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火急

新年初投稿となります。今年もよろしくお願いします。

「このオネエ口調、間違いない。外見も忍者とラビから聞いていた情報と合致する。アンタ、『色欲魔将』ルクスリアだね?」


「うふふ♡ 正解よ~ん。私のことを知ってくれるなんて嬉しいわ。そして⋯⋯そっちの子はどうしてさっきから熱い視線を向けてるのかしらん?」


 ボクは思わず、自分の耳を疑った。ルクスリアの態度はあくまで初対面の相手に対するソレ。でも、そんなはずはない。ボクはこいつに捕まり、何かをされたせいで記憶を失ったのだから。その記憶だけはしっかりと残っている。


 だからこそ、無性に腹が立ってきた。


「⋯⋯覚えていませんか? ボクは、あなたに捕まって実験場に連れて行かれました。そのせいでボクのそれ以前の記憶はほとんど失われた。覚えてないとは言わせない!」


「そうカッカしないでよ。イライラはお肌の敵よ? それに、私は自分のモノには愛着湧くタイプなのよ。例えば⋯⋯そう、あなたたちのところに行ったエミちゃん。あの子なんかはお気に入りだったわ。あなたみたいな強くて可愛い子なら、絶対忘れないはずよ?」


 ルクスリアのその返答に、頭が混乱する。ボクの記憶が確かなら、ルクスリアに何かされたのは間違いないはずだ。しかし、それをルクスリアが否定する意図が分からない。それに、ルクスリアのこの態度は、嘘をついているようには思いにくかった。


「あれ⋯⋯?」


 その時、ボクは今まで気付かなかった自分の中での矛盾に初めて気付いた。そもそも、記憶を奪われているはずのボクが、何故都合良くルクスリアに襲われた時の記憶だけ残っているのだろうか?


「ぼーっとしてんじゃないよユウ! しっかりしな!」


 ラブの声がはっとボクを正気に戻す。するといつの間にか目の前にルクスリアが迫ってきている。咄嗟に身を翻して鞭の攻撃をかわす。事前情報であの鞭の攻撃を喰らうと精神汚染を受けることは知っている。あれだけはよけなければならない。


「こいつと何か因縁があるのは知ってるけれど、考え事は後にしな。じゃないと死ぬことになるよ」


「ありがとうございます!」


 こういう時、隣に冷静な仲間が居ると頼りになる。まだこの記憶の問題についてはモヤモヤとするところがあるけれど、今はこの戦いに集中することにしよう。


「あらら、ざんねん♡ その必死さ加減、私の鞭の秘密を知っているみたいね。あの忍者が伝えていたのかしら? つくづく有能な奴らね。ほんっと、ムカついちゃう」


「⋯⋯ひとまず、あなたへの追究は止めにします。倒してから、もう一度ゆっくりと話を聞かせて貰う! 『模倣(コピー)』、それに『貼り付け(ペースト)』!!」


 ポケットから取り出したのは、リズが遺してくれたエメラルド。この宝石の力をコピーし、自分の身体に貼り付けることで一時的なパワーアップが出来る。以前『憤怒魔将』イライザを倒した際にも使ったこの強化形態で、一気に勝負を決める。


「あら、何よそれ。魔力が多すぎて溢れちゃってるじゃない。⋯⋯え、マジなのこれ。こんなの聞いてないわよ」


 ボクの変化を見たルクスリアは顔を引きつらせていた。やはり、イライザも倒したこの力ならば、ルクスリアにも脅威を抱かせることが出来るようだ。


 しかし、この形態になると魔力消費が激しい。なるべく短時間で勝負を決めなければ⋯⋯。


「無理ね、これ。私無駄な戦いはしたくないのよ。また無茶して左腕まで機械になるのはご免だわ。そんなわけで⋯⋯じゃあね♡」


 ルクスリアの言っていることを理解出来なかったのは、これで2度目だ。そして、その言葉を頭の中で受け止める前に、ルクスリアはボク達の目の前から全速力で逃げ出していた。


「⋯⋯は?」


 勝てないから逃げる。成程合理的な考え方だろう。しかしながら、まさかわざわざアジトに侵入してきた敵がここに来て逃げの手段を選ぶとは想像出来なかった。


「ちっ、何て奴だい。追うよ、ユウ!」


 先に走り出したのはラブ。その後ろを、ボクも追いかけていく。ルクスリアの姿はもう見えない。ただ、魔力の残滓と検索(サーチ)の能力で、場所は特定出来る。その場所を随時ラブに報告しながら、全速力で走り続ける。


 ただ、やはりこの形態は魔力消費が激しい。こうして走っているだけでも凄く魔力が減っているのが分かる。魔力の減り具合も見越して逃走したというならばルクスリアは相当頭の回る相手だ。油断は出来ない。


「ラブ! ルクスリアが立ち止まりました。何か仕掛けてくるかもしれません。警戒してください」


「了解!」


 サーチの能力で、ルクスリアが通路の曲がり角付近で立ち止まったことが分かった。十中八九何か仕掛けてくるはずなので警戒を呼びかけつつ、魔力を集中させていく。


「待ってたわよお馬鹿さん達! 喰らいなさい、『何か勝手に弄られた機械の右腕パンチ』!!」


「はぁっ!! 『トパーズ・マズルカ』!!」


 上半身を大きく反らし、後ろ足で蹴り上げる宝石の一撃は、曲がり角から顔を出したルクスリアの脇腹を斬り裂いた。ルクスリアは精神支配こそ強力だが、やはり近接戦闘ではこちらに分がある。一気にトドメを刺すべく宝石の剣と化した足を振り上げたが、ここでふと、ルクスリアの右腕が消えていることに気が付いた。


「いったぁい!? で、でも作戦は上手くいったみたいね。機械で出来た腕も意外に役に立つじゃない。人間のアニメを見て勉強したかいがあったわ」


 ルクスリアの右腕は、パンチと同時にジェット噴射で放たれていた。そしてその先に居たのは、ラブ。


「くっ、しまっ⋯⋯ユウ、逃げな!」


 機械の腕であっても、ルクスリアの魔術はしっかりと発動し、ラブに精神支配をかける。ラブは脳に直接回復魔術をかけることで完全に意識を乗っ取られることはなかったが、それでも身体は自由に動かせなくなっていた。


 ラブが警告してくれたおかげで背後からのラブの拳は回避することが出来た。しかしながら、これで一気に形成は逆転してしまった。


「逃げるってのはやっぱり1番いい作戦よね。さあ、あなたもじわじわと追い詰めてみせるわ」


 先程までの逃げっぷりはどこへやら、一転して余裕に舌なめずりまでしてみせるルクスリア。⋯⋯やはりこいつはあなどることは出来ない。魔力消費が不安な中、ボクはもう一度気合いを入れ直しルクスリアを正面から睨み付けるのであった。


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