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火芽

色々と大事な回となってます。是非お楽しみください。

「あたしへのダメージは全くもって気にしなくていい。だからあんたは思いっきりやりな!」


 ルクスリアの魔術の影響によって身体の動きを支配されてしまったラブさんは、ボクに攻撃しながらそんなことを言ってくる。その覚悟は真っ直ぐ向けられた瞳からしっかりと伝わってきた。ならば、ボクがやることは1つだ。


「ラブさん⋯⋯すいません!」


 宝石の剣と化した脚を振り上げ、ラブさんの腕を切り落とす。そのまま横を通り過ぎてすっかり傍観を決め込んでいるルクスリアの方へと向かおうとしたが、それは叶わなかった。


「ああ、我ながら面倒くさい!」


 ボクの肩を掴んで動きを止めたのは、切り落としたはずのラブさんの手だ。並外れた回復魔術を持つラブさんにかかれば、これくらいの欠損は一瞬で治してしまうということなのか。ラブさんの拳を顔面に喰らって吹き飛ばされながら、ボクはそんなことを考えていた。


「うふふふ! なかなかいい駒を手に入れて満足よ。あと、その子だけに注意してたらダメよ? 私の鞭はいつでもあなたのハートを狙っているんだから♡」


 その言葉通り、ルクスリアはボク目掛け鞭を振るう。あの鞭は当たれば精神汚染を受けてしまう。ガードは出来ないため、回避するしかない。まあ、回避だけならリズの力を借りて身体能力が大幅に上がった今、難しいことではない。しかし、問題なのは⋯⋯


「ごめん、ユウ。よけてくれ!」


 苦しげな表情を浮かべながら再び攻撃してくるラブ。そう、彼女がやはり問題だ。生半可な攻撃では彼女の動きを止めることは出来ないし、かといって全力で攻撃するのは躊躇われる。


 ⋯⋯しかも、ラブさんは普通に強い。今も、切り落とした腕から肉をそぎ落とした骨をトンファーのようにして振り回している。戦い方が聖女のそれではない。そして何故か、ラブさんはもの凄く驚いた顔をしていた。


「え、何これ。あたし、こんな戦い方出来たわけ?」


「あんたは私の魔術で全力で戦うよう支配しているからね。勿論、身体への負担は一切考慮することなく。⋯⋯正直私も引いてるわよ。あんた、ホントに人間?」


 さらに、ルクスリアまでラブさんの戦い方に驚いている。ただ、驚きつつも鞭を振るう手を止めないのは流石と言うべきか。なかなか近づくことが出来ない。


 そして、この状況が続くことは非常によろしくない。こうして時間を稼がれると魔力が切れて戦えなくなってしまう。既に体内の魔力はだいぶ減っている。もってあと数分といったところだろうか。


「ユウ、頭だ! あたしの頭を破壊しろ!」


 どうしたものかと思考を巡らせていると、ラブさんがそんなことを言いながらこちらに突っ込んでくる。何を言われたのか理解出来ず、その真意を問うべくラブさんの瞳を見つめる。


 そしてボクは、その瞳に宿る強い意志を確かに感じ⋯⋯言われた通りに、彼女の頭を蹴り砕いた。


「はぁ!? あんたら仲間でしょ? 普通に殺してるんじゃないわよ!?」


「ボクはラブさんを信じています! だから言われた通りにしただけのこと。そして、ボクの今の役目は、お前を倒すことだ!」


 ラブさんはあれくらいではきっと死なない。仲間の強さを信じ、ボクはルクスリアへと一直線に駆けた。


 近づくと鞭が結界のように張り巡らされ、動きを止めようとしてくるが、それで止まったらこの最大のチャンスを逃してしまう。あえて左腕を差し出すと、腕の感覚は無くなったが鞭の攻撃を一瞬止めることが出来た。


 ぎょっとした様子のルクスリアの足下に沈み込んだボクは、ダイヤの剣と化した脚を振り上げ、ルクスリアの機械の右腕と右足を切り飛ばした。


「ぎゃああ!? 痛い痛い、痛いぃぃぃ!!」


 切り口から血を吹き出しながら、痛みに泣きわめくルクスリア。ボクは、トドメを刺そうと脚を振り上げ⋯⋯そこで、自分の脚が元に戻っていることに気が付いた。


「しまっ⋯⋯!」


 魔力切れによる強化形態の解除。可能性として考え、注意はしていたがまさかこんなにも早く、しかもこんな最悪なタイミングで起こるとは思わなかった。


 そして、この大きな隙を見逃してくれる程相手も優しくない。にぃっと笑みを浮かべると、残った左腕で鞭を振るい、身体を拘束されてしまった。


「ふふふ⋯⋯。腕と足を切られちゃった時はどうなることかと思ったけれど、あと一手足りなかったわねぇ。やっぱり逃げて正解だったわ」


 片足でぴょんぴょんと跳ねながら、ルクスリアはこちらに近づいてくる。あちらのダメージも大きいが、魔力の切れた今のボクにはこの鞭の拘束をほどく力は残されていなかった。


 ちらっと唯一動く首だけ動かしラブさんの方を見ると、やはりと言うべきか首を切り落としただけでは死なず、残された胴体から新しい頭が生えてこようとしていた。しかし、手足と比べ再生が遅いようで、ルクスリアがこちらに来るまでに間に合いそうにはなかった。


「うっふっふ。さあ、あなたはどう殺してあげようかしら。まずは、私と同じように腕と足を切り落として⋯⋯いいや、その前にあなたの記憶をちょっと覗かせて貰おうかしら。なんで私のことをそんな恨んでいるのかとか、気になるしね」


 そう言って左手をこちらへ伸ばすルクスリア。頭を逸らしてそれを避けようとするも、身体を縛られた状態ではそれも叶わず、ルクスリアの手がボクの頭へと触れた。


 次の瞬間、顔を真っ青に変色させたルクスリアがボクから手を離し、後ろへ倒れる。そして、たまらずといった様子で地面に嘔吐した。


 明らかに異常なルクスリア。一体、ボクの記憶に何を見たと言うのか、ルクスリアは恐怖で全身を震わせながら、絞り出すように声を上げた。


「あ、あんた⋯⋯! 私になんてものを見せてくれてるのよぉ!? こんなの見たら、私、私⋯⋯あのお方に殺されてしまう!!」


「──あら、流石ですね。あなたはとても賢い。それだけに、残念です。あなたを殺さなくてはならないことが」


 その声の主は、先程からこの場に居たような自然さでその場に居た。ぽんっと優しい手つきでルクスリアの肩に手を置いたその人物の顔は、こちらからは確認出来ない。


 しかし、背丈や声から、それが少女であることが分かった。しかも、漆黒のドレスを身に纏う彼女はどことなく高貴な雰囲気すら漂わせている。


「あ、ああ、あああああ!!?」


 そんな少女に触れられただけで、あのルクスリアが恐怖に震え、あらゆる場所から体液を垂れ流している。その恐怖のためか、ルクスリアの桃色の髪はみるみる内に色が抜け、真っ白になってしまった。


 ⋯⋯いや、違う。白髪になったのは恐怖のせいではない。ルクスリアの皮膚から張りが消え、背骨が曲がり、呻き声がしわがれていく。ルクスリアは、明らかに歳を取っていた。それも、異常なまでの速度で。


「ああ、あ⋯⋯。ま、おう、さま⋯⋯」


 断末魔の声を残し、ルクスリアは塵となって消えてしまう。しかしボクは、そんな壮絶過ぎるルクスリアの最期以上に、その断末魔で呼ばれた名に衝撃を受けていた。


「⋯⋯魔王? まさか、あなたが⋯⋯?」


 途切れ途切れの声だったが、確かに『魔王』と、そう聞こえた。いや、こんな場所にいきなり魔王が現れるなんて信じられるはずもない。だからこそ、ボクはつい声に出してそう尋ねていた。


 そして、ボクの呼びかけに黒のドレスを纏った少女が振り向く。


「はい。私が魔王です。やっと会えましたね⋯⋯私の、勇者様」


 そう答えた魔王は、まるで無垢な少女のように満面の笑みを浮かべていて⋯⋯。


 そして、その顔を見たボクは、全ての記憶を取り戻した。


「⋯⋯姫?」


「はい、私は異世界からやって来たあなたに国と世界を救われた⋯⋯クロノ・ヴリエーミャ。ヴリエ―ミャ王国の元第一王女であり、現魔王です」


 そこに居た少女は、ボクを異世界からこの世界に送り返した姫。⋯⋯もし再び会うことがあれば、結婚をしようと考えていた思い人。そんな彼女が、ボクの倒すべき宿敵としてそこに立っていた。


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