火火
お待たせしました。ザキvsクロノ、その戦いpart1です。
「死んでください」
「消えなさい」
互いに交わす言葉は短い。ザキと魔王クロノ、どちらも向ける感情は純粋な敵意に殺意。ザキの方が一手先に動き銃弾を放つも、クロノはそれを回避して距離を詰める。
「一瞬で終わらせます。『時間施錠』」
クロノが指を結ぶと、その瞬間世界の時が制止した。魔王クロノ。その力の神髄は、時間を操る魔術にある。『時間施錠』は、時間に錠をかけ、数秒ほど世界の時を止めることができる離れ業だ。
クロノは、制止した時間の中でゆっくりとザキの近くまで歩み寄り、その首元目掛け手刀を振るう。
しかし、クロノにとって予想外だったのは、魔王の誇る時間魔術でさえザキの魔術耐性を前にしては効果が無かったことだ。手刀が振り下ろされる直前、ぎろりと眼球を動かしたザキは、驚愕するクロノの脳天目掛け銃弾を放ち、それは見事にクロノの額に穴を空けた。
施錠された時が元に戻り、血を流し倒れるクロノ。その身体にザキがさらに銃弾を撃ち込むと、反動でクロノの身体は数度ビクンと跳ね、そして⋯⋯。
魔王クロノは、一度目の死を迎えた。
△△△△△
「⋯⋯あらあら。私としたことが殺されてしまうとは、油断していました。そういえばあの人間はアケディアの幻覚魔術も通用しなかった相手。私の時間魔術にも耐性があるというわけですか」
むくり、と身体を起き上がらせたクロノが居る場所は、魔王城にある自室のベッドの上だ。クロノは、自らにあらかじめかけてある時間魔術の効果で、『もし自身が死ぬことがあればその日の朝に巻き戻る』ことが出来る。もっとも、これは保険としてかけてある魔術であり、その気になれば何千年と時を戻すことも可能である。
これこそ、クロノの時間魔術、その絶技の1つ『青春回帰』。まだパジャマ姿のクロノは、とりあえずを再び朝食を食べることを決め、枕元に置かれたベルを鳴らす。
専属メイドの魔族が持ってきた朝食は、記憶にあるものと同じトーストとジャムだ。しかし、どうせなら違う味を試したいので、イチゴジャムをマーマレードに変更するよう伝え、改めて朝食を食べる。
朝食を食べ終えたクロノは、ほんの少し思案する。果たしてもう一度あの勇者の偽物と対峙して、結果が変わるようなことがあるだろうかと。
導き出した答えは、否。強さならば、先程自分を殺したあの暗い見た目の女の方が上だ。見た目からして彼女が勇者になれる可能性はないが、せめて殺された腹いせくらいはしたい。
そう思ったクロノは、部屋の中をスキップで駆ける。すると、その動きに合わせて時間も『跳躍』され、部屋のドアを開けた瞬間、クロノの目の前には壁をぶち破ったザキが現れていた。
「⋯⋯あなた、誰ですか? 私のユウはどこです? 早く答えないと殺しますよ」
「ふふふ、死んでください♡」
過去に巻き戻ったおかげでザキの出現を知っているクロノの行動は早い。ザキが姿を現した瞬間、その場に衝撃波を叩きつけた。
「⋯⋯いきなり何するんですか。死んじゃうじゃないですか」
しかし、流石と言うべきか、ザキは服に汚れこそ付いたもののダメージを受けた様子はない。手に持った銃から煙が上がっているところから見て、衝撃波に銃弾をぶつけて相殺したらしい。
「当然です。殺すつもりでやりましたもの。私、あなたのこと嫌いなんです。早く死んでくださる?」
「嫌ですよ。それよりユウはどこです?」
ザキの問いかけを無視し、クロノは魔術を発動させる。ただ、対応されると分かっている『時間施錠』ではない。
「放つ一矢は、光の如く。時は加速する、『光陰矢如』!!」
自らの身体に『時間加速』をかけて、光の矢のような超スピードでザキへと詰め寄るクロノ。魔術の対象が自分自身なのでザキにも防ぎようはなく、無事加速された時間間隔の中で、クロノはザキの視線が自分を捉えていないことが分かった。
今度こそ終わりだ。そう思い振り上げた拳は⋯⋯ザキに届く直前で、後方から飛んできた銃弾により破壊された。
「⋯⋯は?」
理解しがたい事態に思わずそんな声を上げるクロノ。破壊された拳は当然ザキを傷つけることは出来ず、飛び散った血によってクロノの位置をようやく把握したザキは、ためらうことなくその方向に向け銃弾を撃つ。
こうして、クロノは二度目の死を迎えた。
△△△△△
「先程の銃弾⋯⋯何故後方から飛んできたのでしょうか。それが分からなければ、また殺されてしまいますね。原因を探らなければ」
再びベッドの上で目覚めたクロノは、二度目の自分の死因について考えていた。トーストにマーガリンを塗り、朝食を食べながら魔術を練り上げる。
ポンッと目の前に浮かぶのは、透明な球状の物体だ。そこに映し出されるのは、先程クロノが二度目の死を迎えた際の光景。『時間透視』の魔術によって、クロノは死因を割り出そうとしているのだ。
そして、そこに映し出された光景から、クロノは無事答えを得ることに成功した。
「成程、私の衝撃波を防いだ銃弾⋯⋯あれとは別にあの時もう一発撃っていたのですね。その銃弾が壁に当たり、弾き帰ってきた銃弾が私の拳を貫いたと。⋯⋯あの人間、未来を視る能力でも持っているんですかね? ちょっとずるくないですか?」
きっと、ザキも時間魔術などという反則的な魔術を使う相手にだけはずるいなど言われたくないであろう。ちなみに、ザキがクロノの拳を跳弾で撃ち砕くことが出来たのは死を恐れる彼女の生存本能が働いた故の結果であり、未来予知などという能力は持っていない。
「それじゃあ、もう一度跳びますか」
二度も殺されればもう戦闘自体を避けてもよいのだが、このままでは魔王としてのプライドが許さない。クロノは再び『時間跳躍』でザキとの戦闘直前の時まで跳んだ。
「⋯⋯あなた、誰ですか? 私のユウはどこです? 早く答えないと殺しますよ」
「その台詞、もう聞き飽きました」
三度目となれば、衝撃波での牽制など挟まない。最初から自らに『時間加速』をかけ、超速度で肉弾戦を仕掛ける。
ザキの横腹にクロノの蹴りが命中。真横に吹っ飛ぶザキを追撃するクロノに、銃弾が数発飛来する。
「遅い!!」
しかし、超加速で走るクロノにとっては今のザキの銃弾など容易く回避できる。そのまま距離を詰め拳を叩き込むも、それはザキがグリップを上から叩きつけることで防いだ。
「痛い、痛いじゃないですかぁぁぁ!!!」
悲痛な叫びをあげ、ザキは足を振り上げる。その靴のつま先に付けられた仕込み刃がクロノの肩口を切り、血が僅かに染み出る。
驚くことに、ザキは今完全にクロノの動きを目で捉え、反撃を入れることさえ出来ていた。それは、傷つけられたことで警鐘を上げたザキの生存本能が、無理やり身体能力を上げたことで可能としたことである。
そんなことは知らないクロノは、当然驚いたものの、すぐに反応して殴り返す。しかし、その拳は空を切り、伸ばした腕を力強く掴まれたクロノは、背負い投げの要領で後方に投げ飛ばされる。
そこに追い打ちとばかりにやってくるのは、先程ザキが吹き飛ばされながら撃った銃弾、その跳弾だ。しかし、これはあらかじめ予測していたクロノは、加速した時間の中でその銃弾を全弾キャッチ、力いっぱいザキに投げ返す。
クロノは、ザキが当然この銃弾をよけるか何かで対処するものだと考えていた。しかしながら、ザキは正面からやって来る銃弾に対し躊躇なく突っ込んで距離を詰めてくる。
そして、ザキの身体に直撃した銃弾は⋯⋯とぷんっと吸い込まれるようにザキの身体の中に消えていった。
「はあ!?」
あり得ない光景に目を丸くするクロノ。そんな彼女の額に銃口を突き付け、ザキはこう言った。
「私の銃弾は、死の概念を詰め込んだ特別製⋯⋯。私が生み出したものが、私に効くはずないじゃないですか」
パァン、パァン、パァン! とオーバーキル並みにぶち込まれた銃弾は、クロノの命を刈り取るには充分な威力で⋯⋯クロノは、三度目の死を迎えることとなるのであった。
△△△△△
──パリィン!!
「魔王様、一体何事ですか⋯⋯ひぃっ!?」
大きな音が聞こえ、慌てて魔王の寝室へとやって来た専属メイドは、部屋一面に飛び散るガラスの破片と、その破壊行為をやってのけた魔王が怒りのオーラをむき出しにしているのを見て、思わず悲鳴を上げる。
クロノは、やって来たメイドには目もくれず、自分を三度も殺してみせた銃使いに猛烈な怒りを抱いていた。
「私を三度も殺すなんて⋯⋯! そもそも私を殺していいのは勇者様だけだというのに、あの女ぁぁぁ!!! もう手加減も油断も一切しません。次こそは⋯⋯全力で、あの女をぶち殺します」
そんな暗い決意を胸に、クロノは三度ザキとの出会いの時まで跳躍するのであった。
次回、ザキvsクロノ決着。たぶん作中でもっとも高レベルの戦いです。




