4 夏休みって、長くて素敵
「あああぁぁ……やっちゃったぁ……」
アトリエで水野さんは、そう呻いて頭を抱えている。全裸の私は、そんな水野さんを一生懸命、慰めようとしていた。どん底の精神状態である水野さんと対照的に、私は幸せで一杯である。何しろ好きな人から、最後まで、してもらえたのだ。この思い出だけで生きていけそう。
「だ、大丈夫だよ。悪いのは私だもん。こういうのは野良犬にでも纏わりつかれたと思って、忘れてくれていいから」
確か、こういう場面で女の子を慰める時は、こういう表現を使うように思った。違ったっけ?
「何、言ってるの!? 処女を奪ったのよ、私! そんな、自分を卑下するような事、言わないでよ! 何で私が貴女を自宅に招いたと思ってるのよぉ……」
私は水野さんから抱きしめられた。私は間抜けな声で、「え……?」と言うのが精一杯。
「知ってる? 私、友達が居ないの。誰かを家に呼んだ事も無いし、カラオケに行った事も無い。家の方針で、勉強と絵で頑張ってきて、気が付いたら他の何も私には残ってなかった」
「……大丈夫だよ。私だって友達なんか居ないもの。勉強も絵も、私は出来ないしさ」
近くに水野さんの顔がある。私の胸は無駄に大きくて、正面から抱きしめるには邪魔なので、水野さんは斜め前から私の首に腕を回していた。私は至近距離の彼女に、確認してみる。
「あの……私は水野さんの事が好きなんだけど。ひょっとして、水野さんも……?」
私の事が好きなのか、とまでは恥ずかしくて言えなかった。もっと恥ずかしい恰好をしていたのにねぇ。対して水野さんは、頷いてくれた。まだ私は信じられなくて混乱している。
「で、でも何で? いえ、変に疑いたくないんですけど、話した事も無かったのに」
「貴女、いつも真剣に絵を描いてたじゃない。技術は拙かったけど、私、貴女の絵を描く姿勢が好きだった。自分の人生と格闘してるような、そんな気がしたの。姿が美しかった」
絵を描く人の表現だと私は思った。水野さんは、美を見出す天才なのだろう。
「それに……もう気づいてるでしょう? 私、貴女の此処が好きなの……」
水野さんは首に巻き付けていた腕をほどいて、ちょっと距離を開けてから、私の体のある一点に目を向ける。
「……ああ、そうだったんだ……嬉しい……」
恥ずかしそうにしている水野さんに、改めて愛おしさを感じる。ややあって、私達は自分の体に絵具が付いてしまった事を確認した。水野さんも全裸では無いけれど服を脱いでいて、白い肌の上にペイントされてしまっている。その姿さえ芸術品のように私には見えた。
「じゃあ……お風呂に入ろうか?」
お互いの体を見渡してから、同時に、そう言って。それから私達は、一緒に笑い合った。
もちろん、お風呂は二人で一緒。私はエプロンを床に放置したまま、全裸で浴室まで歩いたのでした。どうせ、また裸で抱き合うのは分かっていたので。
私も水野さんも、普段から髪は短くしていて、これは絵具で汚したくないからだ。もし私達の髪が長かったら、画室の床で酷い事になっていたかも知れない。お風呂で私と水野さんは体を洗って、それから再びイチャイチャを楽しんだのでした。
私の方は出血もしてたので、残念ながら、その日の浴室ではソフトタッチで終わったけれど。しかし夏休みというのは長いのである。その後も私は、毎日のように、水野さんの家のアトリエに通わせてもらって。そして必ず、愛し合ってから帰りました。