番犬、初仕事。
ひとまずそれぞれ身支度して、朝ご飯である。
今日はふわふわのフレンチトーストを作ってラトさんに出すと、それはそれは目をキラキラとさせていたけれど、騎士さんって美味しい物を食べてるんじゃないの?嬉しそうにもぐもぐと食べてくれると、それはそれで嬉しいけどね。
「今日も畑仕事をしてから、村まで行って板とか買ってきましょうか」
「ワン」
「あ、大工道具十分にあったかな。ラトさんあとで一緒に確認してもらっていいですか?」
私の言葉に頷くラトさん。
うん、大工仕事が出来るのは大変有り難い。ここはついでに家の隙間風も防げるか相談してみよう。そんなことを考えていると、家の玄関を叩く音が聞こえた。
「こんな朝早くから誰だろ‥」
ラトさんが心配そうに私を見上げるけど、大丈夫。ここの村めちゃくちゃ平和だから。
「はーい」
玄関をガチャッと開けると、そこには茶色の髪もちょび髭の顔も、全身泥だらけの村長さんが立ってる!?後ろにも村の住民さん達がいるけれど、同じように泥だらけだ。
「村長さんどうしたんですか??」
「牛が、また牛が逃げちまって‥今、やっと戻したんだ‥」
「ええ?!この間柵を直したばっかりじゃあ‥」
「それがどうも魔物がいたずらして柵を壊したみたいで‥」
「魔物!??」
こんな小さな村に魔物なんていたの??
驚いて目を丸くしていると、後ろからラトさんが剣を握ってこちらへやってくる。
「あ、騎士様‥!昨日、マキア様から話を聞いて、その、図々しいとは思ったのですが、魔物をどうにかして頂けないでしょうか‥」
ラトさんは静かに頷くけど、大丈夫なの?
だって話せないのに‥。私が心配そうに見上げると、小さく笑ってくれたけど‥心配しかない。
「あ、あの、私も魔物の所に行きます!」
「え?でもスズさん危ないですよ?」
私の言葉にラトさんが驚いた顔をして私を見る。
わかってるよ、役に立つかなんてわからないけど、でもラトさん話せないのに何かあったらどうするんだ。私は村長さんを見て、
「いざとなったら大声で歌って撃退します!」
「‥撃退、できるんですか?」
「‥ううっ、そんな絶対無理じゃあみたいな目で‥」
く、挫けてたまるか!
私はなんとか心を奮い立たせて、ラトさんと村長さんを見つめる。
「とにかくラトさんは話せないし、何かあったら危険ですから手伝わせてください」
「‥わかりました。でもスズさん気をつけて下さいね」
「それはもう。で、魔物が出る場所ってもうわかってるんですか?」
「ああ、それはもう。村の北にある池の所です。どうもそこに最近住み着き始めたようで‥。人は襲わないからと放っておいたら、余計な知恵をつけてイタズラするようになって‥」
へぇ、そんな魔物いるんだ‥。っていうかどんな魔物なんだろ。
ラトさんを見上げると、板切れに何か書いている。
『兎の魔物だろうか?』
「そ、そうです!見てもいないのにわかるんですか?」
『何度か退治したが、大概そいつらだ』
あ、そっか。
神殿の守護騎士になる前にまず騎士として訓練するんだもんね。
そりゃ魔物にも詳しいか。感心したようにラトさんを見上げると、ちょっと照れ臭そうに微笑む。うん、今日も美形だ。
ラトさんは鞘に入った剣を腰に携えると、板切れに『すぐ行く』と書いたので、村長さんと村の住民さん、私とで早速案内しつつ池まで歩いていくことになった。
「っていうか、なんでこんな村に魔物が来たんですかね」
「それなんだよねぇ‥。特に魔物が好みそうな餌はないんだけど」
「そうですよね。あ、そうだ。魔物っていっぱいいるんですか?」
「私は何匹かは見たけれど、どれくらいいるかは‥」
数匹くらいなの?
じゃあラトさんでも大丈夫かな?
なにせ神殿に守られてぬくぬくと生活していた私。兎って聞けば、前世での可愛らしいフォルムが思い浮かぶ。
捕まえたら、もしかして飼えるかな?なんて思っていたんだ。その時は。
池に着いた途端、兎の魔物が池の周りで土を掘っているのが見えたけど、そのサイズが完全に違うものだった。デカイ。とにかくデカイ。全長1mは確実にある。
「え、あれ、兎って括っていいんですか?」
「え?兎ってあのサイズだろう?」
キョトンとした村長さんに逆に聞かれた‥。
そうだった‥。ここは違う世界だった。
デカイ魔物だし、そもそも額の上にはちょっと突き出た角がついている‥。うん、無理だ。あれは飼えない。あっさりと私は兎を飼う夢を手放した。




