忘れ物を取りに下りたら※玲王
玲王視点です。
昨日組の屋敷に今日使う書類を忘れてきてしまった。
取りに戻る時間が無かったので榊に電話をかけ会社まで持って来るよう頼む。アイツに貸しは作りたくはないが仕方ない。後でどんな要求をされるか考えると舌打ちしたくなる。
そろそろ届けに来る頃かと思いエレベーターでエントランスまで降りると受付の社員が誰かと話していた。黒髪を下の方で一つに結びレースの上着をビスチェで締めたパンツスタイル。背の高い出てる所は出ている細身の体。後ろ姿だが美人なんだろう、通り過ぎる男性社員が露骨に見ている。
「……お名前を伺っても宜しいでしょうか」
「木崎です」
「はあ?木崎ぃ?あんた、あのゴスロリ娘の姉妹?
あいつしょっちゅう周さんを呼びつけて騒いで大変なんだから!婚約者だか何だか知らないけど周さんも迷惑してるのよ!さっさと婚約解消しろって姉?妹?のあんたから言ってよね!」
は?こんな会社の顔を言える場所でくだらない事響かせやがって。配置換えが必要か?いやまて、今木崎って言ったのか?あの木崎か?後ろ姿じゃ分からねぇ。
「そこ、何騒いでいるんだ?………お嬢?」
「あっ常務ぅ~お客様が来られたので今お呼びしようと思ってたんですよぉ」
こっちを向いた細身の女はお嬢だった。ゴスロリの姿しか見たことがなかったのもあるが、後ろからだと雰囲気自体が違いすぎて分からなかった。しかも素っぴんか?お嬢が素顔で外に出歩くなんて……つーか、受付のヤツ甘ったれた声出しやがって変り身早すぎだろ。
「ここで何をしてるんですか?榊は?」
「あー、えっと、榊さんに頼まれて封筒を持って来ました。……中身を確認してください」
そうだ、榊に書類を頼んでいたんだった。今までの格好じゃないから驚いて忘れてた。手渡された封筒を受け取り中身を確認し、お嬢を見る。やはり雰囲気もそうたが顔つきも違う。
「お嬢、その格好……」
「?変……ですか?」
「いや……いつもの格好じゃないので」
「いつもの?…ゴスロリ?ああ、あれ私の趣味じゃないし。似合わないですか?」
「趣味じゃない?」
「へっ?あー、うん、まあ、………えへっ」
こてりと頭を傾げ笑って誤魔化しているが誤魔化し方下手くそか。あまりに下手すぎて笑いそうになった。前は性格の悪さが顔に出ていたのに別人かと錯覚してしまいそうになる。
「そっ…それじゃあ榊さんが待ってるので」
そう言うとエントランスを小走りで抜け、自動ドアで盛大に転んでしまった。どうやら溝にピンヒールがはさまったようだ。
慌てて駆け寄ると恥ずかしさからなのかぷるぷる震えている。抱えて車まで運んでいるときに見ると恥ずかしいのか顔を手で覆って耳や首が真っ赤になっている。普段ならさも当たり前のような顔をしているのに本当にあのお嬢なのか?今まで視界に入れるのも嫌悪していたのにこのお嬢にはその感情が湧き上がらない。そういえばさっき変な事を言ってたな。まるで他人事のような言い方。
「あんの性悪……人の体で好き放題か」「私の趣味じゃない」
他人………まさかな。




