。

ラトさんは少し残念そうに私を膝から下ろして、隣の椅子を自分のギリギリ近くまで引っ張ると私を座らせてくれた。



椅子の座面に座って、こんなに落ち着いたの初めてだ。

ホッと息を吐くと、マキアさんは虚無から帰ってきて私を見つめる。



「いや、本当にスズさん達が無事で良かったです‥。ベタルの根っこの魔物はそれはかなり大きくて、手を焼いたので‥。こちらはいくらヴェラートがいるとはいえ、一人ですので心配で‥」

「そちらも大変だったのに、駆けつけてくださって本当にありがとうございます。ね、ラトさん?」



ラトさんにそう話すと、満面の笑みで頷き、


「スズの歌で魔物をあっという間に倒してしまって、俺の出る幕はなかった」

「いやいやいや大有りですからね!?しかもあれは私の歌の力じゃなくて、神様!神様であって、私の奇跡ではありません!!!」


なにせ神様の使いが来てたけど、私の「呪い」を一時的にラトさんに移ったから歌えるようになっただけだ。‥多分。しかしラトさんは首をブンブンと横に振り、



「いいや、しかも畑に花が咲かなかったのに、一気に咲かせた」

「いや、あれは養分を吸ってた魔物のせい‥だったけど、歌ったから枯れたし‥あれ?じゃあ、やっぱり歌のおかげ?」



ラトさんが私の呟きに「スズのお陰だ」って言うけど、それを認めていいものかちょっと迷うんだよね。なにせポンコツだし。



「スズはもっと自信を持っていい。俺は素晴らしいと思っている」

「え、あ、うぁ‥」

「だがそんな控えめなスズだから、きっと神も力を貸してくれているんだと思うが」

「う、うううう‥、日頃からずっとポンコツって言われている方が落ち着いてしまう自分にそんなに言わなくても‥」



ものすごい近距離で手を握られて力説されると、照れ臭くてあちこちを叫んで走り回りたくなってしまう!ま、マキアさん、助けて!!そっと視線を向けると、


「いやぁ!スズさんは一人で歌の乙女10人分の仕事をしますね!春の祭りは確かディオ様のいるパトの神殿で歌うんですよね?それにポワノの村も!どちらも楽しみですね〜」


そうだった!!

パトの神殿のディオ様にそんな約束をしていた!

マキアさんの言葉にハッとして、青ざめる。


「祝福の歌云々の前に、春の祭り‥!しかもパトの神殿!!ど、どうしよう」

「スズ!なんでも手伝うから安心してくれ」

「そうですね〜。なにせ王都の歌の乙女もこっちに来るみたいだし」


ん?

なんか言った??

マキアさんをまじまじと見つめると、ニコッと微笑み、



「あ〜、「祝福の歌」をスズさん歌うじゃないですか?王都の神殿の歌の乙女も合わせて歌うんで、一度顔合わせをしにこっちへ来るそうですよ」

「っへ?」

「いや〜、今年の春の祭りは楽しみですね!」

「っへ?」



王都の神殿の歌の乙女っていえば、エリートオブエリート。

奇跡はもちろんの事、歌も楽器もバッチリ!学もマナーも身分も最の高。そんな方々が顔合わせに来る!??



「無理ぃいいいいいい!!!絶対無理ぃいい!!!」

「スズならば大丈夫だ」

「ラトさん、そんな澄んだ目で私を見ないでぇええ!!」



だって、無理!!本当に無理!!エリート中のエリートと、キングオブポンコツが一緒に歌う?!誰か!夢って言ってくれぇえええええ!!!!





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