私には、3人の家族がいるの。②
あわあわ以外にも買ってくれると約束してくれたコウがリビングに到着すれば、奥のキッチン近くにあるテーブルには既に料理が並べられていて、側にあるイスに私は降ろされる。
目の前にあるのはトーストで上には目玉焼きとベーコンが乗っていて、それをじーっと見ていれば白いマグカップが置かれた。
「いつものカフェオレだ。火傷しないように気をつけろよ」
「ありがとう」
「さて、カイはそろそろ来ると思うから先に食べてな」
「うん、いただきます!」
「どうぞ、召し上がれ」
きちんと“いただきます”を言って、トーストを口へと持っていく。
半熟の目玉焼きにベーコンの組み合わせが私は好きで、朝ごはんは大体コレを食べていた。
だって、美味しいんだもん。
「あれ?今日は僕もトースト?」
「そうだ。夜ごはんは豪華にするから朝ごはんは軽めにした」
もぐもぐと食べていれば、濡れた髪をタオルで拭きながらカイがやってくる。
私はパンの方が好きだから朝ごはんは決まってトーストだけども、カイの場合は毎日違う。
おにぎりの時もあればトーストもあるし、日によってはうどんとかもある。
まあ、うどんとかの時は基本的に徹夜続きの時だけだけども。
「なんで?」
「もぐぐ!」
「ああ、アイツが帰ってくるからか」
夜ごはんが豪華な理由、それはもう1人の家族が帰ってくるから。
その事をトーストを口に含みながら答えれば、上手く話せなかったのにカイには伝わったようで少しだけ嫌そうな顔をしている。
私たちの中で最も家にいないのは姉である彼女であり、長い時には数ヶ月も仕事で帰ってこない。
本人は何日も家族に会えないというのは耐えられないと駄々をこねる時もあって、その度にコウが問答無用で仕事場へと連れ出し、カイからは冷たい視線を向けられている。
「こら。ハク、食べながら話すのは行儀が悪いぞ」
「んっく、ごめんなさい…」
「ああ、今のは僕が悪いね。食事中に聞いてごめん。それから、教えてくれてありがと」
飲み込んでから謝れば、カイが私の頭を撫でてくれる。
そして、撫で終われば向かい側の椅子に座ってキッチンにいるコウへと視線を向けた。
コウは挨拶や食事中のマナーで間違えると怒るけども、カイは一度も私を怒ったことはない。
今だって、私が勝手に話しただけなのに自分が質問したからだと言って頭を撫でてくれるし、いつだって優しい。
ああ、でもコウも優しい。
というか、私の家族は3人とも優しい。
「カイ、俺はこの後迎えに行ってくる。また勝手にフラフラと迷子になられても困るからな」
「りょうかーい。ホント、アイツってばいつまで経っても道に迷うよね。何歳だっての」
「そう言うな。完璧すぎないところが相棒らしいんだからさ」
「完璧、かぁ…」
2人が会話している間に私はトーストを食べ終え、カフェオレで一息。
ん、やっぱりこの甘さがちょうどいい。
「どこか抜けているのが可愛いだろ?」
「はぁ?アイツが可愛いとかありえないんだけど」
「くく、カイは本当に相棒に対して素直じゃないな。俺としてはカイのそういうところも可愛いと思っているんだが?」
「うげ。男に可愛いとか言わないでよ。というかさ、一番可愛いのはハクでしょ。ハク以上に可愛い存在なんていない」
「ああ、それは俺も同じだな」
ふぅ、とカフェオレを堪能していればいつの間にか2人が私を見ている。
微笑みながら私を見ていて、理由が分からずに見つめ返せば再びカイが私の頭を撫でてくる。
何の話をしていたんだろ?
「あー、可愛い…」
「はいはい。分かったから早く食べな。俺の作った朝ごはんが冷めるぞ?」
「うっわ、それは嫌だ。いただきまーす」
「ん」
ご飯が冷めると言われると、カイは慌てながらもいただきますをきちんと言ってトーストを食べ始めた。
仕事に集中していると食事も食べなくなる時があるけども、いつからかコウが作る食事だけは必ず食べるようになったんだっけ。
確かに美味しいもんね。
「さて、そろそろ準備して行ってくる。カイはこの後も仕事だろ?」
「まあね。何時くらいに帰ってくるの?」
「ごはんの支度もあるから、18時までには帰って来れるようにする。普通に迎えに行くだけならすぐにでも帰ってこれるんだが、いつも通りならば相棒の買い物にそのまま付き合わされるだろうからな。カイ、昼ごはんだけお願いしてもいいか?」
「もちろん。ハク、何が食べたい?」
「んー」
夜ごはんはコウが豪華にすると言っていたから、多分だけどアオイの好きな物ばかり作ると思う。
アオイが好きなのって、確か…。
「ちなみにだが、夜ごはんはメインにハンバーグとピザ、スープはポトフ、つまみにソーセージとフライドポテト。食後のデザートはプリンだな」
「珍しいね。てっきり、カレーかと思った。他にもグラタンやアラビアータでも作るのかと」
「それも考えてはいたんだが、カレーは先週食べただろ?グラタンやアラビアータも作れるが、それだと1人ずつの好みが違う。グラタンは相棒とカイがシーフードで、俺はチキン、ハクはかぼちゃ。アラビアータだと俺と相棒は辛口でもいいが、カイとハクはトマトバジルで辛さ控えめ」
私たちは基本的にコウが作る料理なら全部好き。
でも、やっぱり好みはそれぞれ違う。
コウとアオイは辛い料理が好きだけども私とカイは甘めが好きだし、アオイとカイはお魚料理が好きで、コウがお肉料理、私は野菜がいっぱい入ってる料理。
もちろん苦手な食べ物だって違う。
ただ、1人を除いて。
「というか、アオイは何でも食べるから一番好きな料理が分かんないんだけど」
「俺もだよ。前に聞いてみたことはあるんだが、“コウの料理なら全部好き!!”と満面の笑みで言われてな。もちろん作り手としては嬉しいが、毎日のメニューを考える参考にはならなくて困ってる」
「私も!コウの料理は全部好き!」
「ん、ありがとな」
私と同じ考えをアオイが前に言っていたみたいで、自分も同じだと右手を挙げながら伝えれば優しく笑いながら頭を撫でてくれた。
大きくて温かい手。
その気持ちよさを堪能していたけども次の言葉で思わず固まった。
「それじゃあ、苦手なピーマンも食べてくれると嬉しいな」
「うぐっ…」
「ハクってばお野菜好きなのに、苦いのは嫌いだよねぇ」
だって、苦いんだもん。
お野菜は好きだよ?
でも、でも、ピーマンとか苦いじゃん。
「むぅー!それを言うなら、カイだってトマトが苦手じゃん!」
「………あー、うん。ほら、人には苦手なものが1つや2つくらいあるのは普通じゃない?」
「あー!自分のお話になると逃げたー!」
コウの言葉を聞いて固まっていると、カイが楽しそうに笑いながら私を見ていた。
自分だってトマトが苦手なのにとムッとして言えば、私から顔を逸らして小さく普通だと言いながら逃げた。
ずるい。
思わず立ち上がって反論しすると、コウが私の頭をぽんぽんと軽く叩く。
「ほーら、お行儀が悪いぞ?」
「だって…」
「カイ、お前もだ。お兄ちゃんなんだから、妹に意地悪するなよ」
また怒られちゃった。
でも、今のは悪くないもん。
意地悪するカイが悪いんだから。
コウと同じことを私も言おうとカイを見れば、困った表情をしながら私を見ていて思わず言葉に詰まった。
「ごめん。ハク、許してくれる?」
「………お昼に、アイス食べさせてくれるなら」
「……!うん、ありがとう」
ふわっ、と。
優しい表情で笑うカイに、私も自然と笑う。
やっぱり、家族の笑顔が私は大好き。
「仲直り出来て偉いな」
「えへへ」
「ちょ、僕まで撫でるのはやめてよ!」
「いいだろ?それに、さっきも言ったが俺にとってはお前も可愛い弟なんだ。妹と弟。可愛い2人を前にして愛でたくなるのは兄として当然なんだよ」
「………ばか」
カイと見つめ合いながら笑っていれば、2人同時にコウから頭を撫でられる。
私は嬉しいけどもカイは恥ずかしいみたい。
ほっぺたを少しだけ赤くしながらコウから視線を逸らしていて、コウはそんな態度をされても嬉しそうに笑っている。
いつだって、コウが笑うのは私とカイを甘やかしている時だけ。
だから、この時間が私は好き。
「さーて、可愛い妹と可愛い弟を愛でられたし行ってくるか」
「っ、あー!もう!早く行きなよ!」
「はいはい」
これ以上は本当に怒りそうなカイを見たからなのか、コウは私たちから離れるとリビングのドアへと向かう。
でも、なぜか廊下に出る前に立ち止まって振り返った。
視線はカイに向いている。
どうしたんだろ?
「カイ」
「何?」
「丁重にお断りしていたんだが、もしかするとアポなしで来客があるかもしれない」
「……!」
「忙しいところ悪いが、もし来客があったら応対を頼む。一度お断りしている客だから、多少は乱暴に追い返しても構わない」
「へぇ?それじゃあ、久しぶりに接待してあげよっかな」
「接待では満足してもらえないだろう。許可は出す。好きにもてなしてやれ」
「ふふ、りょうかーい」