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強火

「やるじゃないエミ。さっきのはなかなかいい蹴りだったわよ」


「ありがとうございます! でも、あんまり効いてる感じしないです。きっとすぐ立ち上がります」


 グラルートへ放った渾身の蹴りは、自分でも上手く決まったと思う。ただ、あまりダメージを与えた感じはしなかった。


 そしてその直感通り、グラルートはすぐに起き上がってくる。ふらついているような様子もなく、蹴りを入れた顔面に血も付いてない。全くの無傷であった。


「⋯⋯驚いたぞ。まさか、我を地に倒すとはな。正直、貴様達のことを少し舐めていた。これからは、少々本気を出す」


 そう言って、グラルートは腹に腕を突き刺す。一体何のつもりかと思えば、腹に開けた口の中から見たことのある大剣を取り出していた。


 あれは⋯⋯そう、九州で遭遇した時背負っていた大剣だ。どうやら普段はああやって、自分の体内に格納しているらしい。


 そして、この剣を手に取ったということは、どうやら言葉通り本気を出すようだ。逆に言えばこれまでは本気ではなかったということでなかなかショックだが、ここに来て引き下がれるはずもない。


「この剣を使うのはいつぶりだろうか。貴様ら、我が『食事(けん)』にその命調理されること、誇りに思うがよい」


「いや、『食事券』って駄洒落じゃん。その名前、ダサくない?」


「え、言っちゃうんですかそれ。私も同じこと思いましたけれど!?」


 もうドクさんのメンタルは尊敬を通り越して恐れさえ覚えるレベルだ。しかし、そのストレート過ぎる毒舌にも一切動じることなく、グラルートは大剣を構える。


「罵声暴言大いに結構⋯⋯! 我が剣を馬鹿にした者はすべからく一刀両断に斬り裂いてきた。喰らえ、食事剣壱ノ皿、『空揚(からあげ)』!!」


 踏み込みと同時にグラルートは大剣を地面から天へ向け斬りあげる。たった一歩の踏み込みで間合まで詰められたが、何とかその斬り上げは回避に成功した。


――ジュワッ


 しかし、直後に聞こえる異音。それは例えるなら、揚げ物を揚げた時のような音だった。そしてその異音と共に、目の前の空気の一部が可視化出来るほど膨張し膨れあがる。


「熱いっ!?」


 焼けるような痛みが腕を襲う。何が起こったのか、何をされたのか理解が追いつかないうちに、グラルートは追撃をしかけてくる。


「何ぼさっとしてんのよ!」


 再び襲ってきた斬撃は、ドクさんが私の身体を蹴飛ばしてくれたことで何とか回避できた。しかし、またしてもあのジュワッという異音が聞こえる。危ないと思った時には、ドクさんの右足に焼けただれたような痕が刻まれていた。


「ちっ! その剣厄介ね。摩擦熱で空気を膨張させて斬撃として飛ばしてるとかそういうタネかしら?」


「⋯⋯先程の一瞬で我が剣技(レシピ)の秘密を見破るか。流石我が妻。その通り、我が『食事剣』はあらゆるモノを調理する至高の剣。先程は空気を『揚げ』、それを貴様らにぶつけたのだ。そして、我が剣技はこれだけではないぞ。喰らえ弐ノ皿、『半場熱区(ハンバーグ)』!!」


 グラルートが大上段から振り下ろした一撃は、まるで空間そのモノを2分するかの如く、地面や壁を斬り裂く。さらにその切断面は熱によって赤変し、グツグツと煮えたぎったマグマのようだ。


 そしてこの一撃により私とドクさんは分断されてしまう。恐らくこれがグラルートの狙いなのだろう。グラルートは私を無視し、ドクさんに接近していた。


「ドクさん!」


 即座に助太刀に入ろうとしたが、切断面から吹き出すマグマらしき液体が邪魔してくる。こんな熱々のハンバーグじゃ誰も食べられない。


「さあ、まずは我が妻! 貴様を調理してやろう!! 参ノ皿、『断他(タツタ)(あげ)』!!」


 グラルートが力強く大剣を振るう。ドクさんは咄嗟に化粧道具を構えて攻撃を防ごうとしたが、グラルートは化粧箱ごとドクさんの腕を一太刀で切断する。


――ジュワッ!


 さらに、追い打ちとばかりに鳴り響く異音。グラルートはたった一太刀で、切断されたドクさんの腕と化粧箱を超高温で揚げてしまった。


「うむ、美味である」


「クソっ、たれぇ⋯⋯!!」


 しかも、ドクさんの目の前でその腕を食べるといういかれっぷりだ。この行為には流石のドクさんも顔を歪めている。


「これ以上ドクさんに手を出すな!」


 その様子を見て、流石に私も我慢できなくなった。切断面を乗り越えた時に肉が焼ける感覚があったが問題ない。腕を切断され揚げられたドクさんの痛みの方が何倍も上だ。


「⋯⋯貴様、我と妻の逢瀬を邪魔するのは許さんぞ」


 はっと気付いた時には、既に遅かった。いつの間にかすぐ近くまで接近していたグラルートが剣をくるっと回転させる。その瞬間、私は全く呼吸が出来なくなった。


「貴様の周囲の空気を斬り裂き、そして喰った。これぞ我が剣技肆ノ皿、『捨息(ステーキ)』。⋯⋯しばらく眠っていろ。後で殺す」


 呼吸をする為の空気を食われ、朦朧とした状態ではグラルートの蹴りを回避する余裕は全くなかった。


 壁に激突し、激しい痛みに意識が暗転する。そして⋯⋯目が覚めた時、そこにはグラルートとドクさん、どちらの姿もなかったのであった。


ドクの消息が気になるかと思いますが、次回は視点変わり、ユウ&ラブvsルクスリアとなります。

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