M・S・T・U
最終章開始。週1か週2くらいのペースでゆっくり投稿続けていきます。
「⋯⋯おーい、聞こえるかぁ?」
誰かが、ボクのことを呼んでいる。でも、聞き覚えのない声だ。そもそもボクは、さっきまで何をしていた⋯⋯?
「おーい、無視するなっての」
そうだ、確か姫⋯⋯いや、魔王と戦って、負けて⋯⋯それじゃあ、ここは一体どこだ?
「だーかーらー、さっさと目覚めろっての!! いつまで待たせんだおらぁ!」
バチィッという鋭い衝撃が頬に走る。さっきから話していた声の主がボクを無理矢理叩き起こしたみたいだ。無視して考え込んでいたボクも悪いが、いくらなんでも乱暴すぎやしないだろうか。
少し文句でも言ってやろうかと目を開けたボクは、目の前の人物の顔を認識し、そして絶句した。
「お、やっと起きたか。えーっと、お前は名前なんだっけ?」
「⋯⋯この子は『U』よ。私の次の次の子だもの」
「あー、そうだったな。んじゃ、改めて⋯⋯よろしく、『U』。不用になった勇者達の廃棄場へ」
にっこりと笑みを浮かべる、髪の毛のない少女、そして、その後ろに居る車椅子の少女。ボクは、彼女たちに出会ったことはない。でも、その顔はよく知っている。
何故なら、その顔は、ボクが毎朝鏡で見る顔と同じだから。
目の前にいる少女達は、ボクと全く同じ顔をしていたのだ。
「なな、なんで僕と同じ顔の人が2人も⋯⋯!? あなた達、何者なんですか?」
「うーん、おれから言わせりゃあ、お前がおれ達と同じ顔なんだけれどな。ま、混乱するのも無理ねぇか。そして1つ訂正。2人じゃなくて、3人だな」
髪のない少女が、くいっと顎で指し示した方向に視線を向けると、そこには人形を抱えて蹲る、これまたボクと同じ顔をした少女がいた。
「あそこに座ってるのは、『T』だ。お前の1個前の勇者だな。喋れない上にジメジメした奴だから、いっつも隅っこにいるんだよ」
『T』と紹介された少女は、ボクが視線を向けるとさっと人形で顔を隠した。恥ずかしがり屋なのだろうか。
「んで、この車椅子の奴が『S』だ。お前の2個前だな。歩けない上に性格も最悪! いいところ無しだな」
「あの、『T』と違って私は喋れるんですけれど。そもそも、なんで貴女が仕切ってるんです?」
静かな声に怒りを滲ませる『T』。何となく怒らせてはいけないような雰囲気を感じた。
「そして、最後。髪がなくても超絶美少女のおれが、この中で最も古株、『M』だ。ここに居て意識があり動くことが出来るのは、お前を含めてたった4人⋯⋯おっと、あいついれたら5人か? まあいいや。あいつを数に数えるのは何か癪だし」
髪のない少女、『M』のおかげで、彼女たちの名前はとりあえず分かった。しかし、分かったのはそれだけだ。まだ分からないことが多すぎて、頭が回らない。
それに、自分と同じ顔をした人間が、自分とは異なる口調で話す姿を見るのもなかなかに頭が混乱するものだ。正直、『T』が喋らずに隅っこに居てくれるのはありがたい。
兎に角、まずはっきりさせておくべきことは、ここに居る全員が同じ顔をしている理由だろう。
「⋯⋯自己紹介ありがとうございます。ボクの名前は⋯⋯何故か皆さん知っていたようですが、ユウと言います。名前のことといい、この場所のことといい、聞きたいことは山積みですが、やっぱり一番気になるのはその『顔』のことです。教えて貰えませんか? ボクたちの顔が、同じ理由を」
「その疑問に関しては、この僕ちんが教えてあげるよ~!!」
ボクの問いかけに答えたのは、『M』でも『S』でもなく、男性的な聞き覚えのない声だった。その声を聞いた『M』は、顔を歪めて嫌悪感を剥き出しにしている。『S』も、表情こそ笑顔のままだが纏う空気が一層怖くなったように感じる。
「あーあ、アイツが帰って来やがった。⋯⋯ま、詳しいことはアイツが全部話してくれると思うぜ。おれ達皆、そうやって自分のことを知ったんだからさ」
『M』と『S』の視線の先。そこに立っていたのは、ペストマスクを被った長身の魔族。燕尾服の裾から見える尻尾と合わせると、これらの特徴に当てはまる魔族をボクは1人知っていた。
「『強欲魔将』、アワリティア⋯⋯!!」
「いえすいえ~す! なになに、オイラのファンだったりする? しかし残念ながらサインは渡せないよ!! だって君達もう⋯⋯不良品だから」
カラカラと笑うアワリティアだが、そのマスクから僅かに見える瞳は、全く笑っていない。ボクが黙ってアワリティアを睨み付けていると、アワリティアは何もない空間から唐突に何かを取り出した。
「まあ、ゴミにも一応利用価値はあるというわけで、この場所があるっていうわけ。だから~、今日ここに来た『U』ちゃんには、このアワリティア様が君達の存在意義について、分かりやすく紙芝居で教えることにしまーす! わーお、最高。皆、拍手~!!」
アワリティアが拍手を促すが、誰も乗る者は居なかった。しかし、気まずい沈黙が訪れる前に、アワリティアはささっとその手に持った紙芝居を捲る。
「それじゃあ⋯⋯まずは、君達のオリジナル。初代勇者と、その帰りを健気に待ち続けた姫野話から始めるとしようか」
そう言って、アワリティアは語り出したのであった。ボクの知らない、過去の歴史と、そしてボクの産まれたわけを。




