第5話
ウクライナ東部戦線の膠着状態を打開するべく、ロシア軍はベラルーシ方面からの攻勢を強めていた。中でもロシア西部軍管区の第1親衛戦車軍はキエフ攻略に一番乗りを果たすべく電撃的進撃を続けていた。
首都キエフの陥落はセレンスキー大統領を失い、ウクライナの崩壊を意味していた。ロシア軍のキエフ攻略を全力で阻止するべく、ウクライナ軍は西部方面と北部方面から一部の部隊をキエフ防衛に投入することを決定した。
ロシア連邦軍西部軍管区の司令官、ワレンスキー大将はウクライナでの戦況に苛立っていた。
当初の計画では短期間でウクライナ軍の戦意を喪失させロシア側の勝利で終わるはずだった。だが、ウクライナ軍の抵抗は予想以上に手強く、キエフ周辺の防備も固めている。
参謀長のイワノフ少将が最新の情報を持ってワレンスキーのところへやって来た。
「ウクライナ東部戦線からの情報では、ウクライナ軍空挺部隊の強い抵抗を受けて進軍が止まっているようです」
「アメリカンスキー達が与えた武器も持っているのだろう?」
「はい。強力な対戦車ロケットで、ウクライナ兵から『聖なるジャベリン』と呼ばれているものです」
「ううむ、厄介だな」
ウクライナ軍の空挺部隊、ウクライナ空中機動軍は1992年にウクライナ領内に駐屯していたソ連空挺軍部隊を基に創設され、敵地後方に浸透しての指揮系統の破壊、退路遮断、侵入した敵空挺部隊等の排除を主な任務としている。アメリカンスキー達が与えた対戦車兵器を使いこなすウクライナ空挺部隊の抵抗を聞いて、ワレンスキーの頭に「アフガンの二の舞」という言葉が一瞬浮かんだ。ソ連のアフガン侵攻の時にもアメリカンスキーがアフガンゲリラにスティンガーミサイルを提供してソ連軍を敗北させた。
ウクライナでの戦いが長期間していることでロシア国民からも反戦感情が湧き、ロシアは国内外から非難されている。ロシア軍の敗北という最悪の事態はワレンスキーも避けたかった。
「ともかくウクライナ軍の抵抗をなんとか排除して進軍させろ。自走榴弾砲の他、スメーチやグラートなどの多連装ロケットももっと活用しろ。一刻も早くキエフを攻略させるのだ。第1親衛戦車軍を指揮するカラシニコフを含め、全軍に伝えろ」
「分かりました」
イワノフは踵を鳴らして敬礼すると引き下がった。