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火廻

「羨ましい、妬ましい⋯⋯! 恵まれた奴を見ると気が狂いそうになる⋯⋯! でも、そういったマイナスの感情が、僕を強くしてくれるんだ」


 トムは、対峙するインウィディアの雰囲気が変わったのを肌で感じた。見た目の変化こそないが、威圧感が段違いに上昇している。


 そして、トムのその予感は的中し、最悪な形となって顕現する。


「くしし! 嫉妬の力で裏返れ、僕を侮辱する奴に報いをお与えろ!! 『報裏意嫉妬(ホーリーシット)』!!」


 インウィディアは自分の尻尾と胴体の付け根部分に手を当て、勢いよく皮を剥いだ。すると、その動きに呼応するように、インウィディアの背後に突如生えてきたのは巨大な木。さらには木になる巨峰の実。


 それは、トムがインウィディアに対して行った攻撃そっくりそのままであった。まさか自分の攻撃を返されることになるとは思わず動揺するトムだったが、その威力は自分自身がよく知っている。とっさに目の前に木を生やし、それを壁にして何とかダメージを回避する。


「おいおい、まさか『嫉妬』の能力って俺の力のモノマネするだけかよ。偽物は本物に勝てねぇって学校で教わらなかったか?」


「くししっ! ならお前が偽物になれば、勝つのは僕ってことだよねぇ? その力はもう僕のものだ⋯⋯『同担拒否(モノシィズム)』」


 くししっと不気味な笑みと共に、インウィディアは掌から小さな蛇を数体出現させる。その蛇は地面を素早い動きで這い、トムへと接近していく。


「ちっ、こんなのにやられるかよ!」


 トムは、近づいて来た蛇を竹竿で殴り飛ばす。しかし、蛇は竹竿に当たった瞬間破裂し、その血肉をトムの身体へと浴びせた。


「ぐはぁっ!? な、なんだこれは!?」


 蛇の血肉を浴びた箇所が、火傷の跡のようにただれていく。トムはとっさに地面に手をつき、毒消しの効果がある薬草を生やして患部に直接塗るも、痛みは治まらなかった。


「くしし! それは毒じゃないよ。僕のかけた嫉妬の呪いさ。これでお前はもう、僕の真似した技は使うことが出来ない。⋯⋯試しに、さっきと同じ木を生やしてみたらどうだい?」


 そんな馬鹿なと慌てて能力を使うも、インウィディアの言った通り葡萄の木を生やすことは出来なかった。ただ、先程薬草を生やすことが出来たことから予測するに、トムの持つ固有能力である『植物の種を生成し、成長を促進させる』力そのものは失われてはいないようだ。


「⋯⋯はっ! だからどうしたって言うんだ。能力そのものを封じられたんじゃねぇなら、まだ戦いようはいくらでもあるぜ」


「くしし。ま、まあ確かにその通りさ。⋯⋯ただ、お前が使えば使うほど、僕の嫉妬は高まり、お前の力は封じられていく。お前は果たして、いつまで僕に嫉妬させてくれるかなぁ?」


 インウィディアは再びいやらしい笑みを浮かべると、さっき嫉妬で模倣し生やした木から魔力弾と共に蛇を発射してきた。今度の蛇は、見た目から毒々しく、噛まれたら危険だと本能が訴えてきていた。しかも、先程毒消しの薬草を生やすところはインウィディアに見せてしまったため、これも封じられると考えた方がいいだろう。なおさらあの毒蛇に噛まれる訳にはいかない。


「ちっ!!」


 本当はこれ以上能力を使いたくはないが、トム自身の身体能力はあまり高くないので、竹竿を振り回すだけでは防御が間に合わない。仕方なく朝顔のツルを能力で生やし、壁にして攻撃を防ぐ。


「それもいいなぁ! 僕のものだぁ!!!」


 朝顔の蔓に蛇が巻き付くと同時に、能力による操作が受け付けなくなったことを感じる。先程は見栄を張ったが、戦いが長引けば長引くほどこちらが不利になるのは確実だろう。


 どうすれば目の前の相手に勝つことが出来るか。時間稼ぎのために雑草の種をあたりにまき散らしながら、トムは必死に考える。


「なんだこの草、鬱陶しいなぁ!?」


 雑草は狙い通りインウィディアの尻尾に絡み付き、その動きを阻害してくれている。しかし、あれも少しすれば嫉妬で模倣され、今度は自分に牙を剥くことになるだろう。


「⋯⋯最大火力をぶつけて、一撃で倒すしかねぇな」


 数秒の思考の末に、トムが出した結論はそれだった。ただ、もしその一撃で倒すことが出来なければ、恐らくもう勝ち目はない。


 トムの出せる最大火力⋯⋯それを叩き込むには、充分な準備が必要だ。また、栄養を一気に吸い上げ成長させる必要があるので、準備の間は他の植物を地面から生やすことは出来ない。


「俺の身体、もってくれよ⋯⋯! 『植物人間(プラント・ドーピング)』!!」


 そこでトムは、自分の体内で植物を生やし、それに能力で指示を出し操ることで、擬似的に身体能力を上げてインウィディアの猛攻に耐えることを決めた。植物の根を筋肉繊維1本1本に絡ませ操ることで、本来出来ないような動きも可能にするこの技は、使用後の疲労が激しいため普段は滅多に使わない奥の手だ。


「⋯⋯急に動きが良くなったな。何かしてるのか?」


 そして、この技の良いところは、植物が生えているのが体内なので能力の使用に気付かれにくいところだ。とはいえ、急に動きがよくなったことで怪しまれているため、看破され模倣されるのも時間の問題だろう。だから、気付かれる前に最大火力の奥義の準備を終わらせる。


「くしし! ()が分かったぞ! その技も嫉妬してやる!!」


 インウィディアがこちらに腕を伸ばした瞬間、身体にかかっていたブーストが切れる。奥の手も使えなくなってしまった。しかし、時間は充分に稼ぐことが出来た。


「男の嫉妬はジメジメしてて見苦しいなぁ、おい! そんなお前は、この太陽で焼き払ってやるよ!!」


 疲労が激しい身体を無理矢理動かし、トムは全ての栄養を地下深くに埋めていた種へと注ぎ込む。そしてその種はトムの背後でみるみるうちに大きく成長し、そして⋯⋯大輪の花を咲かせた。


「死んで輪廻の環の一部になりな。――放て、『火廻(ひまわり)』!!」


 地中の栄養を全て注ぎ込み咲かせた異界に咲くヒマワリの花は、その中心から灼熱の光線を放ち、照らされたモノ全てを焼き尽くす。


「ぐわあああぁぁぁぁ!!?」


 そして、その光線を真正面から喰らってしまったインウィディアは、文字通り燃えるような痛みに悶絶し、悲鳴を上げる。


「はぁ、はぁ⋯⋯。頼むからこれで死んでくれよ」


 祈るようにそう呟くトムは既に満身創痍。もうろくに動くことすら出来ない状態である。


 やがて、ヒマワリは光線を吐きつくして枯れ、種を地面に落としていく。このヒマワリが開花と同時に熱光線を放つのは、高温により種を活性化させ、子孫を残すため。活性化された種は羽根を生やしどこかへと飛んでいくが、今のトムにはその種を追う体力はない。


 しかし、その種に向かい炎の中からしゅるっと何かが飛びつき、巻き付いてまた炎の中へと消える。そして直後、炎を払い姿を現したのは⋯⋯身体が一回り大きくなったインウィディアだった。


「ああ、熱い熱い熱い!! お、お前は絶対に⋯⋯絶対にぃぃぃ!! 殺してやるぅぅぅ!!!」


 怒りに吠えるインウィディアの傍には、蛇の皮のようなモノが黒焦げになって置かれていた。おそらく、あの皮で炎を防ぎ、脱皮することでダメージを帳消しにしたのだろう。


「はは⋯⋯なんてバケモンだよ」


 思わず口から乾いた笑いが漏れる。奥義は防がれ、さらに種も奪われたなら土の栄養さえ戻ればあの攻撃を模倣され、確実に自分は焼け死ぬだろう。そうでなくとも、脱皮して一回り大きくなったインウィディアに勝つビジョンが見えない。


 それでもトムは、軋む身体に鞭を打ち、竹竿を杖にして立ち上がる。もし自分がここで死ねば、住居エリアで避難している多くの人間が犠牲になる。それだけは避けなければならないことだ。


「さあかかってこいバケモノ。おっさんともう少し遊ぼうじゃねぇか」


 どんなに絶望的な状況でも、男には戦わなければならない時がある。もう二度と、自分の妻と娘のような罪のない命を失わせるわけにはいかない。


 竹竿がしなり、鮮血が飛ぶ。決着が着いたのは、僅か数秒後のことであった。


次回からは暴食魔将グラルートvsドク&エミ戦となります。

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