元復讐者とのショッピング(1日目)
「えーっと、今日から3日間よろしくお願いします」
とりあえず挨拶をしてみるも、目の前のゴスロリ少女、ドクは全くこちらに反応を示さない。こちらのことは完全に無視して手鏡で髪を整えている。
「えっと、聞こえてますよね? あの、ドクさ⋯⋯」
「名前」
「え?」
「名前、呼んでいいって許可した覚えなーい。お前はドクちゃんの言うことに『はい』か『Yes』だけ言ってればいーの」
あまりにも一方的な言い分に、ついむっとしてしまった。しかし、ここでは自分はまだ新入りだ。性格が合わなくても、先輩のことは敬うべきだろう。
「⋯⋯はい」
「よし、それでよーし。じゃあお前、ちょっと着いてきて。今から外に出るから」
「え? 外に出るって、アジトの外ですか? いったい何をしに⋯⋯」
「だーかーらー、『はい』か『Yes』で答えろっての♡ ただショッピングしに行くだけよ。アンタは荷物持ち!」
地上は魔族だらけでショッピングどころではないはずだ。しかし、それを尋ねようとすればまた叱られることは確実なので、黙っていることにした。そんなボクを見て満足そうに頷いたドクは、手に持っていたバックから化粧道具を取り出した。
「ドクちゃんのメイクアップ術は~、何にだって変身出来るんだから。それこそ魔族にだってね」
手鏡を見ながら、ドクは素早くメイクを施していく。その神業級のメイク術は、一瞬にしてドクを人間からエルフ族へと変身させた。
「す、凄い⋯⋯! これって魔術ですか?」
「だーかーらー! ⋯⋯まあいっか。一応褒めてくれた訳だしね。特別に教えてあげる。ドクちゃんのメイク術は魔術なんてちゃちなもんじゃないわ。ドクちゃんだけが使える特別な能力なの♡ あ、お前にもメイクするから、ちょっと待ってなさい」
そう言うと、ドクは自分にした時より幾分か乱暴な手つきでボクへメイクを施した。さて、出来映えはどんな感じだろうか。ドクが綺麗なエルフに変身したこともあり、期待を込めてドクから渡された手鏡を見る。
「こ、これって豚人族じゃないですか!? なんでエルフじゃないんですか!?」
「ぷぷぷっ。お前はその姿がお似合いよ。いいじゃないオーク。豚っ鼻が可愛いわよ~?」
⋯⋯やっぱり、この人とは仲良くなれそうにない。ボクはブヒブヒと怒りながら、いつの間にかアジトの出口を開けていたドクの後ろを追いかけるのだった。
〇〇〇〇
最近ずっとアジト内に居たから、随分久しぶりに太陽の光を浴びた気がする。ただ、日光浴を楽しむには、視界に映るドラゴンやワイバーンが邪魔している。
「ちょっと下僕~、何ぼけっとしてんのよ。ブヒブヒ鼻鳴らしてないでさっさと着いてきなさいよ」
「げ、下僕って何ですか!?」
「いいこと? ドクちゃんは美しいエルフで、お前は間抜けなオークに化けてんの。どっちが下僕かなんてその豚頭でも分かることでしょ?」
勝手にオークにしたのはそっちなんだけれど⋯⋯。まあいちいち不満を述べていてもしょうが無いから従うけれども。ああ、ラビと過ごした3日間が恋しい。今のところただただストレスがたまるばかりだ。
ショッピングとは何かの隠語なのかと思っていたけれど、魔族がやっている服屋に直行した様子を見るに、どうやら本当にただショッピングしに外に出たようだ。現在、ドクは悪魔族の店長からすすめられた服を着て1人ファッションショーを楽しんでいた。
「モルフフフフ! エルフのお嬢さん、どの服も大変よくお似合いですよ~!」
「まあ、ドクちゃんは可愛いから当然よね♡ 気に入ったわ。店長、この服ぜーんぶ頂戴っ!」
そう言うと、ドクはポケットから取り出した紙幣をカウンターの上にばらまいた。一瞬にして瞳にドルマークを浮かべ紙幣を掻き集める店長を尻目に、ドクはボクに先程買ったばかりの服を持たせて店を出ようとしていた。
「ほら下僕、ぼさっとしてないでさっさとずらかるわよ」
「え、ずらかるってなんでですか?」
「腐れ魔族に払う金は一銭もないわ。あれはドクちゃんのメイクで誤魔化したただの葉っぱよ。もうすぐ能力の効果範囲から外れるからきっと気付いて追ってくるわ」
その言葉通り、後方から何やら怒声が聞こえてくる。その怒声を聞いたドクは何を思ったか、くるりと振り向いて変化を解いた。
「やーい、ざーこざーこ♡ 劣等種と蔑んでいる人間にだまされる気分はどーう? アンタのその目、節穴なんじゃないの~?」
「こんのメスガキぃ⋯⋯! ボコボコにしてやるぅ!!」
「キャハハハ! 捕まえられるもんなら捕まえてみなさ~い!」
ドクは店主を煽りつつ、すっと人混みの中に紛れる。その時には、既にメイクを施し別人に化けていた。今度は、耳と尻尾を生やした兎の獣人族だ。ボクも、いつの間にかオークから小鬼族に変化させられていた。
「なんかまた微妙な種族なんですけれど」
「あら、そっちも似合っているだろぴょん?」
「⋯⋯とってつけた語尾止めた方がいいと思いますゴブ」
「あぁん!? 可愛いだろが、ぴょん♡」
「柄悪いですよ。もしかしてそっちが素だったり⋯⋯」
「え~? ドクちゃん耳遠いから何言ってるか分かんな~い♡」
「兎のビーストに化けといて耳遠いって絶対嘘ですよね⋯⋯」
その後、なんだかんだありつつもショッピングに一日中連れ回され、山盛りの荷物を抱えながらアジトへと戻る頃には、もうすっかり日が暮れてしまっていたのだった。
ドクちゃんはゴスロリ毒舌メスガキキャラ。ここからさらに属性追加されます。ドクちゃん編はもしかしたら3日分がっつり書くかも。