番犬、照れてしまう。
心配するラトさんに抱っこされて、家まで戻った私。
嗚呼、途中で出会った村の人達のニヤニヤ顔‥。思い出すだけでのたうち回りたい。違うんだ、今回はちょっと声が出ないっていう明確な理由があるんだ‥。そう言いたいのに言えない。声が出ないってこんなにも辛いのか。
しみじみと痛感しつつ、その傍らでラトさんは赤い実を採るべく両腕に大きな籠を抱えてすぐに私の側へ駆け寄る。
「ワン!」
うん、早速実を採りに行こうって言ってくれているんだね。
そのキラキラした顔で、言葉にしなくても十分伝わるんだけど、なぜさっきは私の下ろしてくれという表情を見て抱っこをやめてくれなかったのか不思議だなぁ。
板切れに『裏の畑に赤い実があるんで、一緒に採りにいきましょう』と、書くとラトさんはそれはもう嬉しそうに微笑み、家のドアをさっと開けると、ラトさんは「早く行こう!」とばかりに笑顔で私を誘う。
その姿、完全に番犬である。
おかしい、恋人ってこんな感じだったっけ?
しかし、そもそも私達の出会いがおかしいので深く考えても無駄であろう。
私はワクワクした顔のラトさんに続いて、裏の畑に出ると、家からちょっと離れた場所に咲いている赤い野葡萄のような実を見上げる。
染物の材料として使ってたけど、まさか植物の成長を促進するなんて初めて知ったよ。流石エルフのニーナさんだな。
ちょっと腕を伸ばせば垂れ下がっている赤い実を可愛いな〜‥なんて思っている傍ら、ラトさんはそれはもう手際よくテキパキと実を採ってどんどん籠に入れていく。うむ、番犬が優秀すぎる。
あっという間に籠一杯に赤い実を採ってくれたラトさんは、私の持っている籠をヒョイッと持つと私の手をすかさず握って、ニコニコ笑いながら、
「手伝う」
って言ってくれたけど、いや、もう十分過ぎるくらい働いていると思うんでむしろ休んで下さい。そう言いたいのに、声が出ない〜〜!!嗚呼〜〜、もう!!帰ったら蜂蜜をしこたま食べておこう。結局、ほぼほぼラトさんが赤い実を採ってくれたので、私は果汁を絞り出す方に専念することにした。
家に戻って、一番大きな木のタライを持ってくると、ラトさんにそこに入れて貰うと、私は靴をポンポンと脱ぎ捨ててスカートの裾をちょっとまくって端っこで縛ってから、赤い実が沢山入ったタライに足を入れて、ニーナさんが教えてくれたように、足で踏み潰す。
お、ちょっとグニュっとするけど、確かに足で踏み潰すと果汁がすごく出る!
いつもはちょっと鍋に入れて煮出すだけの赤い実を踏むのが面白くなってきて、ぐっぐっと足に力を入れて踏み潰し、ラトさんに果汁を入れるバケツを持ってきて貰おうと顔を上げると、
真っ赤な顔で立ち尽くすラトさん。
ん?
どうしたのかな?
首を傾げると、ラトさんは慌てて目を逸らしたかと思うと、私の方を見ないようにそっと近付いてくると、私の体をひょいっと持ち上げ、そのまま近くの木の根元に私を下ろすと即座に自分の上着を私の膝の上に掛けた。
え、えっと、私は赤い実を潰したいのですが?
不思議に思って、顔を上げるとラトさんは依然真っ赤な顔のままで私の手を握ると、
「‥‥スズ、潰すのは俺がする」
ええ〜〜〜?
そんなの悪いってば!私がブンブンと首を横に振ると、ラトさんは目をウロウロさせて、
「‥‥スズの、その、格好は刺激が強い、から‥、お願いだ」
刺激が強い?
膝小僧を出しただけで??
目を丸くすると、ラトさんはそれはそれは恥ずかしそうに私を見て、
「‥スズにキスしたくなるし‥」
と、もごもごと話すラトさん。
瞬間、顔が赤くなる私。
そうでした!戻ったらイチャイチャしたいって言ってましたね!?
お互いに気恥ずかしくなって地面を見つめてもじもじしてしまうけれど‥、なるほど、それならそれで任せた方がいいのかな?小さく頷くと、ラトさんはそれはそれは心底安心したように息を吐き、私の耳元に顔を寄せると、
「‥その姿は、俺だけに限定してくれ」
と、男性に耐性のない私にものすごいトドメを刺して、赤い実を潰すべくタライへ向かって行ったけど‥、今度は私が赤い実のように顔が真っ赤になったのはいうまでもない。
普段のスズは、ロングスカートです。
乙女だしね!控えめな服装です!




