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篝火

長らくお待たせしました。私生活でのごたごたもあらかた片付いたので、執筆再開しようと思います。

「ユウがいない⋯⋯!? どこに行ったの?」


 ザキは酷く動揺していた。このアジト内で最も強いと思わしき魔族の居る場所へ到着したと思った瞬間、その魔族の存在のみならず、ユウの気配も同時にアジト内から消えてしまったのだ。


 十中八九、ユウを攫ったのは先程までここに居たはずの魔族だ。しかも、ザキの直感が、ここに居たのは魔王だと告げている。


 ユウが消えてしまった混乱と怒りを、壁にぶつけるザキ。そして、その音を聞いて通路に居た魔族が押し寄せる。


 それだけではない。指揮官たりうる魔族を失ったことで撤退の合図すら出されない結果、魔族領からは次々に魔族が送り込まれ、今やアジト中を魔族が埋め尽くそうとしていた。


 未だ意識を失ったままのエミを守るアベの元にも、そして幸運にも魔族と出会わないルートを進んでいたボスの元にも、魔族が次々と押し寄せる。


 既に大罪七将は戦場にいない。しかし、誰もが戦いの疲労が残る中、まともに戦えるのはザキくらいだろう。


 まさしく絶体絶命。そんな窮地を救ったのは、このアジトの『主』の一声だった。


『⋯⋯お前達、いつまで吾輩の『迷宮』の中でたむろしているのだ?』


 アジト内全域に響いた声は、頼もしい仲間の復活を意味していた。直後、このアジトを管理する者の権限を発動させ、魔族だけをアジト内から排除するラビ。このアジト内に『大罪七将』が居ない今、それに抵抗できる魔族は存在しない。


「なんだぁ、急に壁が、ぐへぇ!?」


「うわー、落とし穴だとぉ!?」


 ある者は壁と壁に挟まれて押しつぶされ、ある者は落とし穴の形式でアジトから追い出され⋯⋯そうして、ラビが意識を取り戻して数分後には、魔族はアジトの中から居なくなっていた。



〇〇〇


 アジト内から魔族の存在がなくなったのを確認した後、ラビの権限によって比較的破壊箇所の少ない部屋へと転移させられた『リターナー』の面々。しかしながら、その人数は皆が把握しているよりも明らかに少ない。


 ソワソワと落ち着きのない様子で動き回るザキ。力なくうなだれるエミ。そんなエミを心配そうに見つめるアベ。そして、部屋の中央で皆の様子を眺めるボス。この部屋に居るのは、この4人だけだ。ラビは、まだ動ける程回復出来ていないので別室から映像を飛ばしている。


 誰も口を開かない重苦しい沈黙。その沈黙を打ち破ったのは、ラビの声であった。


『吾輩はこのアジト内ならどこでも見ることが出来る。それでも確認出来たのは、トムの死体だけなのだ。誰か、残り3人の行方を知っている奴はいないのだ?』


「ドクちゃんは、『強欲魔将』アワリティアに連れて行かれちゃった⋯⋯。ごめん、うちはすぐ近くに居たのに、止めることが出来なくて⋯⋯」


 しゅん、とうなだれるアベ。ただ、アベを咎める者は誰も居なかった。それは、心のどこかで皆が一様に、自分が一番悪いと思っているからかもしれない。


 ちなみに、ザキだけはそういう感情ではなく、ユウがこの場に居ない焦燥感から何も言い返すことはなかったのだが、それを知る者は居なかった。


「ユウが居なくなったのは間違いなく魔王の仕業です。直接は見ていませんが、何故か私にはそう確信を持って言えるんです。⋯⋯そんなわけで、ちょっと魔王城に行ってユウを取り戻してきます」


 そして、ユウへの重過ぎる感情を暴走させたザキは、周囲の意見も聞かずに敵本拠地に突入しようとする。しかしこの暴挙はラビが出口を封鎖したことで何とか止めることが出来た。


「まあ、少し待ってくれザキ。君の気持ちは分かる。私としても、仲間が攫われていると分かった以上もう敵本拠地に攻め入るしかないとは思っている。しかし、そうする前に情報収集は必要だろう。もし仮に敵本拠地に突入して、そこにドクやユウが居ないとなれば、全部無駄になる。⋯⋯それに、ラブの行方も気になる。あいつがそう簡単に死ぬとは思えないから、おそらく一緒に攫われているのではないかと思っているが⋯⋯」


「いや、あたしは攫われてないぞ。すまん、ちょっと来るの遅れた」


 ボスに応えたその声は、まさに先程ボスが口に出した人物のものであった。しかし、声が聞こえた位置がおかしい。この中で最も聴力の高いエミは、ラブの声が地下から聞こえてきたことに眉をひそめた。


「どうしてラブさんの声が地下から⋯⋯?」


「あー、それは見ればたぶん分かって貰える。そんなわけで、ほいっと」


 かけ声と共に地面から姿を現したラブ。その身体は、何故か植物の蔓のようなもので覆われていた。


「ちょ、ラブちゃん、その身体どーなってるの!?」


「あー、それが、ちょっくら死にかけてね。肉片レベルにバラバラになっちまったもんだから、肉体の再生に時間がかかるんだよ。だから、地下を辿って植物の身体を借りたってわけさ」


「難しいことはよく分からないけれど、生きてて良かったよ、ラブちゃ~ん!!」


 歓喜の涙を流しながら、ラブに抱きつくアベ。ラブはそんなアベを優しく抱き留めつつ、目だけは真っ直ぐにボスの方を見つめていた。


「下で話は聞いてたよ。あたしが知っている範囲だけなら、全部話す。ユウは⋯⋯あいつはきっと、魔王に攫われたんだ」



 そう言って、ラブは自分が魔王に殺されかけた時のことを語った。その圧倒的な強さ、そして魔王のことをユウが姫と呼んでいたことなどを。


「ユウと魔王の間にどういった関係があるかは分からない。でも、あたしが魔王に肉体を粉砕されて意識がなくなっている間に、ユウが攫われたことは確かだ。あれは⋯⋯魔王は、まともじゃなかった。早く助けにいかないと、大変なことになるよ」


「ラブさんが一瞬でやられるくらいなんて⋯⋯。そんなに強いんなら、ユウお姉ちゃんは、もしかしてもう⋯⋯」


 エミが漏らした不安はこの場にいる全員が抱えていたものだった。そう、たった1人を除いて。


「何を馬鹿げたことを言っているんですか。殺しますよ? ユウが死ぬわけないじゃないですか」


 殺しますよと言いながら既に銃口はエミのこめかみに押し当てられている。仲間に対し殺意と怒りを隠すことなくぶつけたザキは、こう断言した。


「ユウは、生きています。何故なら、私がまだ生きているから」


「⋯⋯どうしてザキが生きていることがユウも生きている証明になるんだ?」


 ボスが静かにそう尋ねる。その冷静さに感化されたのか僅かに怒気を収めたザキは、そっと自分の心臓付近を掌でなぞった。


「私が、ユウを愛したあの日⋯⋯。私にとっての恐怖は、『自らの死』だけではなく、『ユウの死』も含まれるようになった。だから、私は自らの魂に『死』の呪縛を撃ち込んだ。1つは、『自分を殺した相手を殺す呪縛』。もう一つが、『ユウが死ぬ時自らも死ぬ呪縛』。2つ目の呪縛のリスクと引き替えに、私は、私を殺すいかなる外敵も道連れにする力を手に入れたの。そして、まだ私は死んでいない。つまり、ユウはまだ生きている」


 ザキの呪縛とやらの原理を理解出来た者は、この場にいない。しかし、ユウが生きているという言葉は、この絶望的な状況の中で1つの希望となった。


「ユウがまだ生きている。それが分かっただけでも動く意味はある。ドクの安否は分からないが、きっと生きていると信じ行動しよう。⋯⋯忍び達、そして妖怪達に連絡しよう。彼らの情報収集能力は桁外れだ。2人の生死と居場所を特定し次第⋯⋯我々は、敵本拠地に突入する!!」


 ボスの言葉に、全員が力強く頷く。最終決戦のその時は、すぐそこまで迫っていた。


これにてこの章は終了。次回から最終章に突入します!!

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