火罰
インウィディア戦、決着です。
「お、こんなところにちょうど良いくらいの奴がいるじゃねえか。これくらいの相手なら、俺にもやれ⋯⋯」
「邪魔です。死んでください」
通路に居たやたら香ばしい台詞を吐く魔族をすれ違いざまに撃ち殺し、ザキは駆けていく。その速度は、目的地が近づくにつれ徐々に速くなっていた。
ザキの足を速めているのは、その体質故に感じ取ることが出来る濃厚な死の気配だった。目的地に近づく度に増すその死の気配が、ザキを本能的に遠ざけようとするが、それを何とか抑えつけ走る。
「死にたくないです、死にたくない⋯⋯。嗚呼、怖い。恐ろしい。でも、これを放っておくことはもっと怖いことです。それだけは避けなければなりません」
そして、ザキは目的地である住居エリアへ到着する。扉を開ければ中に入れるという位置で、一呼吸置き、一気に扉を押し開けた。
直後、ザキの目に飛び込んできたのは、こちらへと粘ついた視線を向ける魔族と、その近くに生えた奇妙な形の木であった。その奇妙な木の正体を明らかにすべく目を凝らしたザキは、その木がよく見ると人間が変化した姿であることに気が付いた。
さらに、それがよく知る仲間の変わり果てた姿であると悟ったザキは、迷うこと無く銃の引き金を引いた。扉を開けてからここまで僅か0.1秒。あまりにも速すぎる状況把握と判断であった。
「ああっ!? な、なんだよこれぇ。ぼ、僕の尻尾が吹き飛んだじゃないかぁ!!?」
ザキの放った銃弾は『嫉妬魔将』インウィディアの尻尾に命中し、その先端を弾け飛ばす。しかしザキはそんなインウィディアには全く構わず、木にされてしまった仲間、トムの傍へと駆け寄っていく。
「トムさん何やってるんですかあなたが死んだらごはん食べられなくて栄養不足で死んでしまいますお願いですから死なないでください」
「ははっ、その早口はザキか。お前が来たんならもう安心だな」
「勝手に安心しないでください。私に⋯⋯私に、これ以上死を背負わせないでください!」
トムの瞳は、ザキの姿を捉えては居なかった。インウィディアによって木と同化されたトムは、もうほとんど動くことが出来ない。なんとか喉の奥から声を振り絞るので精一杯といった様子であった。
「すまねぇなぁ。でも、俺はもうダメだ。ラブに治して貰う時間もねぇ。だから、最期に⋯⋯お前に頼みてぇことがある」
「やめてくださいやめてください! 遺言なんて聞きたくない!! そんなことされたら、また死ねなくなるじゃないですかぁ!?」
「魔族に殺されるのはごめんだ。せめて、苦しまないうちにお前の手で俺を⋯⋯」
「あああああああ!?」
ザキは、トムが最期の言葉を言い切る前に彼の胸に銃弾を撃ち込んでいた。2発、3発、4発。過剰に撃ち込まれた弾丸は一瞬でトムの命を消し飛ばした。
「ああ、ごめんなさい、ごめんなさいぃぃ!!」
頭を抱え、泣き叫ぶザキは、トムの亡骸を抱え蹲る。その隙だらけの姿を見て、先程の尻尾への一撃で警戒していたインウィディアも攻勢に出る。
「泣きたいのはこっちだよくそ女ぁ。なんで僕の尻尾が治らないんだよ。同じ苦しみを味わぇ!」
インウィディアはトムから奪った能力で植物の蔓を生やし、ザキに向け伸ばす。しかし、その蔓はザキの身体に触れる前に、パァンと音を立てて弾け飛ぶ。
「あ、あなた、今⋯⋯何をしました? 私を、私のことを、殺そうとしましたか?」
「くしし! 当たり前だろ。僕のことを傷つけた罰だ。お前にはあの植物オヤジよりむごい死を与えてやるよ」
「⋯⋯は?」
インウィディアが『死』という単語を口にした瞬間、ザキの顔から一切の感情が消えた。その代わりに放たれたのは、とてつもない殺気。その殺気は、『大罪七将』であるインウィディアすら震えるほどのものであった。
「死、死にたくない⋯⋯。死にたく無い死にたくない死にたくない。⋯⋯殺します」
インウィディアの目の前から突然ザキの姿が消える。遅れて銃声が聞こえ、そしてその時にはインウィディアの身体にはいくつも穴が空いていた。
「⋯⋯え?」
インウィディアの口から血が溢れる。あの一瞬でかなりのダメージを与えられた。しかも、本来回復するはずが全く回復しない。たまらず地面に倒れそうになるインウィディア。その額を銃口で押し上げ、ザキは無理矢理インウィディアを立たせる。
「死んでください死んでください死んでください死んでください」
銃口を突きつけ、壊れたオルゴールのように同じ言葉を繰り返すザキ。その異様な姿にインウィディアは恐怖を覚える。しかし、『大罪魔将』としての意地とプライドがインウィディアが、インウィディアを完全に絶望はさせずに、逆転の策を思いつかせた。
(こ、こいつは何かおかしい。絶対に何かしらの能力を持っているはずだ。なら、その力を嫉妬して奪ってしまえばいい。あいつにしたのと同じように!)
インウィディアは自身の勝利を確信し、ニヤリと笑みを浮かべ、『嫉妬』の力をザキに向け使用した。
――『死ね』『死んでくれ』『死ね』『死ね』『殺す』『『死ね』『死ね』『死ね』『死んじゃえ』『死ね』『死ね』『死んでくれ』『死ね』『死ね』『殺す』『『死ね』『死ね』『死ね』『死ね』『死ね』『死ね』『死んでくれ』『死ね』『死ね』『殺す』『『死ね』『死ね』『死ね』『死ねよ』『死ね』『死ね』『死んでくれ』『死ね』『死ね』『殺す』『『死ね』『死ね』『死ね』『死ねぇ』『死のう』
直後、インウィディアをあり得ないほどの『死』への恐怖が襲う。インウィディアの脳内に絶えず叫び続ける「死ね」という無数の声。
「な、なんだ、これはぁ!?」
そして、インウィディアが侵されたのは精神だけではない。脳内に呼びかける声に呼応するように、身体にも文字がびっしりと刻まれていく。その文字は、ザキが懺悔のために自らの身体に彫った死人の名前であった。
「ああああああああ!? 嫌だぁぁぁ!? 死なせて、死なせてくれぇぇぇぇ!!?」
インウィディアの精神は一瞬で崩壊していた。ザキが常日頃抱えている『後悔』と『死への恐怖』。あまりにも大きすぎるその絶望的感情に耐えきれなかったインウィディアは⋯⋯。
自分で自分の身体を裂き、自死していた。
ザキは、涙を流して絶命するインウィディアを一瞥すると、その亡骸に銃弾を撃ち込み、粉みじんに破壊した。
「勝手に死なないでくださいよ⋯⋯。まだ生きている私が馬鹿みたいじゃないですか」
ザキが浮かべるのは、失望の表情。インウィディアが自死した理由は分かっていなかったが、自死という行為自体がザキにとってはあり得ないものであった。何故なら、彼女は死ねないから。決して死にたくないから。
「魔将がこれ以外に来ている可能性は高いですよね。ユウが心配です⋯⋯。早く助けないと⋯⋯」
ザキは、インウィディアを倒した余韻に浸る暇もなく、再び走り出す。その足首には、新たにトムの名前が刻まれていたのであった。
次回はドクちゃんが頑張ります。




