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天使の幸せこそ、悪魔の望むハッピーエンド  作者: 真花 涼
天使は、優しい家族が好き
5/7

私には、3人の家族がいるの。

ふかふかのお布団と、抱き枕として使っている可愛い猫のぬいぐるみ。

目を覚ました時に必ず視界に入るそれらは、私のお気に入り。


「ふぁ…」


「ん?ああ、お目覚めかな?」


まだ眠気が残る体で欠伸をすれば、背後から聞こえてくる優しい声。

可愛い猫のぬいぐるみを抱きしめながらゴロンと寝返れば、頭の上に乗せられるのは大きな手。

視線を上げると、黒いショートカットの髪で右目だけ隠れている青年が優しく笑いながら私を見ていた。


「こ、ぉ…?」


「ふふ、おはよう。ハクは相変わらず朝が弱いな」


「ん…」


私の兄、コウはそう言いながらも無理に起こそうとはしなくて、いつも私の意識がハッキリするまで頭を撫でてくれる。

昔からそうだった。

目を覚ますと必ず兄が側にいて、眠気がなくなるまでは頭を優しく撫でてくれる。

朝が苦手な私にとってはこの時間が大好き。


「ハク、お返事は?」


「えっと、おはよ…」


「うん、おはよう。よく出来ました」


褒められた。

嬉しい。


「朝ごはんはパンでいいか?」


「うん…」


「分かった。今日はアイツが帰ってくる日だ。そろそろ起きないと、寝込みを襲われるぞ?」


「うぅー…」


それは嫌だと、頭をぐりぐりとコウの手に押し付けて反抗してみる。

けれど、それすらもコウは優しく笑って受け止めてくれて、これ以上は反抗しても意味がないと思い仕方なく起き上がり、可愛い猫のぬいぐるみは枕の側に置いてベッドから降りる。


「ん、いい子」


「むぅ…」


何をするにも、コウはいつだって私を褒めてくれる。

最初は嬉しかったけども、今では子供扱いされているようで少し不満があった。

でも、褒めてくれる時に見せる優しい笑顔を見るのが私は好きで、それが見れなくなるのは嫌だったから子供扱いするなという反抗はしたことない。


「さて、俺は先に行ってるぞ。着替え終わったら、いつものお仕事を頼む」


「……!うん、分かった」


「ん、いい返事だ」


返事をするだけでも褒めてくれた。

再び私の頭を撫でるとコウは部屋を出ていき、私はベッドから離れるとクローゼットへと向かい中から1着取り出す。

といっても、私が着る洋服はいつもワンピース。

目の前に並んでいるワンピースは全てもう1人の兄が作ってくれていて、色は白一色だけ。

昔は様々な色の洋服があったけども、私が白色のワンピースしか着れなくなったこともあって今はそれしか持っていない。


「リボン付きだ」


白のワンピースがお気に入りだと知っているもう1人の兄は、同じ色でも少しずつ違うワンピースを作ってくれて、同じ白色でもそれぞれにリボンやレースがついている。

昔と違って他の洋服が着れないからこその楽しみ。


「よし、お仕事をしますか」


ペタペタと裸足のまま歩き出し、部屋を出ると向かったのは廊下の先にある部屋。

2階にある部屋は私の自室ともう1人の兄の自室だけ。

コウともう1人の姉の自室は3階にある。


「カイー?起きてるー?」


ドアをノックしながら声をかけてみるけども反応はない。

ここまではいつものこと。


「お邪魔しまーす」


ドアを開けて入れば、真っ先に目に入ってきたのは床に散らばる無数の紙。

それぞれの紙には洋服のデザインが描かれていたり、譜面が書かれていたり、言葉が綴られていたたり、本当に様々な紙が散らばっていた。

視線がそれらに向いていると部屋の奥からかすかに寝息が聞こえてきて、そちらを見ればこちらに背を向けているもう1人の兄の姿があり、床に座りながら灰色の頭だけベッドに沈んでいるという寝落ちしたっぽい体勢で眠っていた。


「むぅ、また座って寝てる…」


家族の中で最も忙しいもう1人の兄、カイ。

彼は洋服のデザインはもちろんだけど、作詞作曲もしていて常に何かしらの創作活動をしている。

だからこそ、頭の中にアイデアが浮かぶとご飯を食べたりするのも忘れちゃうし、今みたいにベッドで眠る前に力尽きるのも当たり前。

私はいつかカイが体を壊さないか心配で、今日は大丈夫なのかなとこうして起こしにくる仕事をコウから貰った。


「起きて、カイ」


「……っ、ぅ…」


声をかけながら肩をぽんぽんと叩けば、ベッドに沈んでいた顔が微かに上がる。

嫌そうな表情に思わず離れそうになるけども、その前に肩にあった私の右手が掴まれてそのまま頬へと持っていかれた。


「カイ?」


「……あぁ、僕の、」


「……?」


寝ぼけているのか、カイは毎朝こうやって私の右手を自分の頬へと持っていく。

前に触れないで声だけかけて起こそうとしたけども、その時は全くカイが目覚めることはなくて、私がこうして触れながら声をかければ不思議とカイは必ず目を覚ます。

コウに聞いてみれば、微笑みながら毎朝同じように起こしてやってくれとしか言われなくて結局どうしてなのかは分からないまま。


「んー、おはよう…」


「……!おはよう、カイ!」


「うん、今日も元気で良かった」


しばらくすれば意識がハッキリとしたみたいで、カイは私の右手を頬に触れさせながら挨拶してくれた。

それに返せば微笑みながら立ち上がり、私の右手を握ったまま歩き出す。

右手を握られているから私もそのまま着いていけば向かった先はカイの部屋にだけあるアレへの入り口。

って、ダメダメ!


「カイ、カイ、私は…!」


「ん?一緒に入ろ?」


「ふぇぁ…!?」


家族とはいえ、流石に一緒に入るのは色々とダメな気がする。

というか私が恥ずかしい。

だって。


「ふふ、真っ赤にしちゃってかわいー」


「だって、だって、!!」


「いいでしょ?家族で一緒に、っぃて!?」


「良いわけないだろ。カイ、家族とはいえ男女で一緒に風呂に入ろうとするな」


どうにか抵抗していれば、カイの頭が揺れる。

早くて何が起きたのか分からなかったけども、カイが不服そうな顔をしながら私の背後を見て自然と私も振り向いた。

すると、ぽんっと何かが頭の上に乗せられてそのまま撫でられる。

上を向けば、先ほど別れたばかりのコウが優しい顔をしながら私たちを見ていた。


「僕だってハクとお風呂でイチャイチャしたいんだけど」


「あのなぁ、可愛がるのなら普段でも出来るだろ」


「普段とお風呂は別。お風呂だったら僕だけがハクを独占できるし、せっかく泡の入浴剤もあるから一緒に楽しみたかったんだけど」


「あわあわ!?」


一緒にお風呂に入るのは恥ずかしいけども、カイが言ったあわあわの入浴剤に思わず反応すればコウに体を抱き寄せられた。

同時に自然とカイから右手が離れ、今度はコウに握られる。

その事が不満みたいでカイはムスッとしていた。


「コウばっかりズルい…」


「はいはい、入浴剤を楽しみたいなら俺が一緒に入ってやる」


「……!本当!?」


「ああ。しばらくは大きな仕事も無いしな。普段はシャワーだけで済ませていたが、たまにはのんびり入るのも悪くないだろ」


普段は仕事が忙しいからお風呂ですらのんびりする事は無いコウだけども、今はその仕事も落ち着いているみたいで珍しくカイと一緒に入ると約束した。

その事にムスッとしていたカイの機嫌は良くなって1人でお風呂場へと歩き出す。


「約束したからね!コウ、今日の夜は一緒に入ろ!」


「分かったから早く入ってこい。朝ご飯が冷めるぞ」


「うん!」


カイがお風呂場へ入ったのを見届けると、コウは私の体を抱き上げてそのまま部屋を出て1階へと向かう。

移動中、私はカイの子供っぽい姿を久しぶりに見れたことに嬉しくなっていた。

いつも私の前では優しいもう1人の兄だけども、コウの前では甘えたい弟。

普段は見れない弟としてのカイを見るのが私は好きだった。


「ハク、どうした?」


「んー、私もあわあわに入りたかったと思って」


「じゃあ、今度買っておくよ」


「本当!?」


「もちろん。他にも楽しめそうなのがあったら、それも一緒に買っておくから楽しみにしていてくれ」


「うん!」




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