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番犬、仕留める。


全長1m、そして額には突き出た角がついている兎の魔物。

耳は確かに長いし、お尻の尻尾もふさふさと丸くて可愛いけれど、知恵があるらしく、イタズラ好きらしい。



池の側の茂みに隠れて、兎達の様子を見ていると、柵から出した牛を角で突いたり、体で押してはじゃれている。食べたりはしないのか‥。それにちょっとホッとしたけれど、ゆうに10匹はいるんだけど‥兎の魔物。これをラトさん一人で倒せるの?不安になって、横に茂みに潜んでいるラトさんを見上げると、小さく笑って頷く。


うん、それは大丈夫ってことなの?

それとも、ちょっと対策を立てようってことなの?

嗚呼〜〜〜、話でもできればなぁ‥。そう思うけれど、そんなのラトさんが一番そう思っているだろう。



板切れにラトさんが静かに文字を書く。


『兎はあれだけなら気を失わせておく』

「え、そんな事できるんですか?」

『毛が高く売れる』

「‥なるほど、結構しっかりしてますね」

『訓練にもなる』

「つまり一石二鳥と?」


私の言葉に静かに頷くラトさん。

やはり神殿騎士、日々の鍛錬は欠かせないのか‥。

思わず感心したけどそうじゃないよね。違うよね。何故休養に来てるのにサラッと毛皮を売ろうとか、鍛錬もしようとか思うんだ。



「待って、待って、もしかしてラトさん一人で行こうと?あんなにいるのに?」



小声で慌てて引き止めると、ラトさんはコクリと頷くと、板切れにまた何かを書く。


『危険だったら、声を掛けるので逃げろ』

「いや、それはこっちのセリフですって‥」


私がそう言った瞬間、突然何かが叫ぶ声が聞こえた。

え、なに?ラトさんと私、村長さんで茂みから顔を出すと、大きい象くらいある角を生やした大きな熊が兎の魔物を追いかけている。



「え、なにあれ!?」

「魔獣だ!!なんであれがここに!??」



村長さんが驚いて目を見開いている。

え、そんな珍しい魔物なの?村長さんが腰を抜かしているのを支えようとした途端、ラトさんが茂みから勢いよく飛び出した!



「ラトさん!?」



私の声などまるで聞こえてないラトさん。

足元がふわりと光ったかと思うと、ポンと勢いよく地面を蹴り、ものすごい高さで空を飛び上がる。


と、飛んだ!??


魔獣と呼ばれたそれは、ラトさんの姿を見上げようとするけれど、日差しが目に入ってうまく見えないのか一瞬大きな爪のある手がまごついた。その瞬間、いつの間にか抜かれた剣がザックリと首を一突きした。



「え」



魔獣は「グァッ」と叫んだかと思うと、そのままものすごい音を立てて後ろに倒れてピクピクと手足を動かしたかと思うと、パタリと動きを止めた。こ、これはもしかして倒した‥ってことか?一瞬の出来事過ぎて、私と村長さん、住民さんとぽかんとその光景を見ていると、静かに魔獣の血がついた剣を拭いて、鞘に納めたラトさんが私を見て、小さく微笑む。


と、ワッと村長さんと住民さんが歓声を上げた。



「ら、ラトさん、怪我は‥」



ラトさんの側へ駆け出すと、横に首を振り、嬉しそうに笑うその姿‥まさに大型犬である。‥なんていうか、ご主人に「仕留めましたよ!」と言わんばかりの微笑みに私は内心複雑ではあるが、村長さんが腰を抜かすほどまずい魔獣を一発で倒してくれたんだ。ここは褒めるべきなのかな?



「あ、ありがとうございます。すごいですね‥」



そういうと、ラトさんは嬉しそうにふにゃりと笑った。

ぐ、ぐああああああ、素直な微笑みの破壊力!!胸をぐわしと掴まれて一本背負いされた気分だ。思わず深呼吸してから周囲を見回すと、兎の魔物はさっきの魔獣が来たことで散り散りに逃げてしまっていた‥。


「あれ、う、兎の魔物が‥」


ラトさんはいつの間にか懐に入れていた板切れを出して、


『多分、魔獣が怖くてもう来ない』

「え、倒されたのに?」

『いたずらはするが臆病な魔物だ』

「そうかぁ‥、じゃあ当分大丈夫ですかね」


ラトさんが頷いて、私はホッとする。



「毛皮は残念ですけど、とりあえず良かったですね」



そう話すと、ラトさんはニコッと笑う。



『魔獣の毛皮はもっと高く売れる』

「‥ラトさん、かなりしっかりしてますね」



守護騎士とは金銭感覚がしっかりしているんだなって思って、私は騎士の認識を改めた。うん、お金は大事だもんね。





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