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弟 隆(たかし)

 神様は気まぐれだ。



 元旦。

 なんてことはない近所の神社の初詣。

 だけれども、その年はいつもと違った。

 ちょっと神様がやる気を出したのかもしれない。




 ***



 3年後。

 夏。


 僕の名前はたかし。高校3年。


 自分の部屋で呆然としていた。

 思考は止まっているのに耳だけは冴えていた。

 隣の兄のりょうの部屋からアノ最中の音と振動と声が聞こえる。

 家に帰ってきたら隣の部屋は既に真っ最中。

 いや、見たわけじゃない・・・・断言してはいけない・・・・じゃれてるだけかもしれない・・・・・ただのマッサージかもしれない・・・・


 兄が女を連れ込むのはよくある。職場の後輩とかバイトの女の子とか。はっきり言って兄の女性関係は乱れてる。昔からだ。

 以前、隣でこっそり聞き耳を立てていたら、あとで兄に頭を殴られた。

 だから、兄が連れ込んだ彼女とお楽しみの時は気を利かせて家を出るのがお約束。


 だが僕は部屋に居続けた。耳を澄ませた。記憶の中の声とその声を比べた。

 そっと家を出ようと思ったのに、声が耳に入ってから僕の足は前に出なくなった。


 美奈。


 美奈かもしれない。

 幼馴染にして同級生。

 家は隣なのにもう2年以上会話がなかった。


 僕の好きな人。


 涼兄の連れ込んだ最近の彼女の声じゃない。

 美奈の声に聞こえる。

 それに『涼』と呼ばずに『にい』と呼ぶのは美奈しかいない。

 心臓が締め付けられる。

 違う人であって欲しいのに聞けば聞くほど美奈の声。

 しかもこの音は・・・


 美奈は学年でも3本の指に数えられる美少女。いや、先日誕生日が来て18歳になったから立派な女といってもいい。

 子供の頃は毎日一緒で、親たちからは夫婦みたいだねとよく言われた。実際仲は良くてそのまま恋人になるのかと思ったくらいだ。少なくとも美奈はそう思って居たと思う。彼女扱いを要求してきたし、我が家のキッチンを我が物顔で歩いて居たし。

 でも、中学3年後半から僕と話さなくなった。

 あの時は受験のせいだろうと思ってたし、美奈を異性としてみてなかった。

 正直、あの頃の美奈は学年でも『女』と『子供』と分類するならば後者だったし。

 そして美奈は少しずつ女らしくなり、部活を引退してからは更に美しくなった。


 まだ昼間なのに、高い声がする。

 童貞には刺激が強すぎる。

 そして美奈じゃないかと思えば思うほど心が掻き毟られる。

 あの顔、あの身体、あの声が兄に?

 僕じゃない。


 美奈は夏あたりから告白される事が増えた。

 それを美奈は全て断っている。

 噂では彼氏が居るのではと言われてたけれど本人は全否定。

 その発言を又聞きして僕もホッとして居た。

 でもそれと同時に焦って居た。

 これから美奈に告白をスタンバってる男も居たし、リベンジ組みも居る。

 当然だ。

 美奈は可愛すぎる。

 そして男を狂わせる色気。

 美奈が欲しい。

 子供の頃の美奈なら間違いなく俺の胸に飛び込んでくる。でも今は?

 もう、連絡事項以外2年も話してない。


 今日告白しよう。

 今日こそ告白しよう。

 今日・・・・

 無駄に過ぎる日々。


 そして今日。






 壁越しに会話が聞こえた。


「お願い」

「欲張りだな美奈」


 きっと2人はセックスなんてしていない。

 絶対に違う!絶対に違う!

 絶対に違う!絶対に違う!

 絶対に違う!絶対に違う!

 きっとマッサージか体操だ!

 じゃなきゃ僕は・・・



 隣の部屋が騒がしいうちに僕は存在を消した。

 玄関にあった女物の靴は美奈の物に見える。

 外から見た美奈の家は明かりもなく音もない。多分留守。


 家に居たくない。

 危なっかしい運転で自転車を走らせる。

 もう、町から出てしまった。


 大好きな美奈。

 もっと早く美奈のことを自覚してたら。

 子供は大人になる。

 そんな当たり前のことを分かっていなかった。

 子供だったけど、美奈は可愛かったじゃないか。

 美奈のお母さんも綺麗だったじゃないか。

 僕のことを好きだと言ってたじゃないか。

 あの頃に戻りたい。



 日が暮れた。

 もう帰らないと。

 家に帰って何も知らない振りができるかな。

 涼兄の前で平静でいなければ。

 美奈が居たらどうしよう。


 どうしよう。




 何気なく見たアパートの3階の窓から女性が見える。着替え?

 ほんの少しのカーテンの隙間から一瞬胸が見えた。

 ほんの一瞬、0.1秒?

 しかもとても遠い。

 

 大きかったように見える。


 次に見えた時、女性はもう服を着て居た。


 宮田先生?

 中学の時の憧れの宮田先生だ。ここが家だったんだ。

 あの大きな胸は男子の憧れだった。

 見ても感動はしなかった。今日は日が悪過ぎる。

 あの頃の自分なら喜びのあまり叫んでいたかもしれない。

 そしてあの頃あんなに見たかった宮田先生の胸が見れたことより、美奈の胸を見れない立場になったことが辛かった。




 美奈、美奈、美奈。

 美奈、美奈、美奈。

 美奈、美奈、美奈。



 やり直したい。

 美奈が欲しい。

 昔に帰りたい。


 必死に願った。





ヨガかな。

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― 新着の感想 ―
[一言] とても悲しい話に見えます。 彼の好きな幼なじみは彼自身の兄弟によって倒されましたか? なぜ胸が締まるのか。 すでに窒息するほどのダメージを感じています
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