番犬、好きと叫ぶ。
結局、花畑で叫んだ私の元へ駆けつけたラトさんはリアナ姫の輿入れを聞いて、「スズの活躍がまた見られる!」と喜ぶし、ニーナさんは終始大爆笑するし、ルノさんと親戚のおじさんは花をわんさか持ち帰っていくし‥、
「うう、問題が解決したかと思えば、また問題が‥。しかも今度こそリアナ姫の輿入れ決定って‥」
家に戻って、キッチンのテーブルに顔を突っ伏す私をラトさんが小さく微笑みつつ、お茶を淹れてくれた。
「ワン!」
「ありがとうございます。まぁ、でもラトさんが戻ったのは良かったです。言葉は治ってないけど‥」
呪いの残りをラトさんが持っていっちゃったけど、大丈夫なのかな?
淹れてくれた温かいお茶を一口飲むと、今日も激甘である。あの、声は出たから蜂蜜はもう要らないと思うよ?
と、ラトさんがちょっとそわりとした顔で私を見つめる。
「ラトさん?何かありました?」
手を差し出すと、ラトさんがすかさず私の手を握る。
「‥スズ、体調は大丈夫‥だろうか?」
「え?あ、はい、すっかり」
ラトさんが私の言葉にホッとして息を吐く。
そうだった‥、ここ何日か私の声がロクに出なくて、ラトさんはそれはもう無茶しないようにとあれこれと世話を焼いてくれたんだった。リアナ姫輿入れのニュースですっかり飛んでいた記憶を思い出し、私はラトさんを見上げる。
「ラトさん、ずっと声が出ない私を思いやってくれてありがとうございます」
「‥スズが大事だから。当然の事だ」
「う、あ、は、はい‥」
いきなり真面目な顔でラトさんに言われて、私が照れてしまう。
ラトさんはどうしてこう真っ直ぐなんだ。
私は自分を卑下しちゃうので、こう真っ直ぐに大切って伝えられると、嬉しい半面、その気持ちにどう対応していいのかわからなくなってしまうし、気恥ずかしくなってしまう。
青灰色の綺麗な瞳に見つめられると、そわそわしてしまって‥、慌ててラトさんの淹れてくれたお茶の表面をじっと見つめる。濃い茶色の、ラトさんの髪の色に似ていて‥、お茶を見ても照れ臭くなってしまう。
「スズ」
ラトさんが私の名前を呼ぶので、照れ臭いけれど顔を上げると、ごく自然にキスされた。
「‥ら、ラトさ‥」
「やっとキスできた」
「え」
ラトさんの言葉に目を丸くする。
ん?やっとってどういう事?ラトさんは私の顔を見つめて、それから自分の手を見つめてから、嬉しそうにふにゃっと笑った。
「‥スズ、ずっと声が出なかったから」
「あ、もしかして我慢してました‥?」
ズバリ聞くと、はにかみつつ頷くラトさん。
そういえば抱っこしたり、くっ付いたりはしてたけど、声が出なくなって以来キスはしてなかったかも‥。そうか、私を気遣って我慢してたのか‥。その優しさに気付いて、私の頬がじわっと赤くなる。
「ニーナさんが、スズに持ってきた薬草をお茶に煎じたんだ。ニーナさん曰く「呪い」の残りもこれで無くなるだろうから、呪いを移したり、移されたりもないだろうと‥」
「あ!もしかして、さっきコソコソ話してたのって‥」
私の言葉にラトさんはいたずらが見つかったように笑うと、私の頬をそっと撫でる。
「スズ、もう一度キスしていいか?」
ラトさんがそれはもう激甘茶よりもずっと甘く溶けてしまいそうな声と瞳で私にキスの確認をするので、顔が一気に真っ赤になってしまう、ちょ、ちょっと待て!!加減をして欲しいです!!
「えっと、ちょっと待って下さい!心の準備がですね?」
「スズは?」
「え、」
「スズは、嫌か?」
コテッとちょっと首を傾げて私に聞いてくるラトさん。
番犬め、自分の可愛さをよくわかってないかい?
こんな男性耐性のカケラもない私に、なんてことをしてくるんだい?思わず横に目を逸らしたいのに、ジッと真っ直ぐに見つめてくるラトさんから目を離せない。
嬉しそうに、私の言葉を待っているラトさん。
私の手を握るラトさんの手にちょっと力がこもるので、ますます私の心拍数が大変な事になる‥。
「‥キス、できたら嬉しい、ですけど‥」
真っ赤な顔でそう言うと、ラトさんが私をギュッと抱きしめるで「ワン」と鳴く。
それにちょっと安心してしまう半面、じわじわと嬉しい気持ちが私にも伝わってくる。
「‥ラトさん、大好き」
「ワウ‥」
ぎゅっとラトさんが私を抱きしめる腕に力がこもる。
そうしてラトさんが私の額に、頬にキスをして、少し顔を離して、なんだか泣きそうなのに嬉しそうな顔をして私を見つめるので、思わず笑ってしまう。ああ、この番犬は本当に可愛い。
ラトさんの方へ顔を近づけると、ラトさんは嬉しそうにふにゃっと笑って、私の方へ顔を近付けた。
と、
「ヴェラート!!!!そっちで魔物出ただろ!!大丈夫だったか!?」
もんの凄い勢いで、ドアが開いてマキアさんが息を切らせて家に突入してきた。
一瞬の間の後、
「すみません!!!お邪魔しました!!!」
「ちょーーーー!!!!待って!マキアさん!待って!!大丈夫!!大丈夫だから!」
「ワン!」
「いやいや、ラトさん、今魔物って言ってましたよね?!」
「ワンワン!」
「ああ、もう〜〜!!あ、後!!あとで!!」
「ワンワン!」
「だ、だからぁ‥」
玄関のドアの向こうで、「あ、終わってからで結構です」ってマキアさんの声が聞こえたけど、違う、そうじゃない。しかし、ラトさんはそれをいい事に私にキスをすると、ギュウッと強く抱きしめて「ワン!」と鳴いた。
わかったよ、好きだってば〜〜〜!!!!!




