番犬、早く治って欲しい。
気持ちの良い朝。
鳥の鳴き声と共にぱちっと目を覚ますと、いつの間にかベッドに寝ていて、横のベッドではラトさんが何やら書類をめくっている。
あれ??
なんで私はベッドにいるんだ?
さっき赤い実を煮ていて‥、それで‥、ダメだ。思い出せない。
「ラトさん‥」
カッスカスの声だけど、言葉が出た。
ラトさんは私のカスカスの声に目を丸くしつつも、すぐに駆け寄ると手をギュッと握って全開の笑顔になる。
「スズ!声が出た!!」
「あ、はい‥、まだカスカスですけど‥」
「でも嬉しい。そうだ!ニーナさんがくれた蜂蜜と、喉に効く薬草を飲もう!」
「わ、わかりました。わかりましたから、落ち着いて。あと、私はなんで寝ちゃってるんでしょう?」
「昨日、赤い実を煮てた時に出たアルコールで酔って‥」
「あ!!思い出した!」
薄ぼんやりとした記憶だけど、確かアルコールが出るとかニーナさんが言ってたな?
私、本当にアルコールに弱いんだなぁ‥。ムクッと体を起こして酒は飲むまいと心に誓ってから、昨日のままの服を着たままなので風呂にひとまず入ってくる事にした。流石にちょっと汚れを落としたいし。
ラトさんはお風呂に入ろうとする私を心配そうに見つめるけど、喉はあれだけど、体調だけは万全だから安心して欲しい。
「大丈夫、ラトさん。すぐ出てきますから」
「‥わかった。じゃあ、朝食を何か作っておく」
「え、私が‥」
「喉がしっかり治るまでは無理をしない方がいい」
ラトさんはきっぱりそう言い切ると、私をお風呂場までエスコートし、さっさとキッチンへ向かっていった。うん、うちの番犬は本当に心配性だな。シャワーの蛇口を捻って、熱いシャワーを浴びると体から力が抜けてホッとする。ようやく声が出たけど、もう少し出て欲しい。じゃないとラトさんが心配するから。
ペペルでふと喉の辺りを呪われたのを思い出して、そっと喉を撫でる。
あれが原因‥かな?でも、あの後は普通に声が出てたしなぁ‥。
歌の乙女として歌の勉強と、歌の歴史は勉強したけど、呪いはこの国では禁術だから学んでないから何にもわからないからなぁ。ニーナさんに今度会ったら聞いてみよう。
バスタオルで体をゴシゴシと拭いてお風呂から出ると、ラトさんがキッチンからすかさず顔を出し、
「スズ、髪を拭く!」
「い、いやいや自分で、ゴホッ!」
「咳が!!ダメだ、やはり喋らない方がいい!」
番犬よ、少しは落ち着いて。
今のはいきなり話したから出た咳だと思うよ?そう言いたいのにラトさんに手を引かれ、問答無用で椅子に座らせられると、あったかいお茶に蜂蜜をどれだけ入れたのか‥、一口飲んだだけで口の中が砂糖を飲んだのかと錯覚するほどの激甘お茶。思わずその甘さにむせそうである。
しかしそんな私の様子をじっと見つめるラトさん。
‥非常に心配されている。
なんとか飲み切ると、ラトさんは
「声は出そうか??」
と、すかさず言うので私は吹き出してしまった。
今すぐには出ないよ〜!でも、心配してくれるのは嬉しいので、そっと番犬の頭を撫でる。
「まだ、カスカスですけど、さっきよりは話しやすいです」
「そうか!じゃあ、もう一杯!」
めちゃくちゃ嬉しそうに言いますけど、ちょっと待ってくれ。
そんな激甘茶をわんこそばのように飲めないってば。
ラトさんは私の言葉にシュンとしつつも、いつの間にか私の髪を拭き、驚いている間に綺麗に焼けた卵焼きとパンを出し、またも激甘のお茶を淹れてくれた。‥虫歯にならないといいな。
卵焼きを食べつつ、キッチンの床を見ると赤く煮詰められた液体がバケツに並々と入っているのを見て、ハッとする。
「あ、赤い実の‥。うまくできたかな?」
「ニーナさんが確認してくれたが、あれで大丈夫だそうだ。今度煮る時は俺が外でする。その方が安心だろう」
「‥そうですね。酔っ払っちゃうと寝ちゃうみたいなので。ラトさん、昨日はすみませんでした‥」
「いや、それは大丈夫だ。頭が痛いとかは?」
「それはないです。喉だけですね‥」
歌の神様、ただでさえポンコツの私なのに歌が歌えないのでは最早一般人と変わらないかもしれませんが‥。まぁ、そもそも大した奇跡が起こせないし、一般人と同等なのでは??そう思っていると、ラトさんがニコニコ笑って私を見つめると、
「話せる‥とは、大きいな」
「そうですね。私もラトさんと話せて嬉しいです」
「‥‥そうか‥‥、俺も嬉しい」
そう言ってくれたけど、ラトさんはどこか苦しそうだ。
どっか痛むのかな??そっと手を伸ばして、ラトさんの額に手を当てると、ラトさんの顔が赤く染まったけれど‥、もしかして熱が移った?!
出かけた先で更新するのをすっかり忘れてたのを思い出した‥。
本日は2話更新です〜〜。
 




