表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

4 夏休みって、長くて素敵

「あああぁぁ……やっちゃったぁ……」


 アトリエで水野さんは、そう(うめ)いて頭を(かか)えている。全裸の私は、そんな水野さんを一生懸命、(なぐさ)めようとしていた。どん(ぞこ)の精神状態である水野さんと対照的に、私は幸せで一杯である。何しろ好きな人から、最後まで、してもらえたのだ。この思い出だけで生きていけそう。


「だ、大丈夫だよ。悪いのは私だもん。こういうのは野良(のら)(いぬ)にでも(まと)わりつかれたと思って、忘れてくれていいから」


 確か、こういう場面で女の子を慰める時は、こういう表現を使うように思った。(ちが)ったっけ?


「何、言ってるの!? 処女を奪ったのよ、私! そんな、自分を卑下するような事、言わないでよ! 何で私が貴女(あなた)を自宅に(まね)いたと思ってるのよぉ……」


 私は水野さんから抱きしめられた。私は間抜(まぬ)けな声で、「え……?」と言うのが精一杯(せいいっぱい)


「知ってる? 私、友達が居ないの。誰かを家に呼んだ事も無いし、カラオケに行った事も無い。家の方針で、勉強と絵で頑張(がんば)ってきて、気が付いたら他の何も私には残ってなかった」


「……大丈夫だよ。私だって友達なんか居ないもの。勉強も絵も、私は出来(でき)ないしさ」


 近くに水野さんの顔がある。私の胸は無駄に大きくて、正面から抱きしめるには邪魔(じゃま)なので、水野さんは(なな)め前から私の首に腕を回していた。私は至近距離の彼女に、確認してみる。


「あの……私は水野さんの事が好きなんだけど。ひょっとして、水野さんも……?」


 私の事が好きなのか、とまでは恥ずかしくて言えなかった。もっと恥ずかしい恰好(かっこう)をしていたのにねぇ。(たい)して水野さんは、(うなず)いてくれた。まだ私は信じられなくて混乱している。


「で、でも何で? いえ、変に(うたが)いたくないんですけど、話した事も無かったのに」

貴女(あなた)、いつも真剣に絵を描いてたじゃない。技術は(つたな)かったけど、私、貴女の絵を描く姿勢が好きだった。自分の人生と格闘してるような、そんな気がしたの。姿(すがた)が美しかった」


 絵を描く人の表現だと私は思った。水野さんは、()見出(みいだ)す天才なのだろう。


「それに……もう気づいてるでしょう? 私、貴女の此処(ここ)が好きなの……」


 水野さんは首に巻き付けていた腕をほどいて、ちょっと距離を()けてから、私の体の()()()()に目を向ける。


「……ああ、そうだったんだ……嬉しい……」


 恥ずかしそうにしている水野さんに、(あらた)めて(いと)おしさを感じる。ややあって、私達は自分の体に絵具が付いてしまった事を確認した。水野さんも全裸では無いけれど服を脱いでいて、白い肌の上にペイントされてしまっている。その姿さえ芸術品のように私には見えた。


「じゃあ……お風呂(ふろ)に入ろうか?」


 お互いの体を見渡してから、同時に、そう言って。それから私達は、一緒(いっしょ)に笑い合った。




 もちろん、お風呂は二人で一緒。私はエプロンを床に放置したまま、全裸で浴室まで歩いたのでした。どうせ、また裸で抱き合うのは分かっていたので。


 私も水野さんも、普段から髪は短くしていて、これは絵具で汚したくないからだ。もし私達の髪が長かったら、画室の床で(ひど)い事になっていたかも知れない。お風呂で私と水野さんは体を洗って、それから再びイチャイチャを(たの)しんだのでした。


 私の方は出血もしてたので、残念ながら、その日の浴室ではソフトタッチで終わったけれど。しかし夏休みというのは長いのである。その後も私は、毎日のように、水野さんの家のアトリエに(かよ)わせてもらって。そして必ず、愛し合ってから帰りました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ