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業火

引き続き重要回。盛り上げていきますよ~!!

「⋯⋯何故、姫がここにいるんですか?」


 パンクしそうな脳内から、何とか絞り出した最初の疑問はそれだった。そして、ボクの問いかけに、クロノ姫は記憶と同じ穏やかな口調でこう返した。


「何故って⋯⋯勇者様、あなたをあの世界に呼んだのも、そしてこの世界に返したのも、私と国の魔術師達だったことを忘れたのですか?」


「い、いや、確かにその通りなんですけれど、そうじゃなくて⋯⋯。そもそも、魔王ってあの魔王であってるんですか? この世界に1年半程前にやって来て、日本のほぼ全域を支配下に治め、『大罪七将』を従える、あの魔王⋯⋯?」


「はい、その認識であっていますよ」


「冗談、というわけではなさそうですね⋯⋯」


 クロノ姫の言葉が嘘でないことは、先程彼女の顔を見た瞬間蘇った、勇者として異世界で過ごした記憶から理解出来た。この人は、こんな場面で嘘を言う人では無い。


 しかし、だとすると分からないことがある。ボクは、最も大きな疑問点を、クロノ姫へとぶつけた。


「あなたの言葉が嘘じゃ無いと信じるとすると、どうしても分からないことがあります。⋯⋯ボクが、この世界に帰って来た時、既に魔族の支配は及んでいた。でも、あなたはボクが帰る時あちらの世界で見送ってくれた。どう考えても時系列が合わない!」


 そう、クロノ姫の言葉が真実だとして、どうしても産まれてくる矛盾。それが時間の問題だ。クロノ姫は確かに、ボクのことをあの世界で見送ってくれた。その時、きっと再び会うと約束した記憶もあるのだ。


 思わず声を荒げてしまったボクに、クロノ姫はニッコリと笑みを向ける。それは、場違いな程穏やかで、そしてあまりにも記憶と一致しすぎていて⋯⋯それがかえって、とても不気味だった。


「時間⋯⋯。そうですね。あなたが考えているように時間が流れていれば、どれ程幸せだったか。少なくとも、今私はここにこうして立っていることはなかったでしょう」


 クロノ姫は、ゆったりとした動きでドレスの裾から何かを取り出す。それは、ガラスで出来た砂時計だった。クロノ姫は取り出したその砂時計を指でぴんっと弾き、宙に投げる。くるくると回転して落下するはずの砂時計はしかし、地面に落ちることなく空中でその動きを静止した。


「⋯⋯256億と8724万319日」


「え?」


「それが⋯⋯私があなたの言葉を信じ、待ち続けた年月です。そして、その長い年月は、私を絶望させるには十分でした」


「嘘、ですよね? そもそも、そんな長い年月、普通の人間が生きていられるわけが⋯⋯」


 そこまで言いかけて、ふと気が付いた。クロノ姫は、自らを『魔王』と称した。そんな彼女は今⋯⋯本当に人間なのか?


「あら、どうやら気が付いたみたいですね。流石勇者様です。そう、私はあなたを待つため、魔に堕ちることを決意し、そして不死の身体と膨大な魔力を手に入れたのです。だからこそ、私は待つことが出来た。出来てしまった。今思えば、もう少し早く会いに行けば良かった。でも、今更後悔しても遅いですよね。失われた時間は、いくら繰り返そうとも戻らないのですから」


「⋯⋯」


 ボクは、クロノ姫に何も言うことが出来なかった。クロノ姫は、見た目だけは記憶の中の彼女と何も変わらない。話し方も、動きも、全てがそのままだ。ただ、その目には一切光が宿っておらず、真っ黒に塗りつぶされている。


 ボクは、この目を知っている。今のクロノ姫の目は、ザキとよく似ていた。


「私の目をそんなに見つめて、どうしたんですか? 何か聞きたいことがあるのでしたら、言ってくださいまし」


「⋯⋯分からないことが多すぎて、正直何から聞けばいいか分かりません。だから、とりあえず1つだけ質問します。姫は、何故今、ボクの元にやって来たのですか? ボクに再び会うのが目的ならば、すぐ会いに来ればよかったじゃないですか」


「⋯⋯まあ、確かに言われればそうですわね。でも、私にも目的があったんです。今日はそれを果たすためにやって来ました。偶然にも、私の知られたくない記憶を知った虫も殺せましたし、今日は良い日です。だから、きっといい結果になることを期待しています」


 クロノ姫は、先程宙に放った砂時計を、再び指でぴんっと弾く。くるくると回転した砂時計は、今度は重力に従い落下し、本来の役割を果たし始めた。


「この砂時計は、この世界の時間でちょうど3分計れるようになっています。その間、私の攻撃に耐えてください。そしたら、私はあなたと結婚し、幸せな日常を送れます。それで、このながいなが~い物語は終わり。ハッピーエンドです」


「いきなり、何を言い出すんですか?」


 さっきからクロノ姫の言っていることがほぼほぼ理解出来ない。何故姫といきなり戦わなければならないのか。いくら姫が魔王だとしても⋯⋯ボクは、すぐに切り替えて戦うことなんて出来ない。


「あら? 何だか困っているみたい。ああ、そうね。勇者様は優しいから、きっと私と戦うことを躊躇っているのですね。それならば⋯⋯戦う理由を作ってしまいましょう」


 そう言って、パチンと指をならすクロノ姫。その手元には、いつの間にか回復を終えていたラブさんが居た。


「な!?」


 おそらく、死んだふりをしてボクに加勢する機会を伺っていたであろうラブさんは、自分を一瞬で手元に転移させたクロノ姫に驚き、目を丸くする。


 クロノ姫はそんなラブさんを無表情で見据え、そして⋯⋯その身体を一瞬で粉々に砕いた。何をやったかは全く見えなかった。ただ、飛び散るラブさんの肉片と血液が、クロノ姫の凶行をはっきりと示していた。


「⋯⋯ね? これで戦う理由が出来たでしょ? 仲間想いの、勇者様?」


 その瞬間、ボクはようやく気が付いた。目の前にいるこの人は、もうボクが知っているクロノ姫ではない。とっくに人間としての感情を捨て去った⋯⋯『魔王』なのだということを。


「魔王! ボクは⋯⋯ボクは、あなたを許さない!!」


「ああ、嗚呼! いいですよその台詞。すっごく勇者っぽいです! さあもっと、もっと私にあなたの輝きを見せてください!!」


 クロノ姫⋯⋯いや、魔王は、頬を上気させると、ボク目掛け瓶のようなものを投げてきた。反射的にそれを掴むと、中には何か水色の液体のようなものが入っている。


「それは、魔力の回復薬です。先程のルクスリアとの戦闘で魔力を使ってしまわれたのでしょう? 私は全力のあなたと戦いたいので⋯⋯ふふっ、戦闘前に回復をさせるなんて、昔勇者様が言っていたRPGとやらの魔王みたいですね」


 受け取った瓶に『検索(サーチ)』をかけ調べてみたが、本当にただの回復薬だった。ボクは瓶を開けそれを飲み、僅かな残りをこっそりとこちらに飛んできた1番大きなラブさんの肉片に振りかける。流石にこれで生きているとは考えにくいが、万が一の可能性にかけたかったのだ。


「いきます、『模倣(コピー)』、そして『貼り付け(ペースト)』!!」


 魔王の実力は定かではない。でも、『大罪七将』より弱いということはないはずだ。そう判断しての、初手全力。一気に強化された視力でもって、魔王の行動を捉えるべく動く。


 しかし、既に魔王は視界から消えていた。一体どこに移動したのか。全神経を集中させ位置を探る。⋯⋯腹部に強い衝撃が走ったのは、その時だった。


「小手始めに⋯⋯『終末輪廻(エンドレス・エンド)』」


 魔王の腕は、ボクの腹部を完全に貫いていた。かはっと口から血を吐き、強化形態が一瞬で解除される。


 しかし、それだけで終わりでは無かった。いつの間にか腹部の傷が治ったと思えば、次は脇腹を抉られている。その次は足、そして腕⋯⋯ありとあらゆる場所に穴が空き、それを認識した瞬間治療され、また攻撃を受ける。


 そのループが10周ほど絶えず続いた時⋯⋯ボクは耐えきれず、意識を手放していた。




 魔王クロノは、ピタっとその動きを止める。その視線の先には、意識を手放したユウ。その身体には、傷は一切残っていない。それは、クロノが攻撃を与える度自らの能力で巻き戻したためなのだが⋯⋯そんなユウの姿を見て、クロノは、激昂した。


「なんで⋯⋯? なんでなんでなんでなんで、なんでぇぇぇ!?」


 クロノは、怒りに身を任せ、ユウの顔面を殴りつける。今度は巻き戻しの能力は使わず、衝動のまま、何度も、何度も。


「ようやく本物の勇者様に会えたと思ったのに! 信じられない、信じられない! こんなに弱い人が勇者様のはずがない!! よくも騙したな⋯⋯騙したな騙したなぁぁぁぁ!!」


 最早ユウは原型をとどめていない。それでも、僅かに呼吸音が聞こえるので死んでは居ない。怒りに我を忘れていても、目的を見失うことはしないのがクロノだった。


 ふうっと気持ちを落ち着かせるために息を吐いた後、クロノはパチンと指を鳴らす。その音と共に表れたのは、マスクを付けた魔族、『強欲魔将』アワリティアだった。


「ほいほい。魔王ちゃん、お呼びです?」


「⋯⋯また失敗だったわ。これを研究所まで戻して」


「あらら~、それは残念。“ユー”は今までで1番の自信作だったんだけれど。まあいいか。また作ればいいしね」


「頼んだわ。私は⋯⋯もう少しここに残る。ちょっと気持ちを落ち着かせたいの」


「りょ! では拙者はこれにて失礼。どろん」


 アワリティアはユウを抱え、ドアを開けその中に姿を消す。残されたのは、魔王とラブの肉片だけ。そんな空間でぼうっと天井を眺めていた魔王だったが、ふとその耳が何者かが近づいてくる足音を捉え、ピクリと動いた。


──パァン!!


 響いたのは、銃声。さらに立て続けに数発。撃ち込まれた銃弾は壁に穴を空け、やって来たその人物の姿を露わにした。


「⋯⋯あなた、誰ですか? 私のユウはどこです? 早く答えないと殺しますよ」


「⋯⋯今、私は機嫌が悪いんです。そういう冗談は鏡に向かって言ったらどうですか?」


 最強と最強が今、対峙する。


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