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番犬、離れる。


翌朝、気持ちとは裏腹に雲ひとつない快晴!

歌の神様、時々乙女心がわかってないとか言われない?今日くらいはちょっと曇り空でもいいと思うんだ。まぁ、私の個人的な考えですけどね。



身支度をして、鏡の前で両頬をバシッと叩いて気合を入れる。

ニーナさんの魔術のお陰で顔はいつものまんま。よしよし、ペペルの乙女もいるし歌もきっとなんとかなるかな?そんなことを思っていると、ドアをノックする音が聞こえて返事をすると、ラトさんが様子を伺うように顔を出す。



「あ、ラトさんおはようございます」



今日は気持ちを完全に切り替えているから、大丈夫!

翻訳アプリ、頑張るよ!とばかりに私は微笑んで手を差し出すと、ラトさんが私の手を見つめて、そぉっと壊れ物を扱うように優しく手を握ると切なそうに微笑む。いつもみたいに手を繋げてばいいのに、その優しい手つきに胸がチクチクと痛む。



「‥今日は、頼む」

「いやいや、それはこっちのセリフですよ。今日はお願いしますね」

「‥ああ」

「今日は何時にここを出るんですか?」

「‥8時半に」



ラトさんに話しかけても、ラトさんは私の手をじっと見ている。

あの、話を聞いてる?ギュッとラトさんの手を握って、


「ラトさん、大丈夫?」


そう尋ねると、ラトさんの瞳が突然揺れ動く。


「スズ、俺は‥」


ラトさんが何かを言いかけた途端、部屋のドアが激しく叩かれて私は思わず体が飛び跳ねた。な、何?!ラトさんが急いでドアを開けると、マキアさんが慌てた顔でラトさんを見上げた。



「ペペルの神殿に魔物が出たそうだ。救援要請が来た」

「えっ!??」

「スズさん、悪いけどここで待機しててくれ。自警団の人に乙女の警護は頼んだ」



急な出来事に頭が追いつかないけれど、コクコクと頷くとラトさんが私の手をギュッと握る。



「すまない、行ってくる」

「気をつけて!」



マキアさんはすぐ「馬を玄関に連れてくる」と言って走り出すと、ラトさんは私の手を惜しむようにそっと手を離したかと思うと、私をギュッと抱き寄せるように抱きしめた。



え。



私は驚いた顔でラトさんを見上げると、ラトさんは苦しそうな顔で「キュウ‥」と鳴いたかと思うと、そっと体を離して廊下の向こうへ走っていった。



「‥だから、何を言いたいのか教えてよ‥」



すぐに見えなくなってしまった廊下の向こうへ届く訳ないのに呟くと、へなへなと扉の前に座り込んだ。抱きしめるとか、なんでそんな事をするんだよ。せっかく人がなんとか気持ちを切り替えたのに‥。



はぁっと息を吐いて、ひとまず朝食食べに行った方がいいかな?それともここで待機した方がいいかな?あ、その前にニーナさんに声を掛けるべき?



ちょっと迷っていると、ふんわりと甘い匂いがする。

食堂からの匂ってきてる?立ち上がって、匂いの元を辿って歩いていくと廊下の一番奥から匂ってくる。



「ここって、確かペペルの乙女達の部屋、だよねぇ‥」



もしかして部屋で朝食を食べているのかな?

そう思った途端、ドスンと何かが落ちた音がしたと思ったら、またドタンと何かが落ちた音がする。え、ちょっと大丈夫?私はノックを何度かするけれど返事がない。


ちょっと迷ったけれど、ドアをそっと開いて


「あの、大丈夫‥」


ですか?

そう言葉を繋げようとして、部屋の中を覗くとペペルの乙女達が重なるように床に倒れている。その光景にギョッとして私は慌てて部屋の中へ駆け込んだ。



「ちょっと!大丈夫!??」



メルフィラさんの体を揺すって起こそうとしたその瞬間、急に体が固まって動けなくなって、床に転んでしまった。い、痛い!な、なんで突然体が??なんとか体を動かそうとしたその瞬間、青いローブの裾が目の前に見えた。



「え‥」



顔を無理矢理動かして、ローブの裾の上を見るとこちらを睨むように見つめるバレウス様が私を見下ろしている。



なんでペペルの乙女達が倒れているのに、何もしないの?声を出そうとするけど、言葉にならなくて驚いている私に手を近付けたかと思うと、目の前が真っ暗になって、そこから意識がなくなってしまった。





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