番犬、警戒。
ニーナさんに教えて貰った赤い実を採っては煮て、花畑に撒くのを繰り返すけれど、特に進展もなくあっという間に3日経ってしまった。
ちなみに私の声もカスカスのままである。
どうしよう!!!
歌も歌えない!奇跡なんてましてやホイホイ起こせる人間じゃないのに!
悩む私にラトさんが変わらず励ましてくれるけど、じわじわと迫る期日が大変私の心を焦らせる。それなのに今日も無情に喉が治らない。
カスカスの声で起きてくると、ラトさんがすかさずニーナさんがくれた蜂蜜と薬草で作った激甘茶を手渡してくれた。朝から今日も口の中が甘い。でも飲む。治らないと切実に困るし。ゴクゴクと腰に手を当てて、一気に激甘茶を飲み干す
と、ラトさんが緊張した顔で私を見つめる。
「スズ、喉はどうだ?」
「う、う〜〜ん、まだ今ひとつですね」
「‥そうか」
私の様子を見てがっかりするラトさん。
ごめんね、毎日のように心配してくれているのに‥。激甘茶を飲み終えて、今日も今日とて赤い実を煮て畑に撒かないとなぁ〜なんて考えていると、ガタガタと家が揺れた。
「え、地震?」
家の家具や吊るしてある花がゆらゆらと揺れて、私とラトさんは目を丸くする。
なぜならこの世界は、神様に守られているから嵐はあっても、地震は一切ないのだ。それなのに地面が揺れてるってどういう事!?驚いて窓の外を見ると、ラトさんも警戒したような顔で外を見る。
「念の為、外を見てくる。スズはここに」
「は、はい」
ラトさんはちょっと緊張した顔で外を見回りに行ってくれたけど、歌の神様が守ってくれているこの世界で地震ってちょっとした異常事態だよね‥。私までドキドキとして、思わず部屋の中をウロウロ歩いてしまうけど‥。
「うう、なんでこんな時に声が出ないんだろ」
本当にタイミングの悪い私だ。
歌の神様?こんな歌の乙女でいいんですかね?
窓の外の小さな祠に立つ歌の神様の像を見て、小さくため息を吐く。
と、小さな暖炉の上に置いてあるマキアさんが持ってきた魔石がピカピカと光る。
「あれ?マキアさん?」
何かあったのかな?
魔石のそばに行くと、向こうから声がする。
ただ、いつもなら顔が映るのに声だけしかしない。
「マキアさん‥ですか?」
『スズさん!?そっち、大丈夫で‥』
マキアさんが何かを言いかけると、ザザッとまるで砂嵐のような音がして声が聞こえなくなってしまった。
「マキアさん?マキアさーーん?」
『気をつけ‥、そっち‥』
マキアさんの声が途切れ途切れに聞こえるけれど、何を言っているのかよく聞き取れない。そもそも映像が見えたはずなのに、それさえも見えないっておかしいよね?焦れていると同時にラトさんが家に戻ってきた。
「ラトさん、外は大丈夫でしたか?」
「ワン」
「あ、今、マキアさんから連絡が来てたんですけど‥」
「ワウ?」
ラトさんが大股で私の側へ寄ると、さっと手を握る。
「何かあったと?」
「いえ、何か言いかけてたんですけど、聞こえなくて‥」
「聞こえない?」
そう言いかけると、玄関のドアが激しくノックされて、ラトさんが急いでドアを開けると、ルノさんが息を切らせて立っている。
「今、丁度花畑にいたんだけど‥、地面が揺れて‥!それで、地面がゴォーッて鳴ってて‥」
「地面が鳴る?」
ラトさんが不思議そうな顔をするけれど、それって地鳴りの事かな?この世界は地震がないから、地鳴りもなんなのかわからないのは当然だろう。でも、ここは揺れただけであって地鳴りはしてない‥。
「ラトさん、花畑に行ってみましょう」
「それならスズはここで‥」
「花も気になるし、私だけここにいる事はできません!そりゃ、役には立てないかもしれないけど‥。この国を守る為にお手伝いするのが『歌の乙女』ですし」
カスカスの声でそう話すと、ラトさんはちょっと悩みつつ頷いてくれた。
そんな私とラトさんを見て、ルノさんはホッと息を吐きつつ、
「じゃ、悪いけどすぐに確認に一緒にいってくれ!あ、番犬!スズは抱えていいから!」
「歩きますって!!ちょ、ちょっとラトさん!?」
ええ、ルノさんの言葉でパッと笑顔になったラトさん。
ヒョイっと私を抱えると、颯爽と花畑までダッシュしたけれど‥、あの、これから調査なのにそれでいいの!??
ラトさんの体力が私も欲しい。




