こんな夜更けに。
私の父は建設業の仕事をしていて、泥だらけになった作業着のまま帰ってくる姿が印象的でした。
雨の日になると、会社で事務作業がない時は休みになったので父と遊べる事が楽しみでした。
遊ぶ内容は図画工作やあやとり、特に折り紙が好きで父に色々な形をせがんでは作って貰いました。
そんな思い出は小学2年生で終わってしまいます。
父は作業中に、足場から落下して亡くなりました。
安全ベルトにも問題は無くヘルメットをしていましたが、打ち所が悪かった様です。
父は29歳で生涯を終えました。
そんな悲しみと絶望の中、母は私を必死に育ててくれました。
パートを何回も掛け持ちしては夜中帰って来ない日もありました。
寂しさはありましたが、幼いながらにひたすらに働く母の姿を静かに見つめていました。
冬休みにはかならず父の実家に里帰りしていました。
高校受験を控えた今年も母と一緒に東北へ向かいました。
父の古い家系は神社を造る職業だったらしく、特に《がしゃり神社》を建てるのに苦労したそうです。
赴きのある日本家屋で、大きな池や剪定された庭が広がっています。
お盆になると何坪もあるこの敷地内を走り回って母によく叱られました。
冬の東北は雪が家を埋め尽くしてしまう為、年末は親戚が集まり手分けして雪かきをするのが恒例でした。
鍋で盛大に盛り上がり、お風呂で体の芯から温まった私は母と一緒に、2階の部屋で寝ました。
深夜の2時半になる頃。
ギギギギギィィ、
突然、窓から音がしました。
それに目を覚ましたが、また眠気が襲い瞼を閉じます。
カタカタカタカタ、
窓が小刻みに揺れ続けます。
バン、バン!
ノックに近い響きに私は怖くなり、横にいる母に目をやりましたが、熟睡しています。
私は我慢してなんとか朝が来るのを待ちました。
母はすでに起きていて布団は空になっています。
私もいつのまにか寝てしまったようです。
けれど夜中にあったあの音が気になり、窓の方まで様子を見に行きました。
窓の手前には父が学生の頃使っていた机があり、その上に雪が少し積もっていました。
1㎝程開いた窓の隙間から入ってきたようです。
でも私や母が開けた記憶はありません。
父の引き出しが少し開いているのに気づき、私は悪いと思いながらも中をのぞきました。
そこには色褪せた折り紙が入ってました。
ほこりも被っていて、無数の皺が寄っています。
そして幼稚な文字で一言、こう書かれていました。
〈がんばって〉
幼い頃の私が、生前の父に宛てた手紙のようでした。
私はふと思いました。
この手紙はまるで、今の私と母を応援してくれる父の気持ちに感じてきたのです。
あの時、父の背中を見ていた私と母。
でもこれからは私と母の背中を見ている父。
こんな雪の中、父は私達に会いに来てくれた。
今日はクリスマス。
私は父からクリスマスプレゼントを貰ったのです。